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テントサウナ導入のススメ【2022】

2022年11月。なぜだかふと、テントサウナのことを書かねばという想いが降りてきて、これは筆を取らねばということでPCに向かっております。442年ぶりの皆既月食に日本中が湧いた夜。空から降りてきた直感に従うがままに、思い当たることから書いていくため、多少の脱線や文章の飛躍があるかもしれません。筆者の個人的観測として、お付き合い頂けますと幸いです。

※記事タイトルはテントサウナ購入のススメとありますが、どちらかというと本記事はテントサウナ未経験者や興味がある方向けではなく、テントサウナを既に使ったことがある方向けの内容になります。テントサウナ概要説明や活用方法などについては、過去執筆しました記事をご参照くださいませ。

テントサウナについてはこれまで2年分、どちらかというとガイドブックのように各製品を紹介して参りました。しかし今回の記事では製品そのもののスペックを紹介するというよりも、テントサウナという文化がどのように育っていったのか、そもそものテントサウナが提供してきた価値について考察していきます。インタビューもより一歩踏み込んだ内容になっております。

テントサウナ市場の現在地

まず調べてみたのが、Googleにおける "テントサウナ" の検索数推移になります。2019年以前は検索数が横ばいであったため、2019年を実質のテントサウナ元年と定義し、2022年10月までのおよそ4年間分のデータになります。コロナ禍へ突入した2020年2月から数字が伸びていますが、さらに大きなヤマとなったのは2022年に入ってからで、まだまだ検索数が伸びる模様です。

 "テントサウナ" の伸びはとどまることを知りません。テントサウナのマーケット規模は予測もつかない成長を遂げており、2019年1月(国内流通量が100台以下)時点の検索数割合が1%であったのに対し、2022年9月には100%に到達しています。他、Instagramでは2019年の投稿数は1,000以下でしたが、2022年10月には8.5万件の投稿数があります。およそ85倍の市場成長です。

しかし需要の急速な伸びに反し、供給在庫が枯渇するのが常でした。2022年以前、国外からの輸入モデルが主流であった3年間における、主力ブランドは海外産モデル(MORZH/Mobiba/Savotta/Ex-pro)でしたが、船舶輸入が基本モデルでして、3ヶ月毎の大型コンテナに数百台のテントサウナを積み込み、各ブランドの流通量を合算すると、およそ数千台の国内流通量であったことが推測されます。現在はおそらく万を超える流通量がある筈です。

上の記事を執筆したのが昨年7月ですが、このころ既に国産ブランド登場の兆しが見えておりました。下半期の間に『NOPPA sauna』『MIMASAKA』『Iam Sauna』、今年は『IE SAUNA』『ABiL』『ICOYA』等がリリースされました。さらには海外産のテントと国産ストーブを掛け合わせたモデルなども出ています。いわば「テントサウナ群雄割拠」の時代と言えるでしょう。

マーケットが大きくなるだけでなく、テントサウナを取り巻く文化そのものの認知も広がりました。大手企業であるリクルート社のCMにテントサウナが登場したり、同じくブランド企業の日清食品がカップヌードル型のテントサウナを開発したりと、昨今のサウナブームも相まって、テントサウナがニッチであった頃からは想像できないほどの取り組みが目立ちましたね…

テレビ番組やYoutube、SNSなどのメディアでテントサウナが取り上げられることも珍しくなくなった本年ですが、一方そうした活況のさなかに欧州で紛争が発生してしまったことは、テントサウナシーンにも大きな影を落としました。ロシア国への経済制裁、原油高、原材料確保の困難等により、海外産のテントサウナ在庫がさらに枯渇するという状況が加速してしまいました。

そもそも完全輸入に頼りきりな、このマーケット自体が特殊に思えますが、今後は海外から国産主体のマーケットへと大胆に切り替わることが予測されます。その転機となったのが2022年であり、サウナブームを牽引する温浴施設とはまた異なる形で、独自の発展を遂げていくのでしょう。実は、日本のテントサウナマーケットは、世界各国から見てもきわめて異例なのです。

テントサウナ文化の変遷を考察する

テントサウナマーケットが形成されてから4年経った今、あらためて日本のテントサウナ文化がどのように育っていったのかを考察していきます。その話題に入る前に、海外から見た話を敢えて先にさせてください。テントサウナに対する海外と日本の認識の違いが、よくよく伝わるかもしれません。

世界各国からみた時に、どちらかというとテントサウナはニッチな印象のままです。例えばフィンランド人に聞いてみると「テントサウナ?入ったこともないし入ろうと思ったことがない」と答えますし「あれは軍の人が入るもので、本当にアウトドアを楽しみたいならそもそもサウナ小屋を作ってしまう」と彼らは言ってのけてしまいます。(※談話は筆者の実体験です)

さらに、海外においてはプライベートよりもイベント用として、数十名が収容できる大型のサウナを設置する際にテントが用いられる事例がどちらかというと多いようです。ドイツではアウフグースショー、リトアニアではウィスキングセレモニーなど、付帯サービスが一体となり活用されるケースも散見されます。この規模になると、サウナ小屋を建てるよりコストがかからないテントを採用する方が合理的なのでしょうね。(※あくまで想像ですが)

そして日本人がテントサウナに求めるものは、世界各国から見ると極めて特殊に映るもの。そもそも日本のサウナブームは「ととのう」という概念から端を発する「サウナの入り方ブーム」であって、冷たい水辺でテントサウナに入ることによって、更なる「ととのい」が得られることが主のメッセージングとして発信されてきました。自然環境との向き合い方が異なるのです。

例えば北欧諸国の場合、湖にダイブするのはクールダウンの意味合いも含まれますが、それ以上に自然に還ること、野生の感覚を取り戻すことにより主眼が置かれているように思います。国民性や気候も全く異なる環境下なので、比較すること自体がナンセンスかもしれませんが、日本の場合はテントサウナが先にあり、自然環境は後付けであることが多いかもしれません。

それから更にテントサウナの価値を分解していくと、日本人にとってテントサウナは「よりリーズナブルで手軽に」「ととのい」を得られる手段であるかもしれません。海外各国と異なるのは、日本の場合はDIYでサウナ小屋を作ること自体が容易ではありません。北欧のように数十万円でサウナキットが入手できる環境にないですし、そのためのノウハウやナレッジも限られている。法規制も厳しいため、結果的にテントサウナが選ばれたのでしょう。

テントサウナの価値を過去に遡って分解すると、テントサウナ元年と位置付けた2019年は「セルフロウリュ普及」の年でもありました。たった4年前、日本でセルフロウリュができる温浴施設は全国で37施設ほどと限られていました。そういった市況下でテントサウナの体験をしてしまった日には「これは革命だ…!」と思い、数十万円を安いと感じても不思議ではありません。

セルフロウリュが体験でき、かつどんな水辺も水風呂になる画期的なプロダクトは、その当時の希少性も含めてこれ以上ない価値としてユーザーに認識されてきました。テントサウナの元を取るために、月にどれぐらい使用するかという試算よりもまず、テントサウナを購入さえすれば人生が変わるかも…という期待値そのものに数十万円を払っていたのが当時の感覚でした。

しかしながらセルフロウリュ可能な温浴施設は、2022年11月現在には1,347施設まで増えました。特に首都圏では、ホームエリアにセルフロウリュ可能な施設があることは珍しくなくなりました。わざわざセルフロウリュを求めてテントサウナに入る動機が首都圏では薄くなっていることが想定されているのです。そして集客に苦しむテントサウナ事業者まで出てしまいました。

そしてもうひとつ。上の記事では、パンデミックによる「プライベートサウナの民主化」トレンドがテントサウナ需要に寄与したとも書きました。しかし2022年も下半期になると、マスクこそ着用するもののコロナの影響を感じるシーンが極端に減り、今年に入って急増した個室サウナも、施設によっては予約が埋まらないという状況が一部見受けられるようになっています。

先月には「顧客は常に変化する」「事業者も変化しなければならない」という記事を出したばかりですが、テントサウナのマーケット、文化の変遷も例外なく早いと捉えた方が正確かもしれません。とりわけ事業者側は、ユーザーが感じうる価値とは何かを深く知り、これまでにない価値も含めた、テントサウナの価値を再定義する必然性が求められるのではないでしょうか。

ユーザー発信による「アウトドア」の新たな価値

さて、また異なる視点でテントサウナの文化を掘り下げていきます。テントサウナが普及していった4年間はユーザー数が限られていたこともあり、どちらかというと事業者やメディアが主体となり、テントサウナの文化を発信してきました。一方でテントサウナオーナーを含むユーザー側にとっては、どのような変化があったのか。実例に触れつつ、先駆者にお話を伺います。

テントサウナを購入した方のユースケースとして最も多いのは、テントサウナ設営可能なキャンプ場での利用がまず考えられます。まずは知人に声をかけ、説明書と格闘しつつ、不明な点などを仲間内と協力し、川の近くにテントサウナを設営できた時の達成感は言葉に表せないのではないでしょうか。

しかしながら思ったよりも多い荷物と出費、テントサウナの温度は100℃を超えたものの案外暖まらない足元と、そして何より撤去する時の面倒臭さ、時には煙突が腕に触れて火傷をしてしまい、テントサウナをするためだけに自然環境へ行くのが億劫になる。近場の温浴施設の便利さを再確認し、そしてテントサウナを押し入れに眠らせてしまうというバッドエンドに…

発信側はプッシュしたがらないのでこの際はっきり書いた方が良いと思いますが、テントサウナって、めちゃくちゃ面倒臭いんです。コスパや利便性ありきで選ばれがちなプロダクトですが、面倒を愛せなければテントサウナを使いこなすのは難しい。それを認識せずにテントサウナを試して終わり、ユーザーは押し入れに眠らせるというケースを数多く見てきてしまいました…

そうした背景もあり、ユーザー発信のテントサウナ文化においては、ほぼ発展性が見られないまま3年ほど経過してしまったのが実情なのです。そして何か問題が発生したら、リスク意識が低いユーザーの倫理観のせいと言う。それって、無責任ではないですか?テントサウナの希少性と事業者優位を傘に、テントを売りつけて終わりという風に見られてもおかしくありません。

一方で、大きな変化があったのが2021年の下半期。「テントサウナのここがおかしい」と声を発信し続けていたサウナユーザーが結集し『madsaunist』というレーベルを立ち上げます。結成当初はスモールスタートで、あくまで身内+知人の範囲でテントサウナの環境改善に取り組んでいましたが、これまでにない新たな風を、テントサウナ界へと吹かせたのは斬新でした。

2021年10月、彼らが主催するテントサウナイベントに参加したことがあるのですが、「本来は主催者と参加者という垣根もなくて」「アウトドアでは、参加者全員がクリエイターになりうる」という、新たなる価値の再定義について話をしていたのが衝撃的で、今の彼らの活動に通ずる魂を感じました。

天然の川が流れる真上にととのいチェアを置き、廃材を用いた光のオブジェの見え方や風鈴の鳴らし方を参加者と模索したり、もちろんmadsaunistのキャリアとクリエイティブ思想が前提にあって成り立つことではあるのですが、どうすれば自然の環境をまるごと楽しめるのかを、立場関係なく皆で作り合うという体験価値そのものが、これまで触れたことのない感覚でした。

そして彼らの代表作である『ストーンタワーガード』と『ステンレスバット』のレシピが、2022年を通して全国各地に広まっていきます。ハウツー詳細はインタビューにて後述しますが、知ってさえいれば誰でも実現可能な再現レシピを伝授し、広めるという取り組みは画期的でした。そのレシピは企業にも評価され、今年は多くの温浴施設やイベントでも導入されています。

madsaunistは自らの取り組みを「マニアックな活動」と謙遜しつつも、そこで得た知見を惜しみなく、誰でも実現可能な再現レシピをフリー素材として提供しています。ある種のボランティアとも、社会活動とも思える一連の活動、モチベーションは一体どこから湧き出てくるのか。その想いの源泉に迫るべく、madsaunistを牽引するメンバーの1人、UK氏にお話を伺いました。

「仕事の関係で海外に8年近く住んでいたことがあるのですが、その土地で目の当たりにした時代の変遷、いつか起こり得る天災や動乱などを想像してみた時に、人としてのサバイバル力を備えなければならないと痛感したんです。日本が自然災害が頻繁に起こる国ですし、自分達のインフラがいつ崩れてもおかしくない。だからサバイバル力、それがめちゃくちゃ大事だなと

「いざという時にテントを設営できたり、火を起こせたり、寝床も自分たちで作らなくてはならない。いつかそんな日が来たときに、何もないところから自分達で必要なものを作り上げたことがあるかどうか。海外に居てその必要性を人として感じましたし、本当にちょっとしたことでもいいから、ないものを形にするというのは人間の原体験として大きいと思うんです。それがアウトドアの本質でしょうし、madsaunistの活動にも反映されていますね」

「もしいつか、仮に自分たちの生活が天災か何かに脅かされてしまった時、 "暖を取る"ことができたとしたら、それはもう言葉に表せないほどの無上の体験になるでしょうね。暖を得られるというのは尊いことなんです。例えばmadsaunistでは、アウトドアサウナの宿命でもある寒暖差をどう埋めるかという問いにも果敢に挑みますが、暖を取るという尊さを広めたいですね

madsaunistの再現レシピの誕生秘話、活動の源泉に迫ってみましたが、いかがでしたでしょうか。テントサウナの面倒すらも愛せるように、クリエイティブなオーナーシップに目覚める面白さ、そしてテントサウナのみならず、アウトドアの本質にも関わるサバイバル精神と、暖を得られる尊さ、人の本質に立ち返るプロセスすべてに、彼らの想いが垣間見えたようでした。

事業者発信による「プライベート」の新たな価値

madsaunistによるユーザー事例を取り上げましたが、テントサウナを作るメーカー・事業者側にも新星が現れます。「家で毎日サウナをしたい」をコンセプトに、家庭用テントサウナを販売する『IESAUNA』。彼らがmadsaunistとタッグを組み、テントサウナの再現レシピをまとめたスタイルブックを発表、ユーザー&事業者のコラボレーションを果たしたのは衝撃的でした。

先の項でも書いたアウトドアサウナの宿命、寒暖差をいかに埋めるかについてのスタイルブックが "madsaunist × IESAUNA" による連名で無料公開されました。筆者はテントサウナマーケットをここ4年ほど見ておりますが、このような取り組みは前代未聞です。ユーザーと事業者が垣根を超え、テントサウナの新たな文化を作るという強い想いと、意志が感じられましたね。

そして2022年11月12日。『IESAUNA SHOWCASE2022』というイベントが神奈川県・三浦半島で開催されます。テントサウナイベントも、いまや全国各地で行われるようになりましたが、この日のイベントは主催者ではなく、オーナーが主人公。IESAUNAのユーザーでもあり、オーナー達が自分たちのIESAUNAを持ち寄り、お互いのセッティングを披露し合うという会でした。

IESAUNAは1人用のテントサウナなのですが、この日はソロサウナが6台も並ぶ異様な光景でした。1人用であるにも関わらず、ソロテントを隔てて参加者同士が会話をし、複数人用テントでは生じることのない一体感が生まれていました。敢えてソロサウナとして制限を設けていること、しかしその制限が横のコミュニケーションを生んでいることの逆説的な面白さを感じます。

そしてもうひとつ。筆者は『サウナタウン』にてサウナイベント運営を経験していますが、自分達はその気でなくとも、運営側がイベントを提供している主であるという、主催と参加者間のパワーバランスが少なからず生じうるのは否めないと思います。しかしこちらのイベントにはそれが全く感じられない。サウナオーナーが主であったからこそ、生まれた空気感なのかなと。

そんな空気感を最も象徴していたのが、サウナベンチ用底上げ床木版制作のワークショップ。先述した再現レシピの実演をみて「これならDIY初心者の自分達にもすぐ出来る」と気付きを提供できていたのは、個人的なハイライトシーンでした。まさに参加者全員がクリエイター。ここまで来ると、事業者・ユーザー・オーナーと役割を区別するのもナンセンスでしょう。

まだまだ小さな第一歩かもしれませんが、テントサウナイベントのあり方を考えさせられる示唆ときっかけがあった有意義な会でした。『IESAUNA SHOWCASE2022』を通じて、オーナー同士のミートアップをなぜ企画しようと考えたのか、そして主のプロダクトであるIESAUNAで提供していきたい価値とは何か、IESAUNA代表である深田渚央氏にお話を伺ってみました。

最初に考えたのは、テントサウナって変数要素が大きいなと。そうすると体験価値が変化してしまうので、越冬セッティングなどで体験価値をキープして、ユーザーと一緒にブラッシュアップできたらと思ってこのようなイベントを企画してみました。SNSでもIESAUNA議論グループをユーザー同士が作ってシェアしてくれる文化があったので、それも後押しになりましたね」

「グループ用のテントサウナだと、皆でシェアしたりキャンプで行くものという印象ですが、あらゆるものって個人化に向かうと思っていて。車とか携帯電話などもそうですが、最初は一部の人しか所有されてなくて、それらが大衆のものになっていく過程の中で、サウナも個人化されてイノベーションが起こるなと歴史が教えてくれていたのでそこに需要があると思いました」

「シェアでは特別何も思い入れがなかった石やロウリュ体験1つとっても、いざ自分個人のサウナとなると、もっと丁寧に扱いたくなるし格好良くしたいし、こだわりたい気持ちが生まれるかもとは思ってました。石の置き方を変えてみたり、断熱の仕組みを作ってみたり…。ただ前情報がないとどうしたらいいかわからないと思うので、スタイルブックで7割の情報を伝えつつ、ユーザーが試行錯誤できる余白づくりをIESAUNAでは意識しています」

「コアなユーザーでは週の半分近くもIESAUNAに入ってくれていて、時間帯も夜中とか朝とか、施設ではなかなか入れない時間帯とかですね。温浴施設とも棲み分けが出来ていて、グループで入るテントサウナともまた違う使われ方をしています。家庭用サウナと温浴施設も共存するし、逆にIESAUNAがあるから温浴施設に行かなくなるというのも想像していません」

「IESAUNAはテントサウナというガワではありますが、テントサウナとは似て非なるもの、という捉え方に近いかもしれないですね。IESAUNAを通して、サウナのある暮らしを文化にしていきたい。そして文化を牽引するのは女性なので、半身浴の習慣のようにIESAUNAも使われるのも想定して、IESAUNAは上級者向けではなく、初心者向けに価値提供を考えています」

IESAUNA代表のお話を伺い、筆者は「プライベート」という言葉の本意を考えさせられました。プライベート=ソロ・貸切・コロナ対策というワードが安直に結びついてしまいますが、そうではなくプライベートという空間がもたらす可能性。言葉の意味を抽象的に捉えて可能性を信じているからこそ、プライベート発の逆説的なコミュニティに発展するのは目から鱗でした。

ユーザー発信による「リスク管理」の取組み

先進事例を交じえながら、ここまでテントサウナの更なる可能性について取り上げてきました。しかしながらテントサウナで見落とされがちな「リスク管理」について触れなくてはなりません。madsaunistのチームには現役の医師も在籍しており「ハウツー以前に入浴者の生命の危機を犯さない」「特に一酸化炭素中毒に必ず気を付ける」ことについて警鐘を鳴らしております。

本テーマに触れるにあたり「日本テントサウナ安全協会」の代表である竹内 純氏にお話を伺いました。竹内氏は東海エリアを中心に活動するテントサウナチーム「LADLES」の立ち上げメンバーでもあり、数年に渡るチーム活動の中で、各所からの課題と声を集め、ユーザー発信による協会を立ち上げるに至りました。利用の実態と昨今の課題についてこちらで掘り下げています。

「今から5年前、仲間内でテントサウナをはじめたのですが、当時はアウトドアの知見も何もなく、危険な状況を招いてしまったこともありました。そういった経験から団体の必要性を感じ、日本テントサウナ安全協会を立ち上げるに至りました。しかしユーザーから声をあげないと国や行政も耳を傾けてくれない恐れがあったため、あくまでユーザー発の団体になっています」

「もともとは関西出身で、かつて阪神淡路大震災が発生した時に実家が被災をしてしまい、3ヶ月ほどまともに風呂に入れなかったことがありました。その点テントサウナはかなり少量の水と燃料で入浴ができるので、防災用品として当時からあれば…と思うことがありました。その原体験が団体立ち上げの動機にもなりまして、いつかは防災を想定した活動も見据えています」

「サウナブームから興味を持ったユーザーは、テントサウナを楽しんでいる様子をメディアなどで目にすると、初心者の自分でもやれるかも…と容易に錯覚してしまう恐れがあります。そして火の扱い方などアウトドアの前提知識がなくとも、とりあえず見よう見まねでやってしまうケースも見られます。取扱説明書を読まずに商品を使い始める方も世の中にはいますので…」

「例えば、車の運転やダイビングは人命に関わるので免許制度がありますよね。一方、テントサウナは知識が十分でなくとも実践できてしまうという側面があります。そしてテントサウナでととのってしまうと注意力が散漫になり、安全意識の優先度も下がってしまうんです。また、安全性を訴える事業者もまだまだ少なく、安全性の低い商品が出回ってしまう問題もあります」

「これはサウナ業界に限らないのですが、ブームのような社会現象となると、問題が表面化するのが常かと思います。ブームによりユーザーの間口が広がる反面、ユーザーリテラシーとモラルの低下を招く側面もあり、実際にテントサウナの設置を禁止するキャンプ場なども出てきてしまっています。ひとたび事故などが起こってしまうと後から取返しがつかないですから」

「例えばアウトドアの業界では、テントの中で薪ストーブを使用して亡くなられてしまう方が毎年いらっしゃるんですね。それはつまり、テントサウナで同じような事件がいつ起こってもおかしくない状態とも言えます。協会としては一刻も早くモラルを啓蒙しなければならないと考えており、ユーザーへ警鐘を鳴らしつつ、事業者にも安全性を遵守するよう啓蒙していますね」

「アウトドア業界ではかつて様々な事故があり、事故を未然に防ぐための先人たちの知見や安全のためのルールなどが出回っています。それから、言うなればテントサウナもアウトドアの1ジャンルでもありますし、日本テントサウナ安全協会という名を冠している以上は、すべてのテントサウナユーザーに対して安全を広めていくことが、団体の使命であると認識しています」

お話を伺っていて気付いたのですが、原体験の一つに「災害のリスク」をあげてらっしゃったのが印象的で、madsaunistのUK氏にも通ずる先駆者ならではの想いをひしひしと感じました。いかなる領域においてもただ美味しいところのみを享受できるというのは有り得ません。日頃から危険な橋を渡っていないか、リスク管理の観点で今一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

最後にまとめ

このまとめを書く前に全文を読んでみて、筆者は「文化」という言葉を多く使っていることに気付きました。サウナをブームではなく文化に、と叫ばれることも増えた昨今ですが、そもそも文化の定義とは何でしょうか。語意を調べてみると「民族や社会の風習・伝統・思考方法・価値観などの総称」とあります。マーケットサイズや経済力を示すのみでは決してありません。

テントサウナに関しては、およそ3年に渡りnoteで取り上げてきましたが2019-2020年は守破離でいうところの「守」の位置づけであったように思います。まだテントサウナそのものが世に認知されていなかった頃、海外から文化が渡来し「この入り方が正しいのではないか…?」というフォーマットを各々が遵守し、そしてまた他の人々に広めるという黎明期の時代でした。

2021年、海外輸入モデルの基本所作がわかるようになり、テントサウナを扱う事業者が急増します。そして2021年下半期から国産メーカーが徐々に登場し、守破離における「破」の流れが出てくるようになりました。しかしこの頃はまだ事業者がマーケット作りに奮闘する時代、ユーザーがリテラシーを備え、ユースケースを模索されるようになるのは2022年に入ってからです。

守破離の「離」へ向かうには、改めてテントサウナが提供する価値とは何かを議論し試行し続けて、はじめて文化づくりへの打席に立つことができるのでしょう。テントサウナを通じ、事業者側は今一度ユーザーとの距離感を考えてみること、ユーザー側は面倒と向き合いながらもどんな世界が広がるのか、模索していくことで次の展開が切り拓かれるのではないでしょうか。

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