見出し画像

90年代の音楽を知らないアナタへ その40 YOU PUT A MOVE ON MY HEART(95)/TAMIA 完成された歌唱と美貌

クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子としてデビューしたカナダ出身の女性シンガー、タミアのデビュー曲に選ばれたのは、93年にミーシャ・パリスが発表した名バラード「YOU PUT A MOVE ON MY HEART」だった。

5分をゆうに超える長丁場のバラードであり、終始うっとりするようなロマンチックなアレンジと、粘っこいセクシャルな歌唱で定評のあったベテラン歌手にこそ相応しい曲だと思うのだが、そんなラジオフレンドリーでも若手のデビュー曲としてもかなりハードルが高い難曲を、タミアに歌わせたクインシーの狙いはなんだったのか。

ここで90年代にデビューした女性シンガー(グループ含む)を挙げて見ることにする。マライア。シャナイア。フェイスヒル。ブランディ。モニカ。シェリルクロウ。アラニス。ジュエル。ポーラコール。エクスケイプ。TLC。アリーヤ。トニブラクストン。ブラウンストーン。SWV。とにかく個性とクセの強い名手ばかり。こんな中に新人のシンガーを埋もれさせずに、なおかつ注目を浴びさせることは至難の業であろうことは誰もが予想できる。

並の楽曲を歌わせるだけでは不発に終わってしまう。きっとクインシーと彼らのチームはそう思ったに違いない。そしてこのラインアップを見て気づく方も多いかもしれないが、これだけ女性シンガーが揃っていながらホイットニーやセリーヌの歌姫路線はほぼいない。マライアのみである。ホイットニーやセリーヌ、マライアの要素をすべて備えているのが実はタミアだけなのである。黒人、カナダ出身、表現豊かな歌唱、美貌。ポテンシャルは十分。そこでお試しとしてソロでいきなりデビューさせる代わりに、クインシー自身の企画アルバム「Q'S JUKE JOINT」の1曲としてオファーすることにし、世間の反応をみようではいか、ということになった。

実のところタミアはカナダで行われた親善イベントでこの曲を歌っている。そこでのパフォーマンスをきっかけにしてクインシーのお眼鏡にかなったのだが、いまとなってはクインシーの名前を出さずとも、むしろクインシーの秘蔵っ子時代を知る人の方が少ないと思わせるほど、タミアは彼の元を巣立ってからも数々のヒット曲を放ち、立派な正統派R&Bシンガーのひとりとして人気を不動のものとしている。

そんなタミアだが、わたしの中ではいつまでもこのデビュー曲を見事に歌い上げたキュートなタミアのままである。この曲を超えるインパクトのあるパフォーマンスをその後のタミアからは見られていないのが本音でもある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?