#41 記者会見、始まる

セカジョ、解散?

冗談でそんな話はしていたがあまりの情報漏洩の徹尾徹底振りで私の漏らした一言が現実味を帯び私たちにのし掛かる

あまりに重い空気感
その雰囲気を取り繕う様に真琉狐さんが

「い、いやぁー、たまちゃん!それはないんじゃない?ねっ?夢子さん!」

「そ、そうだよー!もうーたまのおバカぁ、、、あ、うん」

「ハ、ハイぃぃ、、、」

そして再び沈黙、、、

すると夢子さんが自分の胸をポンと叩き
私たちの目を真剣な眼差しで見て
「大丈夫!大丈夫だから!もし何かあっても私がセカジョを守るし、ダメなら私が買い取るから!ね?ね!」

そう言って励ましてくれたがいくら夢子さんの言葉でも現実は甘くないことは歴史が証明している
そしてそんなことは私なんかより夢子さんの方が重々承知しているはず

誰もがこの状況で場を繕う為に同じ事を言ってしまうかも知れない
だが夢子さんの言葉には熱があり私もきっと真琉狐さんも何かあればこの人を信じようと思った

そして何かに気付いたかの様に真琉狐さんが
「もし解散するとして、こんなギリギリにたまちゃんのプロテストやります?しかも合格させる意味ってなくなりますよね?」

「うーん、確かにそうだわ!そうそう!解散はないね!流石、真琉狐!名探偵だね」

そして3人で笑い合う

だがその笑いは少し乾いていた

何故ならきっと3人とも
"社長なら無意味なこともやりかねん"
"セカジョだからなぁー"
と思っていたからだろう、、、泣ける

「まあまあ、もうすぐ答えが出るんでとにかくモニター見ましょうよ」

「そうだね。たまぁ椅子用意して!」

「わかりました!」

モニターの電源を入れその前に椅子を用意する

画面に映し出されたのは
金屏風に「全世界女子プロレス記者会見」と毛筆で書かれた横断幕
長机に白い布が被されていて椅子は5つでその下手の一番端に星野さんが座っていた

そして定刻になる
中継してるってことは中継してるんだよね?

私はスマホで配信されている動画アプリを開く

そこには会見場がバッチリ映し出されていた

そして視聴者のコメントも
"昭和か?!"
"時代設定よwww"
"星野老けたな"
なんてモノが流れる

そして同接が2万人弱となかなかの注目度であった

「夢子さん、真琉狐さん!2万人くらい観てますよー!」

「えー?どれどれ」
2人が私のスマホを覗き込む

「ほんとだー!これだけセカジョファンいるならもっとグッズ買いにきてよー」
と真琉狐さん

夢子さんはどこを見ていいのかわかってないみたいで目がぐるぐるぐるぐるしている

そして定刻を2〜3分過ぎた頃に社長が会見場に現れた
いつものボサボサの白髪をオールバックにしライトグレーのスーツの上下
でも中にはいつも愛用の白のポロシャツを着ていた

年齢に対しなかなかの恰幅の良さ
ギロッとカメラを睨みつけるように着席する

その姿はまさにアッチの方のお偉いさんの様だ

そして社長が着席したタイミングで私もスマホを片付けて
3人で食い入る様にモニターを見る


「えー、大変お待たせいたしました。これより全世界女子プロレス記者会見を行います!今回司会を務めさせていただきますリングアナウンサーの星野寿彦でございます。よろしくお願いいたします」
そう言い星野さんは頭を下げる

「えー、それでは初めに全世界女子プロレス社長である松平太一よりご挨拶。その後に発表をさせていただきます。それでは社長よろしくお願いします」

うおぉぉーっ!
とうとうか
だが私より隣のお2人の方が手に汗を握っていて画面の方へ更に一歩近づいた

社長がマイクを握る
「はい、えーご紹介に預かりました全世界女子プロレス社長の松平です。本日はご多忙の中、こうやって皆様にお集まりいただき誠にありがとうございます!」

なんだか初めて見るよそ行きの社長を見ているようで勝手に自分まで緊張してくる

「えー、まず初めにウチはこの2年弱興行を打つのをやめていましたが今度久しぶりに興行を打つ運びとなりました」

会場はざわめく
そして何よりこの控室がざわめいた

「誰よ!解散するとか言ったのー!試合やるんじゃん!そんなこと隠さなくてもいいのに」

「いやぁ私も久々にセカジョのリングで試合出来るなんてもう!嬉しいです!」
ちょっと真琉狐さんは涙ぐむ

「たまのデビュー戦もあるかもじゃんね!やったね!たまぁ」

「ハイッ!」

「イェーイ!!!」
3人でGIVE ME FIVE!


社長の発表は続く
「えー、日時は6月9日!開場17時、開始が17時半。場所は後楽園ホールで詳細はまだ決まっていませんがフリー選手の参戦及び提供試合を含む4〜5試合を予定しております。詳細やチケット販売等は後日各種SNS等で発表してまいりますのでよろしくお願いします」

いつもの感じでメガネを鼻まで下げながら原稿を読み上げた

一気に情報が解禁され
控室は夢子さんと真琉狐さんの歓喜の声が響き渡る

そっか
とうとうやるんだ
私のデビュー戦も組まれるのかもしれない
胸の奥がグッと熱くなってくるのがわかる

そんな控室の空気感なんて当然わかるはずもない
社長は淡々と発表を続けた

「えーと、それに伴いまして紹介したい人物がいます」



、、、え?どういうこと?

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