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色彩あふれる300万人のコミュニティーで得たもの

 趣味でテキスタイルデザインを始めて2年経ちました。

 アメリカの会員サイトSpoonflowerにデザイナー登録したのが2020年9月。パンデミックの不安を何かで紛らしたい。当時はそんな気持ちもあったかもしれません。結論から言うと大正解。新天地を心から楽しめた2年間でした。

 全世界に会員300万人。洋裁を愛する人たちのコミュニティーです。登録デザイナーは3万人。プロのテキスタイルデザイナーをはじめ、グラフィックデザイナー、イラストレーター、画家、美大の学生、デザイン好きの主婦などさまざま。にぎやかな群れへ日本から飛びこんだ私は、デザイナー経験ゼロでも好奇心だけは人一倍のおじさんです。

 ファッションや洋裁に無縁だった私がテキスタイルデザインに惹かれた理由は、たぶんこれ。

「鳥と魚」マウリッツ・エッシャー(オッテルロー・タイル美術館蔵)

 エッシャーが好きなんです。
 モチーフを縦横に繰り返しながら広がる不思議な世界。こんなの作れたら楽しいだろうなぁ。

飛びこんでは
みたものの

 もともと私は細かい手作業が苦手でした。
 近所でも評判の不器用な子で、独楽が回せない、チューインガムが膨らまない、家庭科で縫ったぞうきんはバケツでしぼった瞬間タオルに戻って、通知表は5段階の2。そんなお前が繊細なデザインだと?

 と周囲に反対されそうですが、ダメかどうかはやってみなければわからないですからね。サンダル履きでコンビニへ行く感覚で、私はふらっとデザインの世界へ足を踏み入れました。自動翻訳サイトの助けを借りながら、300万人の輪の中へ。

 そしてすぐ、2つの壁に行き当たってしまった。

女性たちで
にぎわう王国

 洋裁好きの集まりだから予想はしていたものの面食らいました。女性が9割、いやもっと。発車前の電車に駆けこんだら女性専用車両だった時のあの感じです。布をデザインする人も買う人もほぼ女性。

 男女を紅白対抗みたいに二元論で考えるのは好きでないのですが、これだけ極端な比率のコミュニティーに飛びこんでみると、自分に欠けているものがいろいろと見えてくる気がします。

 女性がどんな柄に惹かれるか、男の私も知っておかなければ。
 でもどうやって。

 わからないままアカウントを作り、作品を出品し、毎週開催されるデザインコンテストにも参加し始めました。するとすぐに、もうひとつの壁が目の前に。

何色を選べば良いか
わからない

 それは色の壁でした。
 花、熊、サンタクロース。モチーフは描けても色が決まらない。どんな配色の布なら人は身にまといたくなるのか見当もつきません。

 お前の好きな色にすればいいのさ。
 と言われても、そもそも自分の好きな色がよくわからない。しいて挙げるなら紺と黒。でも毎回紺と黒の布というわけにもいかんよね。

  手当たり次第に色をはめてみる。
    ↓ ↓ ↓
  自信ないままコンテストに出す。
    ↓ ↓ ↓
  いいねが少ない‥‥のくり返し。

 色彩感覚の未熟さにうなだれる日が続きました。
 配色のコツを教えてくるウェブサイトを手当たり次第調べましたが、助言通りにやっても何だか借り物競走っぽくてしっくり来ません。

 黙々と試行錯誤しながら半年過ぎた頃、意外なところから変化が始まりました。

たたえ合う
デザイナーたち

 他のデザイナーたちが私の作品にコメントをくれるようになったんです。

 ここのデザイナーたちはほんと仲がいい。面白いデザインを誰かが投稿するとみんなでたたえ合います。
  Awwwww!
  Love it!!
  Amazing!!!
  Gorgeous!!!!
 ちょっとかしましいくらいです(笑)
 男中心の世界だとこうはならんだろうなぁ。

ボブ「おいタカシ。お前の仔猫柄、すげえ良いじゃねぇか」
アダム「とくに色づかいが絶妙だぜ」
私「お、おぅ」

 のような男同士の会話はあまり見られません。
 駆け出しの私のデザインにコメントをくれるのは、コンテストでたびたび入賞している女性デザイナーたち。国籍はさまざまです。彼女たちの色づかいのセンスは毎回すばらしい。

 先輩からの言葉が励みにならないわけがありません。書き込まれたコメントを読んでみてください。ある共通点に気づくと思います。

Hide and Seek

"So much fun with pretty colors!!!"
楽しい柄ですね。色もかわいい。


Curious Eyes

"This is beautiful, I love the colour palette!"
美しいです。色づかいがとても好き。


Crystal Horns

"the colours are perfect and the composition very creative!"
色も完璧だし構図がすごくクリエイティブ。

Sparkling Checks

"beautifully jumbled in perfect colors"
このごちゃごちゃ感がきれい。色も完璧。

Heart of the Forest

"What a great idea! Love the colors."
素敵な発想。色もめっちゃ好みです。


 わかりました?
 みんな《色》をほめてくれるんです。

 経験豊富なデザイナーたちも案外、色づかいで悩んでいるのかもしれません。
 良き配色はいずこに。聖杯を探す騎士のように色探しの旅に出て、何か見つけたら仲間と見せ合って喜び合う。そんなイメージ。

 このコミュニティー、面白い。

色づかいが
上達した秘密

 2年間に作ったデザインは120点を超えました。
 いろんな柄を作ったなぁ(しみじみ)

 色づかいが上達したのは努力の賜物。
 ではなく、デザインコンテストの構造に秘密があります。

  ①毎週課題が出る
   ↓↓↓
  ②デザインを作ってエントリー
   ↓↓↓
  ③エントリーした全員で投票し合う
  (最多票が優勝)

 全員で全員の作品を一点一点見て票を投じるんです。
 俳句の句会に似てますね。

 コンテストに挑戦するデザイナーは毎回1,000人前後ですから、急いでスクロールしても目を通すのに30分はかかります。

 私が2年間で見てきた作品数は:

  1,000作品×約50週*×2年=10万点
  30分×約50週*×2年=50時間
  *感謝祭の時期はコンテストは休み

 10万点見れば多少は目も肥えてくるでしょう。そして上位作品の色づかいは毎回とても勉強になります。

ありがとうを
忘れずに

 立ちはだかっていた2つの壁「女性の好きそうな柄がわからない」「配色が決められない」は心優しきデザイナーたちのおかげで少しずつ克服して来れた気がします。色彩と向き合うのが楽しいなんて2年前の自分には考えられなかった。いつかエッシャー風の不思議な絵柄にも挑戦して、仲間やお客さんたちを楽しませたい。

 仲の良いデザイナーたちから今週もコメントが届きました。
 もちろんすぐにリプライして感謝を伝えます。

 Thank you so much!!

 so muchって女性言葉?
 いや、男でも普通に使うよね。

 久しぶりに英語を勉強し直しているところです。



テキスタイルデザインに興味ある皆さんへ
腕を磨き、仲間と交流したい人にSpoonflowerはおすすめです。ただし副業への道がひらけるかどうかは別。たくさんデザインしてコンテスト上位の常連を目指せばチャンスはあるかもしれません。私はのんびり楽しんでいくつもり。




同じ柄の色違いを作るのも楽しみのひとつ




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