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#63 薨、入場 「KID WAS...」

「長らくお待たせしました!只今より全世界女子プロレス、復活!!THE ONE MATCH開幕いたします!」

割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く

ドキドキ
ドキドキドキ


カーン!
カーン!
カーン!
カーン!
、、、
カーン!

ゴングが鳴らされた

始まるんだ
とうとう


「まずは青コーナーより薨選手の入場です!」

入場曲が流れ出す


んん?アレ?
何?

いつものパイプオルガンから始まる
荘厳なイントロではない

場内に流れているのはカルメン?フラメンコ?ウエスタン?
生のギターとエレキギターのフレーズが絡み合う
そしてそこからドッドコドッドコとドラムの重いリズムが乗ってくる

え?今回の為に作ったのかな?
思わず薨の顔を見上げた

「KID WAS...私がセカジョでデビューしたならこの曲で入場したいって練習生の頃思っていた、、、今、夢が叶います」

表情が見えない
でもそれはそれで私としては勝手に考察出来るということ
きっと薨は今あの時の少女に帰ってワクワクドキドキしてるんだ

男性のボーカルが入ってきた
日本語?
日本のバンド?

ミドルテンポの重いビートなのに疾走感が感じられ良くはわかんないけどウエスタン映画のサウンドトラックに入ってそうな曲調

ボーカルの人は囁くというか呟くように歌う
歌詞に薨の心情が綴られているのか必死に聞き取ろうとするが曲に合わせての手拍子や薨を呼ぶ声で全く聞き取れない

そんなことを必死でやっていると薨は幕の切れ目に手を掛けた

ゴクンッ
きっとこれが夢子さんの言ってたタイミングってヤツだ

そして呟くように歌っていたボーカルの人が叫び出す!

それと同時に薨は幕を開け西口通路に姿を現す

今か今かと待ち侘びていた西側のお客さんは背もたれから覗いていた

「薨だぁー!!」

「出てきたぞー!!」

そこから派生する様にさらに会場はヒートアップする

私は走り出しまずは青コーナー花道の手前で片膝を付いて待機

薨はこの曲を噛み締めるかの様にゆっくり歩く

間奏部分に入りその姿はまさに荒野で一人、決闘に向かうガンマンのようだ

そしてまたボーカルが入ったタイミングでとうとう薨は花道に
全ての会場の人の前に姿を現した

熱気、拍手、歓声
それらが合わさり大きな波のように押し寄せた

私は先導する為に花道から会場を見渡す
もうそれは昭和のセカジョの最盛期の映像でしか観たことのない光景
バルコニー席、南側の奥の奥、階段にまで人が座ってる

セカジョをずっと愛して待っていたファンが大半だろうが
スキャンダラスな記者会見、そこからバズを繰り返し世間まで届かせた
ワンマッチ興行というモノ珍しさはプロレスファンの琴線に響いたかも知れない
もちろんスター選手として活躍していたHYDRENGEAから活動を休止していた老舗団体への電撃移籍で話題を集め世界でも知られたモデルである薨の復帰戦
いやセカジョのデビュー戦

全ての歯車がガッチリと合い上手く回り出した
その結果がこの光景なのだろう

私は花道周りのチェックをする
よしっ!大丈夫だ
先に歩き出す

リングチェックしてる時には無かった鉄柵も設置されていた
今じゃ珍しい
でもそうだよなぁ運んだもんなぁ

そしてリングに駆け上がりロープを開け薨のリングインを待つ

歩いて来た薨はリングの階段の前で立ち止まり

KID WAS...DEAD

女性コーラスが入ったタイミングでゆっくり顔を上げ天井へと拳を突き上げた

そしてリングコーナーへ上がり長い脚を伸ばしロープと水平にしリングの中へ

「青コーナー!178cm、58kg、薨ぉぉぉーーっ!!」

ダダダダーーン!!
入場曲の最後の小節に合わせるかの様に薨はタオルを取り超満員の観客にその端正な顔を露わにした


※是非サブスク等で爆音で聴きながら読んでいただくとより臨場感を味わえると思います

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