072 今日がはじまる。
街が目を覚ますより少し前、僕は一度、眠りから覚める。
2階にある寝室から、寝ぼけた身体が階段の踏み板を外さないよう、一歩一歩慎重に階段を降り、1階のトイレに向かう。
トイレを済ませたら、洗面台で軽く口をゆすぎ、冷蔵庫から取り出したお茶で喉を潤し、そしてまた布団に戻る。
ここからはボーナスタイム。
二度寝の時間がはじまる。
そして、このタイミングで僕は夢を見る。
夢とは不思議なもので、記憶の片隅にぎりぎり残る女性が妻になっていたり、どちらかと言えば関係がうまくいっていない知人とチームワークのいいバディを組んでいたりする。
不思議はキャスティングだけではなく、知見がまったくない業界や、訪れたこともない国が舞台になることも多い。
そういえば一度、飛行機のパイロットになったことがあった。
飛行機にのって世界を旅するような楽しい夢ならまだしも、実際に見たのは、操縦していた機体が上空で故障するというパニックドリーム。
墜落していく機体の中で「アクチュエータが反応しません」と副操縦士が叫ぶ中、僕は何やら専門用語で指示し、コックピットにある何かをどうかして一難を得た。
目が覚めてから「アクチュエータ」という言葉が気になって、調べてみると大型機の羽を動かす重要なパーツのことだった。
なぜそんな言葉が僕の頭の中にあり、正しく脚本に組み込まれたのか本当に不思議でならない。
似たようなシーンが過去に見た映画に出てきたのか、はたまた、つけっぱなしのテレビから流れてくる音声に影響を受けたのか。
理由はよくわからないけど、確かに僕は知っていた。
アクチュエータがなんたるかを。
自分でいうのもおこがましいが、夢の舞台では、高津は宮藤官九郎や三谷幸喜に負けず劣らずの優秀な脚本家であり、野田秀樹や松尾スズキよりも的確な指示ができる演出家だと思う。
いつか夢の中を共有できる時代がくれば、ぜひ皆さんに観てもらいたい程だ。
本当に名作揃いだし、その時は無料のゲストで招待してもいい。きっと何かの舞台か映画のパクリなんだけど。
そんなこんなで、一年ほど前から印象的な夢を観た時は、目が覚めてすぐに文字に起こし、SNSで公開するようにしている。
寝ぼけているから誤字脱字も多いし、物語が成立していないものもあるけど、5分も経たぬうちに薄れていく夢の残像をiPhoneのメモにありのまま残し、その後、Instagramのストーリーに「今日の夢」として投稿する。
後で綺麗に書き直してから投稿しようと思ったこともあるが、不思議なもので、このタイミングで投稿しないと恥ずかしくて投稿できない事に気づいた。
寝ぼけている、それが大切なんだ。
内容にもよるけど、多くの場合、投稿する前にキャストの名前だけは隠す。
もしかしたら僕が持ちうる1番の秘密なのかもしれない。
だって、本当に好きな子の夢を見て朝から幸せだなーなんて思うこともあれば、逆にフラれた子と幸せになる夢を見て、朝イチから落ち込んだり。時には、親友が連続猟奇殺人犯になっていて、目が覚めてからも「彼ならやりかねないな」って思ってしまい、会ったたときに身構えたりなんかして。
あとあと、意識してなかった女の子から夢の中で告白されて、実際にあっととき意識しちゃったこととか、みんなあるよね?
ない?
あれ?
気持ち悪い僕?
それにしても、脚本と演出はうまいねんけどキャスティングが下手やねんなぁ高津。
夢の中でくらい池田エライザや小松菜奈といちゃいちゃしたいのに。
ちなみに篠田麻里子とはあるねん!!
まったくAKBに興味なかったし、篠田麻里子なんて意識したことないのになんでやろ。ほんまキャスティングど下手やわ。
篠田さんごめんなさい。
***
-もの-
対談「笑い」の構造 山藤章二著
テレビをつけたままソファーでウトウトすると、テレビの世界に入り込んでしまうことがある。
冬季オリンピック期間中にスポーツニュースが原因で、スキーのジャンプ台に立たされた夢なんかは、人生の怖い夢ランキングでもベスト3に入るものだった。
想像してごらん?
飛んだことも飛び方も知らへんのに日本代表としてジャンプ台で飛ばされるんやで!!
夢の面白さとは、その人が持つ知識量なのかもしれない。
知識があればあるほど脚本は鮮明になり、出会いがあればあるほどキャスティングの幅も広がる。ということは、楽しい夢を見たければ「笑いの構造」を身につければいい!?
ということで積読していたこの本を引っ張り出してみた。
きっと今夜は楽しい夢が見れるはず。
皆さん今夜、夢の中で会いましょう。
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