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読書録:不要不急ばんざい!遊びこそが世界を変えるイノベーションを生み続けてきたことを伝えてくれる『 世界を変えた6つの「気晴らし」の物語【新・人類進化史】』(スティーブン・ジョンソン)

僕は早稲田大学で「深圳の産業集積とマスイノベーション」という講義を担当している。ビジネススクールMBAコースの講義なので、物事を経済と功利の側面だけで語りがちだ。ただ、現代のイノベーションの多くは功利とはまた別の側面で発揮されている。InstagramもFacebookも、パッと何か役に立つとはいいづらいユニコーン企業だ。「あったらいいな」「作りたくなった」「コレ好き」はイノベーションの基盤の一つだ。
この『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語』はそれを雄弁に伝える本。

著者のスティーブン・ジョンソンはアメリカの人気作家で、本書も2017年のベストセラーらしい。
僕は知らずに、メイカー界の重鎮小林茂先生が、メイカーフェアのプレゼン他で紹介しているので興味を持ち積ん読していたものを、在宅勤務で時間ができた今読んだ。

■第一章 下着に魅せられた女性たち (衣服)
■第二章  ひとりでに鳴る楽器 (音楽)
■第三章  コショウ難破船 (味覚)
■第四章 幽霊メーカー (視覚)
■第五章 地主ゲーム  (ゲーム)
■第六章 パブリックスペース (パブやカフェ、レジャーランド)

の6章からなる本書は、味覚・衣服などのカテゴリごと(カッコ内は筆者)に、不要不急であり最終目的に関係ない遊びが、現在の社会を支えているイノベーションをいくつも生み出したことについて、歴史上の様々な事実を元に書かれている。
たとえば第2章の楽器は、人間が文字の発明よりも早く石器時代から音楽に親しんでいる(ホネで作った笛が出土する)ことから始まり、その笛の音階から現代まで通じる「音楽」のルーツと、「文化が違っても共通する、気持ちいいと感じる音や音階」を導き出す。そして自動演奏する楽器が、電気が一般的になる前のヨーロッパで人気だったこと、自動演奏楽器の演目からプログラミングが生まれ、さらには現在のコンピュータに繋がったことが説明される。どの章でもそうした「生存に必要というより、好奇心と探究心がイノベーションを起こしてきた」という事例が豊富に出され、目から鱗が落ちるような思いを味わえる。宮下芳明先生の「コンテンツは民主化を目指す」にも通じるところがある。

遊びはなぜイノベーションを起こすか

そうした幅の広さだけでなく、遊びの価値について深く説明しているのも本書の魅力だ。不要不急の遊びはマイナーなので、メジャーな活動に比べて女性や少数民族、市井の一般市民といったマイナーな人たちがイノベーションを起こしている。生産性向上を狙う活動は王侯貴族や軍人、プロ研究者ばかりが目立つのとは対照的だ。もちろん、研究者の遊び心や王侯貴族の無駄遣いがファッションや食事で大きなイノベーションを起こしたことも本書では語られている。
また、コーヒーやチェスなどの趣味が、キリスト教やイスラム教といったスーパーパワー宗教をさらに超える範囲に広がったことや、チェスなどのゲームルールがそうした広大な範囲で協調的に発展してきたことを、現在のLinux等オープンソースになぞらえるのも秀逸。
「役に立つ」よりも「面白い、やってみたい」はより人間を生産的にするのだ。
メイカーフェアの生みの親デールも、こんな言葉を残している。

そもそも、イノベーションを生み出すのは“Play”、あくまで遊び感覚からだと思っている。
アイデアを思い付く最初の段階で、「ビジネスとして、成功するか、失敗するか」なんて考えていると、新しい発想は出てきづらい(笑)。
「俺の作ったロボットを見て、ビックリした人が、どんな顔をするかな?」みたいなことをスタート地点にしている。
もちろん何か作れば、その過程で技術は身に付くし、ひょっとしたら作ったものが大ウケしてビジネスで成功するかもしれない。だけど、一番いいイノベーションは趣味、ホビーとしての世界で、考えるよりも本能のままに作ることから始まると考えている。

今の社会はいろいろな側面があり、複雑になってきている。もちろん研究機関があり、新しいものを生み出すための組織もある。だけど、面白いアイデア、イノベーションは、自分たちの楽しみとしてMake:をしながらその中で気付いたこと、作ったものを見た人と実際にやりとりして気付かされたことの中にあるのではないか? と考えているんだ。
僕らはみんな何かの作り手だ!

こうした、「遊びの効用」は、レズニックのライフロング・キンダーガーデンや、教育について語った「日本の十五歳はなぜ学力が高いのか?」にも通じる。

著者のスティーブン・ジョンソンは、他にも「世界をつくった6つの革命の物語」などのヒット本を書いていてTED Talkも人気で、「ドヤ顔できそうなうまい切り口を提供しておしまい」的なFACTFULNESSっぽさが鼻につく部分は本書にもある。でも、それだけではベストセラーにならない。様々な事実を広く調べ、ストーリーに繋げて遊びの価値を書き表したのはすばらしいことだ。ベストセラー作家が書いた本だけあって、内容が多岐にわたるのに読みやすくてスッと頭に入ってくる。
(そういえば、学者やプレイヤーでなくて、プロの作家の本読んだのひさしぶりだ)


今こそ「不要不急」の意味を噛みしめ、やりたくなったことの中で今の環境でできることをぜひやるべきだ。

読みながら書いたメモ書きはこちら
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 おもちゃとゲームは真面目なアイデアの序章である イームズ

遊びの本、
本書は人生で最も強烈な喜び、恋愛とセックスを除外している
 実用性のない楽しみ、ブライアンイーノの言う「やる必要のないことすべて」

■序章 マーリンの踊り子

古代バグダッドでは高度な器械の設計図がまとめられてて、それはヨーロッパ以外の場所で発明された機械として貴重だが、なぜかマジックや遊びのための機械が多い

ヨーロッパでも1700年代などの高度な機械はからくり時計で、遊びのためだった

計算機の祖バベッジはマーリンからくり時計博物館に大きなインスピレーションを受けた(!
気晴らしはヨーロッパ以外で育つ(!

見世物としての機械人形オートマタがマルクスに影響を与え、ロボットになった

遊びではしょっちゅうルールを破って新しいことを試すのでイノベーションが生まれる

■第一章 下着に魅せられた女性たち 衣服

機能からファッションへ
貨幣ができたことでお金になれば冒険するようになった
楽しいもの、美しいもの→投機が集まる→イノベーション

ウインドウショッピングの発明

産業革命による娯楽ショッピングの民主化

そもそも産業革命のきっかけが、「木綿の良いファッションを求める人々の欲求」ではないか。供給だけに目を向けるだけではいけない

1723年のイギリスで「10年も続かない流行は愚かだ」みたいな記述がファッション雑誌にある

1770年代には毎年の流行になった

1700年代後半から、身分を服装で表すというより流行のほうが強くなった。ファッションが平等性をもたらした
この頃の評論家は上流と下層の区別がつかなくなることを嘆いている

百貨店やショッピングモールも、ファッションから生まれた遊びの発明である

ショッピングモール→テーマパーク,ディズニー
ディズニーはそもそもショッピングモールを中心にして、都市をまるごと作りたかった

■第二章 ひとりでに鳴る楽器 音楽

楽器は槍や服と同じぐらいの歴史(10万年とか)がある
その頃から今と同じ音階が使われている

1000年以上前のイスラムでオルゴールが発明されていた

楽器→ジャガード織り機→コンピュータ
という発展
入力機器としてのキーボードよりも、楽器の鍵盤の発明のほうが何百年も早い,そもそもキーが音楽だ

文字や記号などの抽象的や思考は、音楽をもとに生まれた。音楽は抽象的な思考のルーツ

1800年代の終わりには自動演奏ピアノのデータが流通していて、人々は電気が身近なものになる前から音楽を楽しんでいた

■第三章 コショウ難破船 味覚

-紀元前からクローブは1万キロも貿易されていた
-大航海時代はスパイスが起こしたに近い
-中でもコショウのため。
-そのコショウは、本能が食べ物の毒を避けるためのピリピリした反応を、旨味にかえる
-どんなジャンクフードでも世界中にルーツを持つ食材でできている。
-そうした世界のグローバリズムは、多くがスパイスのために起きた。


■第四章 幽霊メーカー 視覚

-お化け屋敷、1700年頃の煙に投影する幽霊
-原始的なパノラマ
-人間の錯覚利用が、映画やTVに
-そして、TVで毎日見ることによる刷り込みからセレブリティが生まれる。単に、毎日見るということだけで。

■第五章 地主ゲーム  ゲーム

-15世紀のベストセラーは「チェスのゲーム」というチェスルールと社会学の本
-この本はおそらく初めての、社会や協調の本。それまでの本は、社会を王である頭と足である庶民のようにひとつとして説明していた
-モノポリー、人生ゲームも19世紀に原型がある
-モノポリーの原型である地主ゲームリジー・マギーという女性が1904年に作った。気晴らしの歴史は多くが女性やマイノリティが切り開いた (!
-モノポリーの目的は子どもたちに世の中の現実、独占の恐ろしさを教えるため
-最終的に大手メーカーと組んで大規模化したジェームズダロウがモノポリーの発明者として知られているし、ゲームも資本家の野心の行き過ぎを戒めるのではなく、起業家賞賛になってしまった。
-ゲームは国境を超える。チェスの通じる範囲はキリスト教の範囲よりはるかに広かった(!
-チェスのルールは広い範囲で長い改善をされ、影響されながら進化してきた。1000年前のLinux
-統計の発展には、均質なサイコロが作れるようになったことが影響してる
-ゴムボールに見られる素材のイノベーション
-コンピュータゲーム 1960年代、コンピュータが発注して3ヶ月かかけて届くころのPDP-1でも、人々はコンピュータゲーム「スペースウォー!」のデモで盛り上がっていた
-最初のCGは、そのゲームの背景を盛り上げるために使われた
-世界最初のウェアラブルPCは1960年代、クロードシャノンとエドワードソープが、カジノのルーレットの速度から落ちるマスを予測するイタズラのために作られたもの
-IBMのワトソン開発も、クイズ番組でチャンピオンを負かすというデモのため

■第6章 パブリックスペース パブやカフェ、レジャーランド

-バーは社交場でもあるが犯罪の温床でもある。奴隷制度のあるアメリカで初めて人種が混交する場所でもあった
-酒場はLGBT等のマイノリティにとっての場所でもあった
-カフェ、コーヒーの歴史
-カフェはメディアサロンやギャラリーでもあった
-「オーガニック」というイノベーションもカフェから
-自然を楽しむという遊び,動物園

■終章 驚きを探す本能

人間の本能に、遊びをもたらすドーパミンを求めるものが組み込まれている。それは驚き、新しいことを探すもの


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