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【詩】日々

どの駅だったか、気分が悪くなって、トイレの個室で、長いことうずくまっていた、吐いた、しばらくして、何事もなかったように、出勤した、みんなとしゃべり、笑った、お昼を食べて、こっそり吐いた、毎日がそんな感じだった、ふと思い出した、東海道線、横須賀線、湘南新宿ライン、戸塚駅、それでもわたしは、働かなければならなかった、生きなければならなかった、ホームで立ったまま、岩波文庫の、ファウストを読んでいた、わたしはただ、さみしかったのだと思う、そうすることでしか、自分を保てなかった、 みんなのように働けないことが、いやでたまらなかった、仕事さえなければ、生きていける、そんな矛盾に、疲れ果てた、こころがこわれたとき、色鉛筆を買った、64色もいらなかったけど、むしょうに色が恋しかった、ぬり絵をしようとした、できなかった、毎日毎日、色鉛筆をながめて暮らした、やれることはそれだけで、あとはただ床に横たわっているだけ、床に散らばった色鉛筆、そしてわたし、八月の病院の待合室では、みんな分厚いコートにマフラーをしていた、そんな思いをするぐらいなら、最初から好きにならなければいい、君はいったい、何度同じことで泣けばわかるんだい、壁にかけられた時計には針がなかった、わたしの人生にも何の意味もなかった、いつも、いつだって、そうだった

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