「何か助成金ないですか」症候群

ここ何年かのことですが、突然、「何か助成金ないですか」と聞く人が増えてきた感じがあります。助成金と補助金は(厳密に言えば)違うのですが、便宜上助成金として話をすすめます。区別する実益もないので。

昔は、こんなことなかったです。知る人ぞ知る、という感じだったと思います。

何年か前に助成金を紹介する怪しい業者が全国にFAXを送っているようなことがあり(助成金が怪しいわけではない)、かつ、コロナでばらまきまくったせいもあり、助成金というものがあるんだという認識が一気に広まったのではないかと思います。

何かないですか、と聞かれれば、そりゃ、ありますよ、と答えるしかないですが(笑)、正直呆れてしまいます。

こういうことをのたまう経営者で、儲かっている人はいないと思います。話を聞いていると、助成金をもらうことそのものが目的化しています。事業の成功は二の次。

よくあるのが、「助成金が出るのなら(設備投資)をしたい」という人。これ本末転倒も甚だしいわけでして、まともな経営者ならこんなことは言わないはずです。

事業運営上、必要だから設備投資をするわけで、助成金が出ようが、出まいが、やらないといけないわけですよ!

助成金が出るなら、やる投資なんて、最初からしなくていい投資です。助成金は100%出るわけではないです。4分の3とか3分の2が助成される。やらなくていい投資なら、4分の1とか3分の1は無駄金ということ。

中には本業の赤字を助成金で埋めようとする人もいます。断言します。そんな人は助成金の申請などやる暇があるなら本業に時間を割くべきです。助成金で黒字になって嬉しいのでしょうか?そんなもん、一時的な話にすぎません。

助成金をもらえば嬉しいのはわかります。タダでお金がもらえた!という感覚になるわけですから。しかし、その申請に膨大な時間を使ったりしているのを見ると、やっぱり本末転倒と思います。本業でまっとうに稼げば良いはずです。

こういった助成金は、経営者を、そして経営をダメにしていると思っています。経営者を堕落させて、国のためになるんでしょうか?国もその効果について考えるべきです。

私は、基本的に無意味な助成金が多すぎると思っています。あんなもの、ほとんどやめてよい。

真面目にやっている経営者が、助成金をもらうこともあります。本来の趣旨に沿った形で、です。しかし、こういうのは希です。

現場で感じるのは、本来の助成金の趣旨は忘れ去られているということ。助成金の支給は、国の政策推進の意味が背景にありますが、リンクしていない。単にもらえるからもらおうというだけです。

過去を遡ってみますと、助成金を断っていた”まともな”経営者もいます。

一人は、森村市左衛門。森村グループを作った人です。ノリタケ、NGK、TOTOなんかが有名です。

この方は、福沢諭吉に傾倒していて、独立自尊の考え方からすると、助成金なんて自分の主義には合わない、として断固拒否しています。当時輸出を奨励していたので、そういう助成金がありました。明治時代の話。森村市左衛門によると、その当時、助成金を受け取っていた会社はみんな潰れたとのことです。

トヨタも社史の中にこういう文章があります。喜一郎さんの発言。

政府の援助は考えていなかったが、あれば結構なことである。ただし、補助金は原価低減努力を阻害するので不要である。

トヨタ自動車75年史

もらわないと損などという、アホ経営者とは一線を画していることがよくわかる文章です。

最後にもうひとつ。SHOEIです。ヘルメットの会社です。この会社、以前に一度倒産したのですが、見事に再生しました。その反省なのか、補助金はもらわないということを表明していました。一度、とんでもない円高のときに雇用調整助成金をもらったことはあったように記憶していますが、ギリギリまで拒否していたことはよく覚えています。素晴らしい会社と思いますね。

ちょっと長くなりましたが、まっとうな会社ほど補助金などはあてにしておらず、ダメな会社ほどあてにしているのは事実です。反論もありそうですが、受け付けませんので(笑)。もらって喜ぶようなら、そういうレベルだということです。

だいたい、独立していながら、国に頼るとか、そもそも経営姿勢が間違っていると私は考えています。

もっと言うと、もらえるのだから、もらわないと損だ、という思考回路の人はそもそも経営者には向いていません。

繰り返しますが、まっとうな経営者が、本来の趣旨に基づいてもらう分は構わないと思います。ただ、そのお金は税金をはじめとする公のお金であることは忘れてはいけません。その意味で、成果は必ず社会に還元するべきです。

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