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90年代の音楽を知らないアナタへ その73 BELIEVE(98)/CHER 両性具有ヴォイス。ミレニアムへ突っ走った美エレクトロの決定盤

2000年を前に世界中でお祭りムードがワンサカわき起こる中、音楽業界からはもの凄い曲が誕生していた。60年代から活躍している歌手・女優のシェールが歌う「BELIEVE」である。

お祝いムードの盛り上げ役として、この絶妙な時期に誕生したこの曲はビルボードへチャートインした初週こそギリギリ100位以内だったが、浮き足立つ世の中の勢いに背中を押されるように徐々に知名度が弾けて世界中で鳴りはじた。そしてついには全米1位にまで昇りつめたのである。

90年代にヒット曲を出していなかったシェールは、わたしをはじめ、当然のごとく90Sキッズの間での知名度は皆無に等しかった。正直この曲がなければシェールを聴く時期はもっと遅れていたかもしれない。この曲の大ヒットがわたしの音楽探究心を、世界中の若い世代のシェール・チャンスの時計の針を速めたことは否めない。

90年代はマライアがデビューし大活躍。さらにセリーヌもホイットニーも大ヒットを放ち、グロリアエステファン、マドンナ、デスチャ、クリスティーナアギレラなどなど。とにかく実力派の女性が大活躍した時代。その締めくくりとして大重鎮が重い腰を上げたかのような、ラスボス感たっぷりに登場したのがシェールであり、彼女の歌うこの曲だったのであるからインパクトはもの凄くあった。

ラジオから流れてきたこの声を聴いたとき「え?何この声!すげ!」と驚いた。そしてクラブでは必ずと言っていいほどアゲの仕上げとしてプレイされるようになり、フロア中に響き渡るシェールのシャワーを浴びては朝方にいつも昇天しながら踊り狂ったものである。

シェールの声は女性とも男性ともつかない両性具有の声だなといつも思う。このアンドロジニー的な音波にわたしが感じているものはあながち間違ってもいないようで、げんに彼女のこれまでのキャリアをはじめ言動に共感している女性やLGBTQの人たちが多いときく。男女の別を超えた殿上人のような気配を漂わせ、もはや崇拝に値するのだとか。ファンからするとまさしくICONなのであろう。

そんなシェール様が2000年を目前に突如新曲をリリースしてくださったのだがら、膝を折り曲げ地におでこをつけながらありがたく聞き入った人が世界中にいたという結果がこの大ヒットというわけだろうか。

もう一つ、わたしがこの曲の好きなところはメロディのキャッチーさである。これって、いわゆる「歌謡曲」。哀愁を誘う思わせぶりなメロディに、キャッチーなサビを持ってきて耳から離れない歌詞のリフレイン。ラジオフレンドリーであるし、エロティック路線が横行していたヒットチャートに、ポジティブなお祭りソングが皆のストレスを解き放つかのように流れてくるのがなんとも新鮮で心地よかった。いっときでも純朴になれたのだから。

あれから20年が経過したが、この歌の持つパワーは衰えないどころか、ますます意味を持ち始めてその重要性が巨大化している。新型コロナウィルスによって何もかもが一変してしまった今、信じられるのは人々の愛だけだろうと思われたが、その愛でさえもコロナ禍では悲しい終わりを迎えてしまう事例も多くなってきた。ミレニアル目前での能天気な気分とは180度違って聞こえてくるのだ。

そんな中でもシェールの歌声は何もかもを包み込んでくれる、森羅万象の新たな生命力ともいえる魅力なのだ。あ、やっぱりこの人は殿上人なのかもしれない。

一日一日を彼女の歌声とともに、改めて大切に過ごしていかなくては行けない時代が来たのかも知れない。


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