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書評 「複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考」

この本を選んだ理由

世の中には3C分析やSWOT分析などフレームワークと呼ばれるものは無数にある。
それぞれのフレームワークの特徴を理解し、状況に合わせて使いこなせることができれば、様々なビジネスシーンにおいて、他を圧倒し、ドヤれることこの上ないであろう。
しかし現実はそう甘くはない。それぞれのフレームワークを使いこなすには深い理解だけではなく、実践での経験も必要だし、実践での利用に耐えるまでのある種のトレーニングも必要である。
1つのフレームワークを使いこなすことですら難しいのに、無数にあるフレームワークの1つづつを実践レベルまで持っていくのは相当に困難な道である。

濱口秀司氏(USBメモリの発案者であるビジネスデザイナー)のインタビュー記事で2×2のマトリックスの有効性を感じたり、最近、マーケティングの基礎であるSTP分析で2軸での考え方に触れる機会が多かったりと、自分の中で静かな2軸ブームの予兆を感じ、2軸での問題整理をマスターすれば、ある程度の問題はなんとかなるのではないかという想いから本書を手に取った。

考える枠を決める

2軸思考の具体的な手法の前に、その原則について筆者はこう説明している。

「真っ白の紙に、好きなように絵を描いてください」と言われると、何を描こうか、どこから描き始めようかと戸惑ってしまう。
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白紙のゼロベースではなく、考えるべき「枠」を作ることで、誰でもその「枠の中」に集中して考えることができるようになります。
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何を考えるにしても、最初にどのような枠にするかを考えることが重要です。実は枠さえ作ってしまえばあとは中身を埋めるだけ。反対に、枠がないままいくら中身を考えても、整理されていないバラバラの情報を扱うことになってしまい、結局、時間の無駄になってしまいます。

タスクが溜まりに溜まって、何から手をつけていいか分からないことはよくある話だ。
そういう場合に、緊急度と重要度という枠を作って、そこにタスクを埋めて優先度を洗い出す2軸のフレームワークをよく見かける。
優先度を決める上で大切な緊急度、重要度という2つの要素に集中して、優先度を効率的に洗い出しているのである。
もしこれが、ワクワク度、手のつけやすさの2軸であれば、気分が乗るタスクは洗い出せても優先すべきタスクは洗い出せないであろう。
せっかく2軸に分けても、その目的に応じた2軸でないと本来の意図とは全く異なった結果が出てしまう。
問題に当たった時は、まずは2軸で整理する思考のクセをつけること、そして目的に応じた2軸を設定することが重要なのである。

2軸フレームワークの作り方

いよいよ、実践編である。
本書では2軸のフレームワークを以下の3つに分類している。
⑴「マトリクス」タイプ
⑵「4象限」タイプ
⑶「グラフ」タイプ
この3つを目的に応じて使い分けるのである。

⑴何にでも使える「マトリクス」タイプの作り方

マトリクスタイプは2軸思考の中でも最も基本的なフレームワークである。


その特徴を以下のように述べている。

マトリクスタイプの一番の特徴は、「全体を俯瞰することができる」こと。あらゆる場面で使え、たいていのことは整理することができます。
例えば、
・問題の全体像を捉えたい。
・目の前の雑多な事象を整理したい
・複数の選択肢から意思決定するために優先順位をつけたい
という場合に有効です。
3つの2軸タイプのうちどれを使えばいいのかすぐに分からなかったり、迷ったりする時は、まずこのマトリクスタイプを使ってみてください。


⑵ポジショニングがわかる「4象限」タイプの作り方

4象限タイプとは2本の線を引いて、4つの区分を作る1次関数や2次関数で見られるグラフである

本書では特徴を以下のように述べている。

4象限タイプは、2本の線を引いて真ん中で交差させることで4つのセグメントを作り、「ポジショニング」や「全体の分散の傾向」を捉えるものです。4つの象限の枠がそれぞれに意味を持つので、整理や分析の結果から次の戦略が明確になりやすいフレームワークです。
つまり、
・バラバラに散財している事象のポジショニングを整理したい。
・どの象限にどのようにデータがまとまっているのか、散財しているのかを把握したい。
・ポジショニングごとに戦略を考えたい、課題を洗い出したい。
という場合にこのタイプを選択します。

つまり、全体像を把握しつつ、内包される要素の傾向を見ていくというものである。先ほどのタスクの重要度を洗い出すフレームワークはこれに当たるだろう。

4象限タイプのポイントとして、本書では仮説の重要性を説いている。

多くの要素から2つの軸に絞り込むので、その絞り込みの時に仮説思考を使います。
例えば、全国にある店舗のデータを分析する時、マトリクスであれば縦軸に店舗名、横軸に売上、利益、店舗面積、地域の経済状況、店舗運営コストなどのデータをMECEで並べていきます。しかし、4象限の場合はパラメーターを2つ(タテ、ヨコひとつずつ)に絞る必要があるため、「店舗面積が広い方が売上が良いのではないか。縦軸に店舗面積、横軸に売上を置いて調べてみよう」などと仮説を立ててから軸を決めます。

いきなり4象限タイプを作るのではなく、まずはマトリクスタイプで全要素を見える化してから、仮説を元に要素をピックアップしようということである。
これにより、全要素の総当たり戦のような無益な作業を避けることができる。

⑶変化を捉える「グラフ」タイプの作り方

グラフタイプとは折れ線グラフや棒グラフなどのグラフと聞いて、思い浮かべるものである。

本書ではその特徴をこう述べている。


グラフタイプは、2本の線で左下で交差させて「変化」を表したり捉えたりするためのフレームワークです。
グラフタイプは例えば、
・売上データを年ごとの時系列で分析する。
・売上向上の3つのアクションの効果を示す。
・店舗の売上構成の変化を捉える。

変化の推移を取られる、もしくは数値の違いを視覚化するのに最適なフレームワークで、それぞれの目的に応じて、棒グラフ、折れ線グラフ、ヒストグラムなど最適なグラフを選ぶことが重要である。

実践編

それぞれの3つのフレームワークの特徴がわかったところで、次は実践編として、事例を踏まえたそれぞれの使いどころを紹介している。
大前提としては、まずマトリクスタイプで全ての要素を見える化し、そこから必要に応じて4象限タイプ、グラフタイプに展開するのが基本である。

ここからは二軸思考を使って、日常の中で直面する様々な問題をどう解決していくかを解説していく。

[問題1] 何が問題なのかわからない。
様々な要素が絡み合って、結局何が問題なのかわからないといったケースである。
こういう場合はどのフレームワークをどう使えばいいのだろうか?

状況がシンプルに整理できて構造がわかれば、解決策を出すのはそれほど難しくありません。
8割の問題は事象、データをマトリクスで「並べるだけで」何かが見えてきます。

まずは問題を構成している要素をマトリクスで並べて、見える化することが大事ということだ。
頭の中だけでは多元的に考えられなかった問題も、見える化することで、整理され解決の糸口が見えてくるというものだ。

本書では2軸で考える際に、縦軸に「空・雨・傘」のフレームワークを推奨している。

「空・雨・傘」とは
空:空を見たら、雲がかかっていて、[事実認識]
雨:雨が降りそうだったので、[事実解釈]
傘:傘を持っていく。[判断]
という問題解決の3段階の思考パターンのフレームワークです。これを私は2軸思考に応用し、「空・雨・傘」を「事象・課題・アクション」という名前に変えて使っています。

例えば、全社売上が売上15%減少している原因を探す際に、横軸に商品を並べて、縦軸に事象、課題、アクションの3つの項目を入れたマトリクスを想定する。
その場合、事象は各商品の前年比売上○○%減などといった客観的事実で、その事象の持っている課題、例えば優れた競合商品にシェアを奪われているが挙げられ、アクションでは課題に対しどうすれば良いかの行動を入れる。
そうすることで、各要素に対しての課題と取るべきアクションが区分けされ、問題が整理される。

[問題2] 会社の成長戦略を打ち立てる。会社の成長のために、どの商品に注力していくのか、またどの商品を主力から外すのかと判断の際、各商品の、過去との比較や将来への可能性など判断の根拠を2軸思考で導き出していく。

まず、やるべきはマトリスクによる見える化である。

まず、取っ掛かりをつかむためにマトリクスタイプで整理する。どこから手をつけていいかわからない時は、まずマトリクスタイプで可視化。マトリクスのデータを眺めていると、全体的な傾向や特異点を見つけることができる。

マトリクスで各商品の売上や前年比などのデータを入れて、そこから全商品の中での特異点を見つける。(例:商品Aだけが前年比の売上が高い。)



特異点を見つけたら、グラフや4象限を使っての分析を行う。


特異点を見つけたら、「仮説」を立てて次のステップに進む必要があります。
例えば、全体の売上は下がっているけれども、本当に全商品が不振なのかはわからない。そこで、売上の大部分を占める主力商品のここ5年間の売上の推移を見える化したらないか分かるかも。。。という仮説です。
あるいは、売上だけでなく、利益も含めた全体の分布を見える化したい。そこから、利益率が高い「群」の特徴が見えてくるのではないか・・・。

特異点から仮説を立てて、その仮説に合ったフレームワークを使うことが重要である。前者の例は推移を見たいのでグラフが最適で、後者は分布をみたいので、4象限が最適である。

まとめ

様々な問題にぶち当たった時に大事なのはまずはマトリクスで見える化することだ。面倒くさがってこの作業を端折って各論で考えがちだが、1つや2つしか要素がない問題ならまだしも、5つ、6つの要素からなる問題を頭の中でそれぞれの特性や課題を区別して考えるなど不可能である。

見える化が終わったなら、そのあとは仮説を立てることが重要だ。単なる情報の羅列であるマトリクスを活かすも殺すも仮説次第である。
もちろん、初見で解決につながる仮説を立てることは不可能なので、トライアンドエラーを繰り返すことになるが、繰り返すことで、勘所もわかってくるのではないかとなんとなく思っている。

そこから、仮説に応じて、グラフや4象限へと展開するわけだが、マトリクスと仮説ができたなら、問題整理の8割方は終わったも同然ではなかろうか。


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