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第三次サウナブームを振り返る【2022】

もうまもなく2022年が終わろうとしています。パンデミックに翻弄されてきた3年間は、国内にサウナの波を巻き起こす3年でもありました。平成と令和の社会情勢は全く異なる様相を呈し、令和のサウナシーンがどんなものなのかを決定づける、その指針となったのが2022年の年ではないでしょうか。

年始に「2022年・サウナトレンド大予測」を執筆しましたが、1年前に予測した内容の答え合わせをしていきます。まるで予測もつかないような2022年でしたが、いざ終わってみるとおおよその指針も見えてきました。年の瀬にサウナトレンドを振り返り、新年を迎える心の準備に取り掛かりましょう。

全国的に「ソロサウナ」が急増した2022年

2022年のサウナシーンを振り返る時に、まず思い当たるのはこの話題でしょう。「ソロサウナ専門店」の急増。当時から開業予定情報を得ていたため、都市部での急拡大は予測していましたが、全国への波及までは予測出来ていませんでした。個室サウナの新たな業態拡大が目立つ1年になりました。

参考までに全国にあるソロサウナ専門店をリストにしました。「完全貸切」「市街地の屋内型」は対象、「宿泊型」や「屋外サウナ」は対象外としております。2022年は全国各地にソロサウナが誕生しており、東京とほぼ同数規模に迫る勢いです。この点は冷静になり、トレンドを読み解きたいですね。

「温浴施設」の在り方にも変化がみられた一年

急増したのはソロサウナ専門店のみではありません。浴槽を削り、オープン客を受け入れる「小規模サウナ施設」も数多く現れました。東京では『ROOFTOP』『サウナリウム高円寺』『サウナランド浅草』が、地方では『毎日サウナ』『サーマルクライムスタジオ富士』などが登場します。

そして2022年12月。これまでになかった新しい思想のサウナ施設として『渋谷SAUNAS』が誕生しました。海外の施設体験を彷彿とさせるような、サウナコンテンツを大充実させた環境。従来型の温浴施設に慣れているユーザーは戸惑うかもしれませんが、思い切ったチャレンジが話題性を創出します。

スパメッツァおおたか』や『PARADISE』など、サウナとしての話題性はもちろんですが、受付に来場した際のスマート決済や予約システム、柔軟な料金体系を設定する施設も登場し、温浴業界の在り方に一石を投じる仕組みが具現化した一年でもありました。『堀田湯』や『SAUNA FUJIMI』『新岐阜サウナ』など、旧施設が大胆に生まれ変わるアウトプットも目立ちました。

しかしながらパンデミックと紛争の影響により急激な物価高と資材高騰、エネルギー価格の暴落がサウナ業界に暗い影を落とします。今年もいくつかの温浴施設が閉店に見舞われ、入館料金を値上げする施設が相次ぎました。サウナブームの盛り上がりの裏には、極めて厳しい事業者の状況があります。

事業性を問う「アウフグース」「ウィスキング」

事業者としては、1回あたりのユーザー単価を上げていくことを自ずと考えさせられるのではないでしょうか。その突破口の一つとして、サウナ付帯のサービスである「アウフグース」と「ウィスキング」が業界の先進領域として話題になりました。この2つについては年始の予想から、概ね想像通りの展開になったのではないかと考えます。

日本初開催となったアウフグース世界大会予選。多くのアウフギーサーが活躍し、施設でタオルを仰ぐアウフギーサーが全国各地の施設、イベントに声がかかることも珍しくなくなりました。つまり、温浴施設のスタッフにスポットライトが当たり、彼らが主役になりうる可能性を示したのが2022年という年でした。大会誘致自体は、成功裏に終わったのではないでしょうか。

ウィスキングについては2022年下半期、日本サウナスパ協会主催の「認定資格」リリースが予告され、アウフグースのような大会は現状ないものの、2023年にはウィスキングを施術できるスタッフが数多く増えることが予測されます。ウィスキングの可能性を期待する声もこの1年で急増しましたね。

しかしながら「アウフグース」と「ウィスキング」含む付帯サービスが、事業に対してどのようなインパクトをもたらすのかは冷静に判断しなくてはなりません。それぞれの技術研鑽には多大なるリソースがかかりますし、判断によっては食事やノベルティに力を入れた方が、単価増に繋がる可能性もゼロではありません。この厳しい市況下、今あるリソースは有限ですから…

サウナ市場に携わる「人材」こそが資産である

温浴施設のスタッフにスポットライトが当たった年であると書きましたが、裏を返すと、どのような人が携わっているかによって施設が選ばれる時代の到来であるとも言えます。事業者における最大の資産は人であり、以下の記事においても、人材にコストをかける重要性について触れられています。

ソロサウナ専門店などサウナ施設で働く間口は拡大しました。さらに視野を広げるとサウナイベントやノベルティ販売、PRでサウナ市場に携わる方も増えています。「サウナ施設で働きたい」「サウナを仕事にしたい」と口にする知人も明らかに増えましたし、キャリアの在り方にも変化が見られます。

「SNS運用」そのものが事業戦略に直結してきた

サウナ市場における人材流動性は、SNSの活用法にも変化をもたらします。例えばTwitterのDMを通じてサウナ施設で働くことが決まった、さらにはInstagramの投稿で施設の中の人に興味を持ち、その人目当てに足を運ぶ。SNSは施設PRのみならず、リクルーティングの役割も担うようになります。

年始に「フォロワーの数ではなく、中の人の透明性が大事」と書きましたが、その流れはより確固たるものになったと考えています。今年は集客目的のWeb広告やPR記事などがタイムライン上で急増しました。ハードを主とした新情報が世に溢れ、いまや情報の取捨選択が行われていると推察します。

別の機会でnoteにまとめられたらと思いますが、筆者はタイムラインに流れてきたWeb広告をキャプチャし、100以上の事例を保存してきました。これらにざっと目を通すと、「ととのう」というワードを中心に情報過多が加速しているなと… マーケティング用語で言うと "フリークエンシー過多" です。

施設の差別化も難しくなってきているのに、新規集客さえ差別化が容易でなくなっているサウナ市場です。既存ユーザーの目も肥えてきており、施設のスペックよりも中の人に関心がシフトしていることが推測されます。SNS運用=事業戦略そのものに直結する、と考える方がスマートかもしれません。

新たな局面を迎えた「企業」とサウナの関係性

Web広告やPR記事が急増したということは「企業 × サウナ」の事例も増えてきたということ。年始に「企業 × サウナ」の取り組みが本格化すると書きましたが、結果その通りになったように感じております。筆者が認識している範囲では、タイアップ事例が追いきれなくなるほどの規模になりました…

企業活動と言えば『LUOVA SAUNA』を中心に、ワークスペースとサウナの親和性を取り上げるビジネス情報が拡散しました。経営陣の中でサウナに対する理解を示す企業も急増しており、今後はタイアップのみならず、オフィスサウナなど福利厚生面にも変革が起こる可能性が高いと考えております。

大手資本の「サウナ出資」はデベロッパー主体に

大手資本による出資事例が活況になると年始に書きましたが、こちらは未だ緩やかに伸長しているという結果になりました。しかしながら、先述した『渋谷SAUNAS』は東急不動産が、『HUBHUB』は三井不動産が大型出資を行うなど、個人投資家よりもデベロッパーの動きが表面化した一年でした。

温浴施設では『スパメッツァ おおたか』や、来春には『テルマー湯 西麻布』が開業予定、公共施設では『エスコンフィールド ボールパーク』など、大手資本によるサウナ出資事例がまだまだ続くことが予測されます。その動きは緩やかと言えど、世に大きな話題をもたらすのは間違いないでしょう。

百貨店が牽引した「イベント × サウナ」の事例

「イベント × サウナ」について、百貨店の催事事例は倍以上に増えると予測しましたが、その通りの結果になりました。『伊勢丹サウナ館』『サウナマルシェ』『北海道のサウナ展』『サ展』『サウナ愛。展』『サ道 POP UP CARAVAN』『全国サウナ物産展』『スークサウナー』『サウナグラデーション』など多岐に渡ります。『サ謎?』という企画イベントも行われました。

屋外型サウナイベントも『サウナタウン下北沢』『サウナの街サっぽろ』や『LAMP FES 2022』『YAMABIKO サウナヴィレッジ』を皮切りに、全国各地でアウトドアサウナイベントが復活してきています。しかしながら許認可関連のハードルが高いため、サウナフェスは緩やかに拡大すると予測します。

許認可関連と言えば、2022年11月に「サウナ振興を目指す議員連盟」が発足され、サウナ業法に関する規制緩和策などを検討するということです。サウナを企画する事業者にとっては追い風となるニュースですので、サウナ室の規定や混浴ルールの見直しなど、更なるアップデートに期待したいですね。

日本は「サウナグッズ」大国の地位を築いていく

百貨店と連動した展開になりましたが「サウナグッズ」のブランドは続々と増えました。市場が拡大するにつれてジャンルが細分化されていき、「サウナハット」や「サウナアパレル」に特化した催事なども行われていくようになりました。この流れは今後も加速の一途をたどることが予測されます。

したがって、いずれサウナグッズが供給過多となるのはまだまだ先の展開になりそうです。そしていま現時点で日本のサウナグッズ市場は、世界からみても異例に映るかもしれません。日本ほどサウナグッズが存在する国は珍しいため、サウナグッズ大国=日本として国際的に広まる可能性があります。

「家庭用サウナ」の在り方を見直す商品の登場

サウナグッズが増える一方、海外に比べて家庭用サウナの普及が少ないのが日本の特徴です。これは日本はバスタブ文化で、海外ではシャワーが一般的に普及していることの裏返しでもありますが、日本の場合は家庭用サウナを導入する際に消防法の基準と電気工事、コスト面のハードルがあります。

そして家庭用サウナの導入を進めるメーカーも限られています。したがって、日本で家庭用サウナの普及を広めていくには、まだまだ草の根活動が求められるのが現状です。少なく見積もっても数年単位の時間が必要かな…と考えていましたが、しかし常識を覆すようなプレーヤーも現れました。

こちらの記事でも紹介したのですが『IESAUNA』は今後ゲームチェンジャーとしてブレイクするポテンシャルがあります。マンションでも煙が発生しない仕組みの導入と、初期工事の手間を省いた魅力的な商品で、価格も一般的なテントサウナの相場そのもの。これは思わず購入したい…と感じました。

私も家庭用サウナの経験があるのですが、初期の設備投資以上にまずは既成事実を作ることが大切です。家庭用サウナっていざ所有してみても、結局は外来施設と掛け持ちで入る機会も少なくないですし、まずは低コストでIESAUNAを購入し、それから最適な投資額を算出しても遅くはありません。

海外情勢に翻弄された「テントサウナ」市場

そしてテントサウナの話題に触れていきますが、2022年は紛争による影響で、輸入モデルに頼りきりだったテントサウナ市場は大打撃を受けることになります。もともと輸入モデルで市場が成り立っていることに筆者は一抹の危うさを感じていましたが、紛争が起こることは予測ができませんでした。

詳しくは上の記事を参照頂けたらと思いますが、輸入モデルで成り立っているメーカーは事業体の変更を余儀なくされ、今後は国産モデルへのシフトが緩やかに起こるでしょう。市場成立からたった3年で状況が激変していますが、流れの早いテントサウナ業界、新陳代謝の更なる発生が予測されます。

まだまだ埋まらない「海外サウナ」との隔たり

年始の記事では「海外のサウナ体験を知っているかどうか」が成否の一要因であると書きました。その想いは変わるどころか、むしろ確信を深めています。2022年は一部で海外渡航および受け入れが解禁され、筆者も一度だけ海外に渡航をしました。しかしそこで感じたのは、日本と海外の隔たりです。

2022年フィンランド渡航記がZINEとして発売されていますが、日本ではフィンランドサウナの本質がまだまだ世に知られていません。アウフグースやウィスキングなど海外文化の輸入が活発化していますが、まだまだ日本で知られていないことも沢山ある。こういった断絶も日本の課題と考えています。

サ旅候補激戦区となった「地方サウナ」の現在地

「地方×サウナ」については今年2つの記事を書きまして、そこで詳しく地方サウナの考え方を取り上げていますので、そちらを見ていただけたらと思っております。そして2022年を終えてみて感じることは、全国各地で新規のサウナ情報が急増し、ユーザーからみても、情報過多気味な現状があります。

地方のサウナ集客では外来のサ旅客と地元常連客、どちらも対象とすべしというのが筆者の考えですが、地方は都市部に比べて坪単価が安く、初期投資も幾ばくか抑えられる。サウナ開業でスモールスタートをするなら地方というのは合理的な考え方で、それらのメリットはより伝えていきたいですね。

また、外来のサ旅ニーズについてはヤフー株式会社が提供している『DATA SOLUTION』での研究結果が大変興味深かったです。法人の方はこちらからDLができるようですが、最小限の投資でサウナが生きた集客ツールとなるのは、実は宿泊×貸切のニーズですね。これはまた別の機会に取り上げます。

サウナを運営するということの「本質」を知る

ただし地方でサウナ開業をすることが、必ずしもイージーではないということは補足させてください。むしろ、サウナ事業単体で利益を上げるのは難しいと言っていい。対外的には上手くいっていると映りそうなサウナオーナー達も揃って、サウナ事業単体で運営することの難しさを証言されています。

ソロサウナや小規模サウナだから運営が容易そうだとか、都市部だから集客が見込めるだとか「これなら自分もできそう」という印象でサウナ運営を語ることはできません。うちにしかない強みがあるから他と差別化できるという自社視点の話でさえ、市場では通用しません。顧客不在が問題なんです。

年始は「ストーリーテリング」を差別化要素の一つとして紹介しましたが、2022年を終えてみて、差別化以前にそもそも見込顧客が不在であることが事業者側のイシューであると気付きました。顧客も人ですし運営する側も人。「人は人でしか癒されない」という言葉の重みを感じずにはいられません。

最後に

サウナブーム(実態はブームらしきもの)により、結果的に全国各地で新しいサウナが次々に誕生しました。しかし各サウナの発信実態を見ていくと、あるサウナでは富裕層向けに偏り、あるサウナはコストカットに振り切り、極端な傾向が顕著になっていると映りました。そこから一つ言えるのは、市場が多様性を受け入れる余裕がなくなってきているかも…と感じました。

そのような市況下、2022年末に放映された『ドラマサ道 ~2022年冬~』内で紹介されたメッセージは、サウナが存在することの本質的意義を問いかけられるかのようでした。TVerで見逃し配信を閲覧することができますが、筆者の胸に突き刺さったメッセージを、以下引用として紹介いたします。

『サウナの入り方が人によって違うように、幸せのカタチも人それぞれ。正解なんて存在しない。どんな人にもどんな場所にいても、ささやかな幸せはきっと見つかる。それさえあれば今日も生きていける。きっと明日も頑張れる』 『そんな小さな幸せがひとりでも多くの人のもとに訪れますように』

厳しい社会情勢が社会システムの変化をもたらし、いつしか格差と分断が目立つ世の中になってしまったのかもしれません。しかしサウナというのは本来ステレオタイプに収まらないものとして、古来から人々の心の傍らに存在してきたのではないでしょうか。その本分を損なうことがないよう、筆者も常に自問自答しながら、引き続きサウナ市場の変化と向き合っていきます。

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