#53 懸念
私がお弁当発注係兼電話番の契約解除されてから2週間が経った
5月に入りゴールデンウィークにも突入
晴れの日も続き気温も暖かくというより暑い日もあり半袖で過ごせるようになってきた
合同練習の中心は真琉狐さん
一線級でいろいろな団体に上がって活躍しているレスラーの体力は伊達じゃない
基礎練なら負けないと半分冗談めいて言ったが少しだけは自信があった
でも初日で打ち砕かれた
だがようやく2週間が経ち歯を食いしばりながらもついて行ける様になっていた
「ハァハァハァハァ、もうダメ!無理!!ついてけない!次からはもうやんない!無理!!」
道場の床にへばり付くようにうつ伏せになりながら亀さんが言う
「アレー?亀ちゃん、らしくない事言うじゃーん!」
夢子さんがからかうかのように答えた
「こっちは引退して何年経ってっと思うのよ!もう本当に次からは見てるだけだからねっ!!」
そんな亀さんの様子を私と夢子さんは笑って見てた
だけど真琉狐さんは黙々と一人で片付けをし帰る支度を整える
私だけでなくみんなが懸念しているのがこの2週間で真琉狐さんのプクッとしていた頬の肉は削ぎ落とされ時折Tシャツから覗くお腹周りもかなりシェイプされ綺麗に割れた腹筋が現れていた
まだまだ貧弱な体の私が言えた立場ではないから感じた経験はないけどある程度の脂肪は受け身を取る際に有効になるという
まあ今はそんな事はないと言う人も多いけど
ただシェイプの仕方がプロレスラーというより格闘技者の様になっているのが何か不穏なモノを感じさせた
そして帰り支度を済ませた真琉狐さんは
「それじゃお先に失礼します」
と言い頭を下げ出口へ向かう
「なあ!真琉狐、一緒に帰ろうよ!」
夢子さんが声を掛ける
「すみません。ちょっとスマホでやれることやっとかないと。各所に迷惑掛けてますので。またお願いします」
もう一度頭を下げ出て行った
「ふぅー。まいったなぁ」
夢子さんは天井を見上げた
「夢ちゃん!あの子やっぱ何か変な方に向かってるよ」
亀さんも心配そうに言う
「レスラーの体じゃないよなぁー。カーコは昔からあんま変わらないけどナチュラルな筋肉の強さと骨格の強さがあったけど真琉狐はタッパはあるけど女の子って体つきからあそこまで作り上げた感じだから急激に体を絞るのはマイナスだと思うんだよね」
「それだけじゃないよ!絞ってるのは間違いないだろうけどさ。単純にやつれているのもあるよ絶対!」
「そうだよねー」
夢子さんは今度は困った様に首を項垂れた
「やっぱ酷いの?そのー誹謗中傷てのが」
「いやぁー。社長に見てみろとは言われたけど見てはないんだよね。自分の事とかは別に今更何言われても気にならないんだけどさ。真琉狐やカーコの事を書かれてると思うと、、、ね?」
「まあそんなもん昔は無かったし元々ある種の鈍感力ってのは日々鍛えられてたしね」
「だよねー。そういやたまは見たことあんの?そのコメントとかさ」
「あ、あ、ハイ。でも最初の頃にちょろっとだけ、、、ですけど」
「やっぱ酷いこと書いてあんの?」
「ま、まぁ。何かあまり本質を突いてないと言いますか、、、もちろん真琉狐さんと薨さんの関係なんて知らないわけですし、、、逆に知ってたら余計に炎上しちゃうと思いますし、、、」
「そらそうだよね。まだ核心を知らないだけマシってことなのかもね」
「ハ、ハイ」
「はぁぁ、酷いもんだよな世間て。直接聞いてはないけどカーコもアイツなりの何か答えを求めて戻って来たんだろうし、真琉狐だって真琉狐なりの正義の為に毎日直訴してたわけで。話題を作って観客を呼び込む。当たり前のことだけどさ。今回のやり方って正しかったのかな?人を楽しませる為に心が傷付くってさ」
夢子さんはガックリと肩を落とした
「夢ちゃんの言う事はわかるよ。でも今回は社長もセカジョを再興出来る最後のチャンスと思ってスキャンダラスなやり方を仕掛けて乗っかったんじゃないかな?カーコの想いも真琉狐の真意も正直わかんない!でもあの子たちがそれぞれ過去を乗り越えて今の現実を乗り越えてもらわないと今度こそセカジョは終わっちゃうよ!だから私たちが精一杯サポートしていこうよ!ね?!」
以前、亀さんはあの事故の当時、手を差し伸べ切れなかったことを後悔していると話していた
その後悔をした分、今回はサポートを徹底したいのだろう思いが伝わった
夢子さんは立ち上がり
「そうだね。亀ちゃんの言う通りだよ。社長にも言われたしね。それがセカジョにとってあの子たちにとって最善の私たちの出来ることだよね!もう後悔はしちゃいけないよね!」
「そうだよ!がんばろうよ!」
「うん、ありがとう。たまも力貸してくれよ!」
「ハイ!もちろんです!自分なんかで出来ることがあるなら!」
「いいじゃんいいじゃん!心強いじゃん!」
と亀さん
「にしてもこんな日が来るなんてね。あの日の答えを私たちも出す時が来たんだね。何かヒントを出してくれないかなぁ?、、、ヒデ」
夢子さんは静かに神棚を見つめてそう言った
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