#64 真琉狐、入場 「TAKE ME AWAY」
薨への歓声が鳴り止むことを知らない
女性ファンの熱狂的な黄色い歓声も飛び交う
薨をここまで近くで見れるのは初めてのことかもだ
その姿を見て泣いている女の子もチラホラ
近年の女子プロレスの会場では滅多とない光景だ
そんな中、薨はただタオルを握りしめ赤コーナー花道を見つめている
私は飛び降り階段をリング下に片付ける
止まない歓声の一瞬の静寂を狙い星野さんはコールする
「赤コーナーより真琉狐選手の入場です!」
場内が真っ赤に照らされた
聴こえてきたのはヘヴィーなギターのアルペジオ
え?!
真琉狐さんも入場曲違うの?
そしてすぐに聴き覚えのある女性ボーカル
「あ!アヴリルだ!!」
そうアヴリル・ラヴィーン
あんまり音楽とか詳しくない私でも知ってる有名なアーティスト
そして真琉狐さんの普段の入場曲は彼女の大ヒット曲「GIRLFRIEND」
その影響もありアヴリルのアルバムは何枚かは聴いて知っていた
この曲も絶対聴いたことあるぞー
なんだっけ?
「TAKE ME AWAY」
後からポンと肩を叩かれる
「そうそうTAKE ME AWAY!て、え?」
振り返ると夢子さんが立っていた
「あの子の気持ちが全て詰まってるかもね」
「この曲にですか?」
「ああ。私、アヴリル好きなんだ」
そう言ってもう一度私の肩を叩き
「なかなかセコンド様になってたぞ!」
赤コーナー側に歩いて行った
「この曲が、、、」
ふとリング上の薨を見上げる
薨は口角をあげニヤッと笑っていた
もしかすると薨、真琉狐さん、そして英実さんで過酷な練習の後、真夜中の寮で夢を語りあっていた時に自分だったらこの曲で入場したい
そんな話をしてたのかも知れない
赤コーナーの花道に亀さんの姿が見えた
そしてすぐ後ろにスポットライトに照らされシルバーのガウンのフードを深く被った真琉狐さん
よくは見えないが何か真琉狐さんの口が動いてるみたいだ
この曲を口ずさんでいるのだろうか?
亀さんがロープを開けて待っている
真琉狐さんは階段を上がりロープを掴み祈りを捧げる
そしてリングサイドの夢子さんとアイコンタクトを取ったその刹那
リングイン
バッとガウンを翻しホール全体を凝視するようにリングを一周する
曲は大サビに向かう
大鉈を振るようなザクザクとしたバッキングに悲痛でありながらも伸びやかなアヴリルの歌が会場に響き渡る
「TAKE ME AWAY、、、私を連れ去ってかぁ、、、」
すると薨はバッと腕を上げ真琉狐さんに見せつけるようにタオルを掲げた
コールを受ける為にセンターに立った真琉狐さんはそのタオルが視界に入ったのだろうかプクッとした小さな唇から白い歯を覗かせた
「赤コーナー!169cm、53kg、真琉ぅぅ狐ぉぉーっ!!」
ガバっと脱ぎ捨てたガウンの下からはブレイズに編み込んだ髪、いつも通りシルバー基調のコスチュームだが殆ど装飾品は無い
そして私を含め全員が無駄な肉が一つも無い削ぎ落とされ筋肉が隆起しているその体に度肝を抜かれた
一拍の静けさ
その後に轟いた驚愕の声
そっかぁ
いろんな理由や原因が重なっただけじゃなくきっとお客さんにこの声を出さすことも目的だったんだね
「レフェリー、ジョニー小倉!」
レフェリーチェックを受け終わった薨がしゃがみ込みコーナー下にいる私に声を掛ける
「タカエさん、タオル預かっててください。とても大切なモノです。よろしくお願いします」
大切なモノ、、、
「わかりました!」
手渡されたタオルをジャージのポケットにしまい込んだ
真琉狐さんもチェックを終えジョニーさんはセンターでの握手を2人に促す
だが2人は一定の距離のまま見つめ合い動く気配がない
睨み合い威嚇し合うではなくただ静かな瞳で見つめ合うだけ
これ以上は言っても無理だとジョニーさんは判断したのだろう
「レディーー?!、、、」
※#63同様サブスク等で爆音で聴きながら読んでいただくとまるでそこは後楽園ホールに!
訳詞も検索してもらうと真琉狐や薨の気持ちがより深く知れます
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