#11 LOOSE GAME


そして二人で駅前のファミレスに入った

「まあまあ人いるね。まあこの辺は何も無いから田舎帰らない人はここかあそこのモールくらいしか行くとこないかー」

「そうかもしれないですね」

「まあ好きなの食べな!ステーキ?ハンバーグ?」

「じゃあハンバーグのセットいただいていいですか?」

「なになにー折角お正月なんだからこっちの両方乗ってるヤツにしな」
とメニューを指差す

「あ、じゃあそれでお願いします」

「そうそう!プロレスラーはいっぱい食べないと!じゃあ私もそれにしよっと。ライスは大盛りでいい?」

「あ、ハイ」
、、、食べれるかなぁ?

「すいませーーん!!」
プロレスで鍛えた喉と腹筋
夢子さんの声が店内に響き渡った
人々が驚いてこっちを見る

そしてもう一度
「すいま、、、」
くらいのタイミングで私が

「あ、あのー!!」

「え、何よ?」

「あのー、あのなんですけどー!!ここタッチパネルでの注文ですぅ、、、」

、、、。



まあ無事タッチパネルでの注文もしてステーキ&ハンバーグセットのライス大盛りも美味しく完食させていただいた

夢子さんはホットコーヒー、私はメロンソーダで食後の一杯を楽しんでいる

「どう最近は?基礎体のトレーニングはだいぶついてこれるようになってるよね。もう半年くらいだっけ?入ってから」

「ハイッ、半年です!基礎体も少しは自信が出てきました!」

「そっか、じゃあ次のステップをそろそろ強化していくか」

「ハイッ!よろしくお願いします!」

微笑ましく私を見ていた夢子さんだったが少し真剣な表情に

「ウチは去年、いやもう一昨年か?2人退団してしまってそこから丸一年以上興行が打ててない状態だ。それはわかってるよな?」

「ハイッ」

「他の団体なら半年だとデビューしてる場合が多いと思う。だがウチは正直今度いつ興行を打てるかもわかってない」

「ハイ」

「でもこれは逆にチャンスだと思って欲しい」

「ハイッ」

「その分、私や真琉狐、世話焼きな元スタッフたちでじっくり時間を掛けてたまを強くする!デビューの時、たまが輝けるように!それは約束する!だから信じてがんばって欲しい。いいか?」

私は嬉しさのあまり涙が溢れそうなのをグッとがまんした

今のセカジョの状態
正直どうなるかはわからないし
私自身不安がないわけではない

ある種の私への申し訳なさ
それでも絶対私をデビューさせる
その意志の強さと優しさを示してくれた

「ハイッ!」
と答えた

夢子さんは少し安堵したような優しい表情で私を見てくれていた


私がプロレスラーになりたいと思った最初のキッカケはもちろん薨だ
たまたま動画サイトで観た薨の日本デビュー戦に雷に打たれたような衝撃を受けた
好きすぎて好きすぎて薨になりたいとも思った
今もまだ思っているかもしれない

でも薨はやはりどこか異世界で生きている
憧れれば憧れるほど私自身とのギャップを感じていた

そして高校卒業前に一度書いたHYDRANGEAのオーディションの履歴書は破り捨ててしまった

成り行きで地元の大学に入学するがプロレス熱は冷めるどころかヒートアップしていくばかり
男女、今昔関係なしに色々見漁った

そんな中、出会ってしまったのが
「雨宮夢子」

絶対王者時代の強さ、迫力、貫禄のある夢子さんはもちろん魅力的ではあるが
私の心が鷲掴みされたのは今の私と変わらない年頃の夢子さんの試合であった

新人の夢子さんの武器は負けん気だけ
必死に叫び、踠き、押さえ込む
ただそれだけ
だがそのそれだけで観た人全ての感情を震わせることができる

私にはそれができるのだろうか?
毎日のように自問自答を繰り返した

そして出た答えは
できる・できないではなく

やる!!

大学も辞め退路を絶ってセカジョの門を叩いたのだ


「夢子さん!私は仕方なくやって来たんじゃありません!私は望んでここへ、セカジョに来たんです!だから!よろしくお願いします!」
そして立ち上がりペコリと頭を下げた


夢子さんは笑顔で
「たまぁ、ここはタッチパネルだぞ!」

「え!あれ、え?」
周りを見渡す
かなりの大声だったようで店内の大半の人がこっちを見ていた

私は顔を真っ赤にし静かに着席した

夢子さんは笑っていた

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