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サウナトレンド大予測【2022】

新年明けましておめでとうございます。大晦日をサウナで過ごされた方、カウントダウン熱波で年越しを迎えられた方、そして初詣など気にも留めず、一番風呂でサウナへ向かわれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

昨年は大変な活況を見せたサウナシーンでしたが、本年も負けず劣らず、業界を席巻しかねないビッグニュースが次々現れそうな予感がします…

上のような業界マップをまとめてみたのですが、たった3ヶ月で勢力図が急変してしまったジャンルも。業界構造そのものの変化が激しく、コロナの結末も読めないことから、先の予測を立てることが本当に難しくなりました。

激動だった2021年をまず振り返る

そもそも2021年単体で振り返ってみても、言葉を失うほど凄まじい勢いで、サウナブームが拡大していきました。筆者はサウナ好きとなって5年目になるのですが、「もっとも激しかった」1年であったのは間違いありません。

2021年の初めをまず振り返ると『SAUNA BROS.』という専門雑誌の登場が印象的でした。過去にもサウナ専門誌が年に2,3冊出るかどうかというほどでしたが、『SAUNA BROS.』を皮切りに様々なサウナ専門誌が発刊されました。

思い当たるだけでも『サウナランド』『サウナ for ビギナーズ』『Coyote』『Saunner+』『ベストサウナ』『日経トレンディ』『SAUNA LIFE』など。これほどまでサウナ専門誌が発刊された年が、かつてあったでしょうか?

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今やサウナに特化した書籍ブースも珍しくなくなり、サウナに関心がなかった一般の方も目に触れる機会も多くなりましたね。もともとテレビでの露出事例はありましたが、2021年は紙媒体での情報流通が目立った年でしたね。

その一方、昨年は東京五輪という国際イベントが催されたこともあり、多くの人が集まる商業イベントは、全体的に控え目だったかと思います。しかしながら、半年以上催された『チームラボサウナ』の取組みは規格外でした。

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筆者はたまたま『チームラボサウナ』の広告を街で見かけたのですが、「サウナの巨大広告を目にする時代が来るとは…」と驚愕しました。凡人なら気が遠くなるほどの圧倒的規模で『チームラボサウナ』は開催されたのです。

そもそも「サウナ室が8つもある」屋外型イベント自体、国際的にもあまり類を見ない事例でしょうし、なによりサウナとアートのハイブリッドな体験提供に挑んだという事実こそが先鋭的で、パンデミックでやや注目が薄れた印象はありますが、のちのち語り継がれる好例になるかもしれませんね。

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商業イベントといえば「百貨店 × サウナ」の企画が各地で催されるように。『全国サウナ物産展 × 東急ハンズ』を皮切りに、『サウナマルシェ × PARCO』『サウナランド × 横浜高島屋』『スークサウナ × 梅田阪急』など。そして手前味噌ですが『わたしとサウナ × 博多阪急』を開催しました。

筆者が店頭に立って驚いたのですが、来場者の方々が真剣なまなざしで、商品を手に取り、買い物カゴを一杯にしながらレジの列に並ぶ画は衝撃的でした。その様はまさに「爆買い」と言ってもよく、需要の凄さを感じました…

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首都圏では従来と異なる、新たな形態のサウナ施設がリリースされるようになりました。2020年末の『ソロサウナtune』に続く形で『The錦糸町』『サウナラボ神田』『LOYLYLAND』『恵比寿サウナー』『暖力』が登場します。

コロナ前は『ドシー恵比寿』や『かるまる』が新業態として開業し、昨年は『ゆいる』や『ROOFTOP』など、温浴の常識を覆す施設も登場しましたが、感染拡大や密防止を目的とした個室型サウナの需要が、特に急増しました。

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こちらは『ソロサウナtune』の直近予約状況ですが、見事に「✖」の文字で埋め尽くされております。昨年は個室サウナを押さえようと、各施設の予約ページを巡った結果、希望枠が全滅ということも珍しくありませんでした。

個室サウナに輪をかけて熾烈な盛り上がりを見せたのが、「有名施設によるレディースデー」の取り組みです。筆者にはサウナ女子が知人にいるのですが、予約開始から秒で枠が埋まる経験談を耳にしては驚愕するばかりです…

プライベート需要は施設だけでなく「アウトドアサウナ」にも急激な変化をもたらしました。上の記事は少し前に執筆したものですが、市場の新陳代謝が本当に早く、たった半年の時が流れただけで既に情報が古くなってます。

テントサウナは『TERMA』『NOPPA sauna』『MIMASAKA SAUNA』『Iam Sauna』『BEREG』『VOZMO』『totonoi』『Arctinar』等のモデルが登場しましたが、その全てを試すことすら容易でない時代がきてしまいましたね…

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首都圏から地方へ目を向けると、自然の利を活かした小規模サウナが数多く誕生しました。『Sea Sauna Shack(千葉)』『サウナ宝来州(新潟)』『THE GEEK(北海道)』『KURA SAUNA(茨城)』などが一例ですね。

もともと『The Sauna』が先陣を切ってチャレンジしていた領域ですが、今年は"小規模サウナ元年"と言えるほどに、全国各地で次々とサウナが誕生しました。それに伴い、サウナ目的の"サ旅"も行われるようになります。

そして2021年の暮れ、その年の流行語大賞に「ととのう」がノミネートされるという驚きのニュースがありました。サウナ歴はまだまだ浅い筆者なのですが、いやはや隔世の感すらあるニュースだな…と個人的には感じました。

サウナ好きになった5年前、サウナ界隈はサブカルチャーの空気感をまだ漂わせていた頃で、サウナ好き同士の顔も見えていた時代でした。サウナ文化はいよいよ、ニッチから一般化へと向かう一大転換期を迎えたと言えます。

2022年のサウナトレンドを予測する

かつて日本のサウナブームは第三次まであったということですが、以前とは異なる形で、導入期から成長期のフェーズを迎えています。主な違いは「インターネットによる情報の透明性」と「パンデミック」。非連続的な社会情勢の変化により需要の予測が難しく、未知なる世界へ突入していきます。

しかしながら予測が難しいからこそ、本年は敢えて「サウナトレンドの予測」に挑戦してみることにします。エビデンスは全て現場で見たものからの逆算で、個人的観測を含むものになるため、時折ピントがずれた見立てをしてしまうかもしれません。素人の戯言としてご容赦頂けますと幸いです。

「企業 × サウナ」の取り組みが本格化

ここ数年でもいくつか先行事例が見られましたが、今年は「企業 × サウナ」の取り組みが本格化しそうな様相です。筆者の耳に届く噂レベルですが、予測もつかないほどの規模で問い合わせ~相談件数が増えている印象です。

以下、筆者が認識している主要事例をまとめてみました。イベント/ノベルティ/コンテンツ領域でのタイアップ事例が多くみられます。(協賛スポンサーのみだと膨大な事例数になるため、本項では割愛をさせてください)

【イベント】
CORONA WINTER SAUNA』『チームラボ&Tiktok リコネクト』『NIKKEI INNOVATIVE SAUNA』『NAKED NIGHT SAUNA』『フサ道ランド』『GALA meets SAUNA
【ノベルティ】
メディキュア 家サ活』『OWNDAYS サウナメガネ』『ペプシサウナ』『とどけ、しきじ。』『The Sauna × FREAK'S STORE』『神戸サウナ × VISSEL KOBE
【コンテンツ】
ととのったMAGAZINE』『歩いてサウナ』『のんあるサ飯』『サ旅シュラン

業種は飲料業界が目立ち、今後も飲料業界によるスポンサード事例は拡大傾向でしょう。その他には自動車や不動産など、これまで見られなかった業種からの参入があるかと考えます。協賛社数も倍規模で増えていく想定です。

他、リクルート社のCMにテントサウナが登場するなど、いわゆる"ナショナルクライアント"内でもサウナトレンドが広がり切った頃合いでしょう。今年あたりから実際に、具体的な企業活動に表れてくるのではないでしょうか。

投資家による「サウナ出資」が活況に

"具体的な企業活動"というワードを出しましたが、これまであまり例がなかった、大手資本による出資事例も増えていきそうです。筆者は法人投資家の方ともお会いする機会があったのですが、彼らも熱烈なサウナ好きで、いずれサウナ好きによる出資も有り得るだろうなぁ…と感じていました。

温浴施設向けDXとサウナ施設の開発を行うスタートアップ企業が、累計1.3億円の資金調達を行ったという報道がありました。出資者がサウナ好きか否かはさておき、回収が見えるという前提で投資が行われたということです。

また主旨は異なりますが、大手企業の会長自らが事業を興し、サウナチェーンを展開していくというニュースも。温浴の長い歴史の中では、大手企業が温浴事業を立ち上げた事例は過去にもあったかと思いますが、改めて大手企業のアセットを活用し、サウナ事業に進出するという時代が到来しました。

法人以外の個人投資家にもサウナ関心層が多い印象ですので、今後は法人個人問わず、投資家による出資や事業立上げの事例が拡大していくことが想定されます。温浴業界の市場規模は約1兆円と言われていますが、市場拡大の余地ありと判断されれば、出資へ至るケースも自ずと増えていくでしょう。

都市部における「個室サウナ」は激増する

投資家の話をしましたが、もともと資本力のある事業者達は既にサウナ施設の開業に向けて着々と動き出しています。筆者が公式非公式問わず認識しているだけでも、ものすごい数の個室サウナが都市部に建設されていきます。

医療関係やクリニック、フィットネスジムなどを都市部で運営している事業者などは、そもそも外部からの出資や補助金、融資などを受けなくとも自己資本で開業できてしまう前提があり、かつヘルスケア特化型の実店舗運営経験もあるなら、なおさら新規事業としてのサウナ開業を検討するでしょう。

開業もしくは開業予定のサウナを挙げるだけでも、ざっとこれだけの数があります。ソフト・ハード面で特別な工夫をしなくとも、主要な最寄り駅の生活圏内にいる層を対象とすれば、採算が見込めるということでしょうか。

個室サウナを訪れる方には「自宅にサウナを作りたいと考えたが、現状は難しいので個室サウナへ通いたい」が本音なのかもしれません。次の項で補足しますが、自宅サウナの状況次第で個室サウナの在り方も変わりそうです。

「自宅サウナ」の普及にはまだ時間がかかる

そもそもコロナ対策を考えるなら、自宅でサウナに入れるに越したことはない筈です。しかし自宅にサウナを設置するには想定以上に費用がかかり、これなら施設へ足を運んだ方がよいと考える方が多いのかもしれません。

各メーカーによる自宅サウナは最低でも100万円~以上の費用感、さらに電気ストーブの設置を行うなら追加で50万円~100万円は発生します。電気代は省エネで抑えることができますが、ここが最初の壁とも言えるでしょう。

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それでもテントサウナと電気ストーブを工夫し、総額50万円前後で宅サウナを実現した強者も現れています。あとはチラー購入(100万円前後)による水温の安定が適えば普及が見えてくるのですが、抜本的な対策は現状ありません。サウナ初心者には、ハードルが高い状況が続くことが予想されます。

あとこれは自宅サウナ経験者ゆえの気付きなのですが、個人目的でサウナに入ることもあった一方で、それ以上に友人知人を招いてもてなす機会の方が多かったのは意外でした。個人が楽しむ目的で導入してみたものの、結局は複数人で使ってしまうということが本来の趣旨に合致するのか?否かは自問自答してみてもよさそうですね。

「アウトドアサウナ」の抜本的な課題は続く

個人向けサウナの話題になったので、テントサウナとバレルを含む「アウトドアサウナ」も触れていきます。まずテントサウナに関しては前述の通り、プロダクトの選択肢が本当に増えました。需要に対しての絶対的な供給量が不足していたことが課題でしたが、ここは徐々に解消に向かいそうです。

しかしながらテントサウナ購入後の運営マニュアルやリテラシーが底上げできているかというと、普及後の3年間で全然進歩していない…というのが正直な所感です。(収益云々を抜きにして)もっと事業者側が旗を振って取り組まないと、一発の不祥事でも市場がシュリンクしかねないと思っています…

そのような状況下、以前にもnoteで紹介した『madsaunist』は、テントサウナの「ソフト体験」を抜本的に見直すような取り組みに挑んでおられます。薪ストーブをなるべく傷めないストーンタワーガードや、煙の少ないバイオフレアの開発など、リスク回避になりうる必需品を次々に発表しています。

バレルサウナにおいてはテントサウナと異なり、建築物として建築基準法に該当する(サイズによっては例外もあります)ため、プライベート用途はさておき、第三者を呼んで対価を頂く場合は法規制の対策が必須になります。

こちらのnoteを発表してから半年が経過しましたが、都市部で多いのは「ルーフトップ」での導入相談です。実際取り組んでみるとわかりますが、ルーフトップの温浴開業は特に前例がなく、都市部では条例(消防法、建築基準法、公衆浴場法)の敷居が小規模サウナ開業並か、それ以上に高いのです。

バレルサウナと聞くと「プラモデルのように組み立てたら良いのでは?」と考えがちですが、建てるよりも設置する前のフェーズで圧倒的な労力がかかります。都市部におけるルーフトップサウナの普及が進まないのは、条例による設置ハードルが思いのほか高いからではないかと考えています。

地方開業の「小規模サウナ」は競争が激化する

一方でバレルサウナは大自然との相性も良いため、地方に設置することで真価を発揮することができそうです。ただしテントサウナも含めてですが、既製品を設置することは、今や差別化につながらないという現実があります。

昨年、筆者は各地の施設を多く取材しましたが、堅調な集客を実現できている施設であればあるほど「他と差別化できる要素を徹底的に尖らせていかないとまずい」という危機感を口にしていました。皆さんがあまりにも同じことをおっしゃるので、陰で口裏合わせしているのでは…と疑うほどでした。

九州に居てわかったことですが、サ旅で地方を訪れる方は『ドラマサ道』で取り上げられた施設から順に巡っていきます。九州なら『湯らっくす』と『らかんの湯』、東海なら『サウナしきじ』と『ウェルビー』、北海道なら『白銀荘』といった具合です。これだけでも3つの地域を回っていますね。

いかにサウナ好きと言えど、都市部で定職を持つ方がサ旅に出るには「1年に3回前後」が限度です。となると、地方の小規模サウナへ足を運んでいただくためには「わざわざその地へ足を運びたくなるような」強い動機を作ることができなければ、まず選択肢にすら挙がらないことが想定されます…

「ストーリーテリング」が差別化のカギになる

都市部のみならず、地方でも相当数の小規模サウナが増えると聞いています。その話を聞くたび、サ旅目的の顧客をどこまで集客できるかが不透明なため、よくお話するのは「狙うべきお客さんを決める」ことと「地元の固定客を想定する」「面で一体となって取り組む」ことをお伝えしています。

その前提があった上で「わざわざ」の文脈をどのように作るかは、体験のストーリー設計がヒントになると思います。筆者が数多くの施設へお邪魔した中で、昨年もっとも衝撃を受けた施設が『京都のぎょうざ湯』でして、全体から細部に至るまで、一連の体験が繋がっていることに感銘を受けました。

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あまりにも衝撃的な体験だったので、書こうと思えば『ぎょうざ湯』だけで1万字書けそうな程ですが、端的に申し上げると「欲しいと思ったところにすぐ手が届く」ということです。一見、当たり前のことのように聞こえますが、この当たり前が斬新すぎたのです。

サウナの入浴を抽象化すると「体験」で、分解すると「脱衣/洗体/サウナ/水風呂/外気浴/休憩/入浴/着替え/飲食」ですが、脱衣所の扉を開けると、ぎょうざ湯では扉のすぐ先が飲食コーナー。テーブルに着席し餃子を頼むことができます。導線の間隔がゼロメートル、衝撃的ですよね…?

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もっと驚いたのは、外気浴中にインターフォンでドリンクを注文、小窓からドリンクを受け取れるサービスです。外気浴でととのったときに「のど乾いたな…」と思ったらすぐ注文、ととのいチェアや露天風呂に浸かりながらドリンクが飲めるのです。導線ゼロのこの体験は、まさに革命級でした。

小規模サウナはハードか、ソフトを強化すべきかという二元論で議論が交わされがちですが、「ヒトが体験において、それぞれの瞬間で、何を欲するのか」のストーリーが設計出来ていれば、”ハードよりのソフト”でも”ソフト寄りのハード”でも良いのです。※ソフト(ヒト)充実が前提ではありますが。

体験でいえば、食/宿泊/観光の流れが凝縮されている「ホテル併設型サウナ」でストーリー設計を行うのも、極めて現実的なプランだと考えます。ホテルは公衆浴場法や電気ストーブ導入時の電圧など、予め環境整備がなされているケースのあります。新規開業以外の有力な選択肢になるでしょう。

ここ最近、筆者が勝手に申し上げていることがあるのですが、サウナ開業は「冷静と情熱のあいだ」とよく表現します。誰も見たことがないサウナを作りたいという情熱と気持ちはわかりますが、一方で顧客が求める需要への感度を養うことも、中長期では差別化要因のひとつになると予測しています。

「イベント × サウナ」がツーリズムの入口に

冒頭で「百貨店 × サウナ」の企画を振り返りましたが、百貨店の催事事例は倍以上に増えていくでしょう。年始の段階で既に『伊勢丹サウナ館』『サウナマルシェ』『北海道のサウナ展』の開催が告知されています。

ここで筆者の推測を挟むのですが、たとえば都市部の百貨店では"グルメの北海道展"や"九州展"などが催されるように、「百貨店 × サウナ × ご当地企画」の取り組みが加速し、サウナ施設や地方自治体の観点からみると、イベント企画はサウナツーリズム検討層との重要な接点になっていくでしょう。

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こういった企画を検討する際は、「面」として既に取り組めている地域が断然強いのですが、施設単体のアクションでみてもまだまだ白地があります。例えば長野の『The Sauna』や長崎の『サウナサン』岩手の『古戦場』などは、異次元のフットワークの軽さで、全国の催事に出店していますね。

後述しますが、サウナファンとの接点はSNSが主流となる一方で競争が激化しているため、いかにコンタクトポイントを構築できるか?が集客における最重要課題になります。『サウナイキタイ』によって情報の透明化が進みましたが、ネットで発信=客に選ばれるという構造から変化しつつあります。

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今年はパンデミックの行方がどうなるのか予測が立ちませんが、「アウトドアサウナイベント」も過去類を見ないほどの規模で行われることが予想されます。そうした際はイベントの企画も多様化していき、地方のプレイヤーが都市部のイベントへ出店、その逆となる交流も今後活性化していく筈です。

宣伝のような形で恐縮ですが、筆者は『ご当地サウナ委員会』という媒体に籍を置いておりまして、今年はイベントを中心に、サウナツーリズムの入口となる接点づくりに努めていく所存です。ツーリズムの企画案などお持ちの方は、不束者ですがご相談に乗りますので、ぜひ気軽にDMくださいませ。

「サウナグッズ」は多数ではあるが多様ではない

冒頭で「爆買い」の事例を取り上げたのですが、正直に申し上げると、今の市況下ではTシャツやタオルにロゴを入れただけのものや、仕入れに工夫を加えないテンプレート製品でもグッズが売れてしまうのが現状です。したがって「多数ではあるが多様ではない」という状態が生じてしまっています。

基本的にはノベルティを通じ施設その他の認知が上がり、微力ながら施設売上の一助となって、その収益を次に投資に回すというサイクルが理想ではあるのですが、「今は爆買いしている」サウナ好きも財布の一定量というのは決まっており、新陳代謝のサイクルが徐々に早くなっていくと予測します。

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中長期でみると、今後は「実用性の高い」グッズか「周囲に発信したくなるほど魅力的で"エモい"」グッズか、より本質的なラインナップに絞られていくのではないかと考えます。フィンランド現地のグッズ売り場を例に挙げますが、文化的要素はほぼなく、実用性重視のグッズが並んでおりました。

たとえばサウナハット自体、フィンランドではさほど需要がないのか、施設その他の売り場で見かけることはほとんどありませんでした。ノベルティそのものに求める国民性の違いはあれど、「顧客が潜在的に求めているモノをいかに代弁し、カタチにしていくか」という大原則は不変かもしれません。

SNSの過当競争により「発信」の透明性が前提に

『サウナイキタイ』等の登場によりTwitterを通じての集客ルートが確立され、SNS全般でみるとInstagramやTiktok、Youtubeなどのプラットフォームにも横展開するようになりました。しかしながら著名人がYoutuber市場へ参入してきたように、そもそも認知へ至るまでの競争が激化しつつあります。

いまサウナ施設を新たに開業したり、後発でサービスを新たに立ち上げても、思ったほどフォロワー数はついてこないのが実情です。さらにフォロワー数が伸びたとしても、最終的にはリアルタイムでの接触に行き着く業界ですので、発信の運営元=中の人の透明性が一層求められるようになります。

一例を挙げるなら、『TATEYAMA SAUNA』の事例はSNSのイマをとらえていました。施設としてのハードや環境面の魅力を差し引いたとしても、施設が出来上がるまでの過程を積極的にオープンにし、これから訪れるであろうサウナファンを常にみながら、発信を続けるという姿勢が明確に伝わります。

「人は人でしか癒されない」というのは大阪ニュージャパンの格言でしたが、サウナファンと中の人との関係性に帰着するというのが、コミュニケーションの最終形かもしれません。サウナファンの数は必要最低限で良いという見立てができれば、目先のポジション獲得がKPIとはならない筈です。

サウナに関わる「人材」の間口が拡大していく

とはいえ必要最低限のファンから信頼を得るといっても、SNSのトレンドと文脈理解を抜きにしては語れません。これまでの業態と体制では考えられなかった若さや感度の高さ、新たなジャンルからの参入を受け入れながら、サウナ文化がさらに進化していくことが予想されます。

さらに文化がニッチから一般化へ向かうということは、サウナ初心者や一般の方に対し、どれだけ歩み寄れるかということも重要です。筆者も初心の感覚からだいぶ遠ざかってしまっているため、尖ったアプローチのみならず、コアなサウナ好き以外との接点をなるべく意識的に持つようにしています。

先日、The Saunaで働いていた元ヘルパーとサウナ談義をしていて、思わず膝を打った内容が「サウナ好きである以上に、接客に慣れた異業種からの参入者が出てきたら、サウナ業界はもっと面白くなる」という議論でした。たしかに、良いサウナができるためには接客に長けた人間がいると強い…

出自がアパレル業であれば店頭で、お客様のちょっとした変化に気付くことができますし、ノベルティもお客様が求めるものを作ることができる。看護業界であれば接客のみならず、身体や体調の変化に気敏であることから、ウィスキングの施術にも役立つはず。業界従事者の可能性が広がりそうです。

サウナの「女性人口」は自然発生的に急増しない

筆者の個人的な話を挟みますが、前職は化粧品メーカーで製品企画の業務に携わっておりました。女性社員が圧倒的に多く、かつ女性向け化粧品が主であるという、男性では共感の余地すら挟むことのできない環境下で働き、大変勉強となったことがあります。それはストーリー体験設計の重要性です。

男性なら機能重視。サウナで例えるなら会議の合間に1時間、さくっと3セットととのったら完了!というアプローチに対し、女性はプロセスも重視。化粧品の場合、成分の良さやラインナップなどの機能面をPRしがちですが、女性が選ぶ時は「5W1HのTPO」と「どのような世界観か」を重要視します。

昨年、女性向けサウナメディアが公開されましたが、記事のタイトルからして男性発信の"それ"とはまた異なります。サウナを訪れる前後でどんな持ち物を身に付けるのか、誰と一緒に行くのか、途中の文脈を丁寧に描く必要がある。美容と健康訴求=サウナ女子増という単純な構図ではありません。

とはいえサウナや水風呂の温度を男性水準に合わせないと、サウナ女子初心者の満足も得られないでしょう。サウナ女子の母数自体は増加傾向ですが、自然発生的に普及させていくには、ストーリーの体験設計を草の根で、地道に行っていく必要があり、難易度の高い分野の一つであると想定します。

「アウフグースとウィスキング」の進化を考える

温浴施設での導入議論を抜きにして、アウトドアサウナイベントの拡大とともに、アウフグースとウィスキングの体験機会がめざましく増加すると予測します。それぞれの課題を挙げるなら、アウフグースはマネタイズ、ウィスキングはスタッフ育成と価値そのものの認知に時間を要すると考えます。

アウフグースは昨年下半期、『スカイスパYOKOHAMA』メンバーが中心となって旗を振り、飛躍的な状況変化を遂げました。アウフグースに特化したフェスイベントや、世界基準を前提とした大型サウナ施設の登場など、パラダイムシフトが起きています。熱波師特化書籍の登場も話題になりました。

ただ温浴施設の観点を含めると、課題が浮き彫りになります。追加料金を払わずにサービスを受けられることが前提になっているため、一度出来てしまった構造を見直すことは至難です。(湯らっくすも有料化を休止しました

とはいえアウフグースの本場であるドイツにおいても、サウナ施設では追加料金を支払う構図となっていないため、ドイツにおける収益モデルを参考にすることで何かヒントが得られそうです。アウトドアサウナイベント等、施設外で試行錯誤を繰り返しながら、収益モデル構築の時期が続くでしょう。

アウフグースとは対照的に、ウィスキングは1on1の個人向けサービスであるため、予めマネタイズの見立てがしやすい。ただしウィスキングを習得~提供するための間口が現状限られていることと、一度に体験できる人数が極端に少ないため、業界での本格的な認知と普及は下半期以降…と予測します。

ウィスキングの基本解説は、上の記事にまとめたのでご一読ください。体験者数と回転数にどうしても限界があるため、従来の温浴施設よりも小規模サウナ施設での提供に向いています。

本質性のカギを握る「海外サウナ」との情報交流

ここからは身も蓋もないことを書くのですが、いま日本で爆発的に小規模サウナ施設が増えている中で、「海外のサウナ事情を体験として知っているかどうか」が成否の一要因になっているように感じます。もちろんそうではない事例もありますが、大きなファクターであることは間違いありません。

The Sauna』の野田クラクションべべー氏、『らかんの湯』の小原社長や『湯らっくす』の西生社長、『北海道ホテル』の林社長など、先進的なサウナを作られる方はすべからく、海外サウナでの入浴経験をお持ちでした。

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実際に訪れてみると分かりますが、フィンランド、ドイツ等のサウナは日本人が想像するものと同じようで実態は全く異なるものです。サウナ室の構造の違い、クールダウンの行い方、そもそもサウナに対して何に価値を感じるか…など違いを知ることで、本質とは何かを考えさせられました。

訪れた皆さんはその違いを経験として蓄積し「日本におけるサウナの本質とは何か?」を自問自答しつつ、まだ見ぬ先鋭的なサウナを世に出しておられます。コロナで渡航が気軽に実現できない昨今ですが、この本質的な違いを考える機会なく施設ができてしまうことに、ある種の機会損失を感じます。

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かつて国際サウナ協会会長とお話させて頂いた際、日本にしかないサウナの魅力は「浴槽文化があること」「就寝環境や漫画ブース、飲食など温浴施設の充実度」「スタッフのホスピタリティ」を挙げてらっしゃいました。外から見てこそ、そこにある本質的な価値を浮き彫りにできるかもしれません。

日本にはフィンランドサウナアンバサダーが100名規模でおりますし、先に挙げてみた先駆者たちに「日本と海外のサウナの違いは何ですか?」とぜひ質問をされてみてはいかがでしょうか。疑似体験の蓄積こそが本質性の追求となり、成否の差となって表れるはずです。

むろん、パンデミックが解消された暁にはいち早く海外へ渡航し、五感をフルに使い、日本と本場のサウナの違いを「体験」として持ち帰りましょう!

「温浴施設」の在り方について少し触れてみる

大変僭越ながら「サウナトレンド大予測」という風呂敷を広げつつ、長々と講釈を垂れてきてしまいました。しかし最後に、日本のサウナ文化を考える上で欠かせない「温浴施設」について少し触れて参りたいと思います。

筆者は温浴施設のプロフェッショナルでも何でもなく、温浴施設の方とお話する機会を得るたび、その業態の歴史の深さやサービスレベルの充実度、温浴経営の複雑性などに触れては天を仰ぐばかりです。そしてサウナブームと言えど、ブーム=収益に直結している訳ではない現実を思い知らされます。

しかしそれでも確かなことは「お客さまのことを常に見続ける」ことの積み上げこそが、最も物事を前に進めるのでしょう。先にも紹介した『湯らっくす』は、なんと元旦早々、先月のアンケートを早々に取りまとめて結果発表をしています。お客さまの声を最優先にする姿勢が、尋常ではありません。

らかんの湯』の小原社長も毎日のように浴場に顔を出され、細部をチューニングしていらっしゃるという話を伺ったことがあります。先鋭的なサウナ施設を作り、一見やりたいことを形にしているように映る先駆者でも、その裏では圧倒的な時間と労力を使い、お客さまをみていらっしゃるのです。

最後に

サウナトレンド大予測と申し上げつつ、「まずはお客さまをみて、サウナを盛り上げていきましょう」というアナログな結論に帰着してしまいましたね。数多くの切り口から「きっとこうなる」ということを予測してみましたが、来年の今頃に答え合わせをした時に、一体どのような光景が見えているでしょうか。

当たる当たらないの次元をも超えた、予測もつかない結果を今から楽しみにしています!

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