[書評]サービスデザインの教科書 その1

この本を選んだ理由

サービスデザインという言葉が聞かれて久しいが、自分の中で明確な定義やこれまでの考え方との違い(そもそもサービスデザイン以前の考え方自体がハッキリわかってない…)といったそもそもの部分での理解不足を感じていた。
ネットの記事やブログなどで情報収集するものの断片的な情報ばかりで、体系的な知識がなかなか身につかず、全体像を把握したいと考え、本書を手に取った。

サービスとは何か?

本書ではサービスを以下の2種類に分類して紹介している。
1つ目はG-Dロジック(グッズ・ドミナント・ロジック)
2つ目はS-Dロジック(サービス・ドミナント・ロジック)

G-Dロジックとは?

前提にあるのは「企業が価値を生み、それを消費者に与える」と言うモデルである。そのモデルは「企業の生産活動によって、消費者のニーズに応える財(製品やサービス)が生み出され、売買を通じて、その価値が消費者の手に渡るそして、消費者はその材を使用して自らのニーズを満たすと同時に、その材の価値は減少する」
「市場で売れるもの=消費者がお金を支払って買いたいと思うものをつくって売り、それを消費者が使い切ったらまた売る」という一般的なビジネスの発想とも一致する。

要は企業が製品・サービスを販売して、消費者が手にした瞬間が最も価値が高く、使っていくうちに価値がどんどん下がっていくというものである。
例えば、車は新車の状態が一番価値が高く、走行距離を重ねて、キズや使用感が増していくと価値がどんどん下がっていくのと同じ話である。
消費生産社会に慣れ親しんでいる私たちにとってはそんなに違和感がなく、むしろ何が問題なの?という感覚である。

本書ではG-Dロジックの問題点を以下のように説明している

売り物自体に価値があると考えることで、事業の改善や開発のための検討が、その売り物のカテゴリーの範囲に自ずと限定されてしまう。そして売り物を消費者に渡して対価を得ることに事業のゴールが設定されるため、それが実際にどのように消費者に使われているかに関心が向かなくなってしまう。

企業側にとって、売った瞬間が最も価値が高いタイミングなので、売った瞬間の価値をいかに高めるかが最重要課題なのである。
なので、その後、どう使われているかは大した問題ではない。

ところが価値観が多様化した現在では、1つの商品に対して1通りの使われ方しかないというのはありえない話で、ユーザー特性や利用状況などを鑑みると、用途の幅広さは無数にある。
そうした状況下でどう使われるかということがその製品の価値を決める一つの要素となる。


S-Dロジックとは?

財の生産や販売ではなく、消費者が財を使用することによって生み出される価値の方に焦点を当てる。ここで、財の使用によって生み出される価値とは、ユーザーが財を使用することで知覚、認知、判断される主観的な好ましい体験を意味する。

消費者の使用により向上する価値(=使用価値)に焦点を当てるところはG-Dロジックとは全く逆のアプローチである。
先ほどの自動車の例でいうと、単なる自動車の購入ではなく、スキーやスノーボードなどの大きな荷物を抱えた旅行に自動車を使うことや自分の車を好みの仕様にカスタマイズするといった消費者の体験に価値を置くことである。
それらの価値に対するサービスの例としては、スキー板やボードが置けるような専用スペースや設備を設置したり、好みの仕様にカスタマイズしやすいように様々なオプションを準備することが考えられる。

これらの例から考えても、S-DロジックはS-Gロジックのように消費者との接点が製品の販売のみという瞬間的な点ではなく、接客、製品・サービスの情報提供といったユーザーが使用価値を高める全てのものにまで及ぶ。
S-Dロジックは、消費者が製品・サービスを使うことで価値を高めていくことから単なる販売による企業から消費者への価値提供ではなく、企業と消費者、両者による価値共創と言える。


価値共創のビジネスとは?
S−Dロジックの特徴である価値共創について掘り下げてこう説明している。

顧客が何を欲しいのかを考える前に、「そもそも、何がしたいのか?」をさぐりだすか、あるいは「これができたら素敵だよね!」と提案する。なぜなら、顧客が欲しいものではなく、達成したいことからビジネスを考えることで、顧客と一緒にそのやりたいことを達成する、共創の機会が見つけられられるようになるからだ。

真っ先に思いついたのがライザップだ。必ず痩せるダイエット食品ではなく、顧客と一緒にダイエットというゴールを目指すライザップはまさに価値共創と言える。

さらに価値共創の強みとして本書では以下の4つをあげている。

成果思考
顧客は利用によって生み出される価値や結果を求めている。
企業の提供する支援がその成果の達成に近づくほど、顧客の期待や支払い意思が高まる。

持続的な接点
製品の購買後もその使用価値を高め、生み続ける様々な支援を行うことで、接点が増え、インタラクションが持続する。

多様な文脈への関与
様々な顧客による財の異なる使い方や使用の場面の違いを考慮することが必要となるが、このことは自社の提供物が使用される機会や範囲の広がりを生み出す可能性をもたらす。

顧客の能力の活用
共創のプロセスでは、企業は顧客の持つ知識や経験、センスや技能を適切に引き出していく必要がある。
顧客の学習や成長、習熟、経験の積み重ねといったことが価値に大きく関わるサービスの世界では、顧客の知識や技能を豊かに育んでいくことで、その体験的な価値や満足を高めることも期待でき、それらはビジネスにとって極めて有効なリソースとなる。

ざっくりいうと、共創価値の提供は顧客のゴール達成までのある程度の期間におけるプロセスに関わることである。
そのプロセスの中での複数のタッチポイントで様々なビジネスチャンスがあり、プロセスに並走することで顧客は製品やサービスのファンとなることで、各種サービスへの支払い意欲を維持できる。
先ほどのライザップでいうとサービスの範囲がトレーニングを行うジム以外の食生活などのジム以外の空間やシチュエーションにまで及ぶことで、③の多様な文脈への関与を実現し、ライザップがカウンセリングを行うことで②の持続的な接点を持ち、カウンセリングやパーソナルトレーニングの結果、顧客が知識や技能を高めることで④の顧客の能力の活用を実現していることになる。


顧客満足からの脱却
ここでは顧客満足を満たすことはもちろん重要だが、盲目的にそればかり追求しすぎてしまうと、「価値共創」の持つ様々な利点を損なってしまうとしている。

顧客満足度を向上させるために、顧客のニーズや不満を探り出し、提供する製品や接客業務の見直しや改善といった対応が取られることになる。
このような「価値提供」のアプローチでは、顧客の持っているリソース(知識、経験、能力など)の明確な位置付けがなされず、それを積極的にサービスに活かす視点がほとんど考慮されていない。プロバイダーがユーザーの反応を見ながら一方的に対応を取ることは、顧客による価値創造や顧客との価値共創の機会を失うことを意味し、帰って満足度を低下させる可能性がある。

顧客を過度にもてなし、お客様扱いして、顧客に何もさせないことを美徳とすることは企業から消費者への一方通行の価値提供である。(ユーザーの不満のみを排除することに意識が向いてしまうとこうなりがちである。)
価値共創の考え方では、消費者を受け身の存在として捉えず、消費者のリソースを活用する対象とすることで、持続的な接点を増やし、ビジネス機会も接点の増加によって増える。
そうすることで、消費者が製品・サービスにコミットする機会が増え、結果的に満足度が向上するのである。

まとめ

生産消費のG-Dロジックに慣れ親しんでいると、S-Gロジックの考え方に慣れるのに一苦労である。S−Gロジックを理解するのにいちいちG-Dロジックならどうだろうかと考えてからでないとS-Gロジックが頭に入ってこなかったりする。(もしかするとここがサービスデザインを難しくしている要因なのかもしれないが・・・)

本書ではIKEAやappleなどの実際の製品・サービス例を多く挙げているので、概要が今ひとつ分からなくても、事例で理解が深まることが多かった。
世の中を見渡して、どの製品・サービスがS-Gロジックに当たるものなのか考えることで、S-Gロジックの理解が深まるのであろう。
この書評を書いている際にもライザップをS-Gロジックの枠組みで捉えることで、フィットネス業界におけるライザップの革新性に気づくことができた。


※1章だけでここまでの長文になってしまったので、一旦ここで区切りをつけたい。(引き続き2章、3章は別のノートで書いていく予定)

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