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7月15日(月)~7月19日(金)の見通し

■まず初めに流し読み

◆先週のCPIは総合CPI、コアCPIともにインフレ減退を示すものであり市場に歓迎されるはずであったが株価は下落した。これはここ最近の「インフレ減退の経済指標結果」が続いたことで金利が連続して低下、一部の投資家にデフレを意識させたことで株売りにつながったと推測される。ただし「Good News is Bad News」(良いニュースは悪いニュース) の明確な定義はなく事前に反応するのは難しいため、「相場環境は良い」という前提で金利の「連続的かつ一方向の動き」には注意すべきと思われる。

◆フランスの第二回投票では意外にも左派政党の勝利となった。これを受けて事前に勝利を予想されていた極右である国民連合の一部は欧州議会にて新グループ (会派) に参加、他にもドイツの極右政党も同様の新たな会派を作った。ただし欧州の政治において中道派が未だ主流であること、極右も一枚岩になれずややまとまりが無いことを考えれば、6月の欧州議会選挙で「反移民、反EU、反グリーンエナジー」などを掲げる動きが大きく広がるにはまだ時間がかかると考えられる。


◆今週は小売売上高、及びECBの政策金利発表に注目が集まる。特にECBは金利据え置きが予想されるだけに今会合における利下げが発表されればサプライズとなるだろう。
米国の株式指数はやや買われすぎも大きく下がらず、米10年金利は下落が続きやすい。香港ハンセン指数は再び上向き始めた初期にあると考えられる。ドル円はCPIに乗じた介入により166円後半まで伸びる予測から横ばい相場が続くシナリオへ変更。日経は再上昇とするが週明けの動きを注視。

■先週の振り返り

◆良いCPIと悪い反応

先週金曜、米国にて消費者物価指数 (CPI) が発表されました。
総合CPIにて予想3.1%、前回3.3%に対し結果は3.0%となりコアCPIでも前回及び予想3.4%に対し3.3%となりました。
とりわけ前月比の結果に焦点を当てれば、総合CPIが2020年以来初めてマイナス域へ突入したことも市場では話題となりました。

今回の結果ではとりわけガソリンやエネルギーが減速を引っ張りましたが、CPIを構成する項目ごとに見れば今までしつこかった住居の伸びが鈍化しながら、ほとんどの項目にて前回より弱い値となったことで発表直後は米国株にポジティブな値動きが見られました。

米国 6月分CPI結果
出典: マネックス証券
米国CPIの推移
出典: マネックス証券
出典: マネックス証券

またGDPの推計にも用いられ、FRBにも重視されるスーパーコアはここ2ヶ月ほどマイナス域へと落ち込んでいます。
未だ2ヶ月間の結果とはいえ、ここまで全ての項目で弱くなるのであれば「インフレは過ぎ去った」との解釈もあながち嘘とはいえないでしょう。

出典: マネックス証券

しかし良い結果が出たと安堵するも束の間、株式市場が実際に開いた後はそれまでの伸びを消す大きな下落を演じました。
様々な説がありますが、ここ最近の経済指標が全て「インフレ鎮静化」を示す結果のみとなったことが大きいと推測されます

遡って2022年、当時はインフレが伸び続けた関係で「これは1970年代のように収拾のつかないインフレなのではないか」との懸念からそれまで好調であった株式は一気に値下がりし、代わりにエネルギー株が台頭しました。
米国のインフレ具合を推し量る長期金利も日々上昇を続け、CPIが発表されるたびに株価が下落する風景に辟易する投資家も多かったと思われます。

そのような大インフレ時代から2年ほど経った現在はそれと真逆の現象が起きており、各指標が予想よりも弱くなればなるほど株式は上を目指し続けています。
これはひとえに「弱い経済指標によって現在の高い政策金利が下げられること」への期待が先行しているためですが、ある地点から投資家は「この高い政策金利を利下げしなければ先に経済が不況 (デフレ) に陥るのではないか?」と考えるようになります。

木曜ザラ場での株価急落はその考えを多少反映したと考えられ、現に米国の10年金利が指標発表のあるごとに連続して下落したためにデフレが意識された部分もあると見られます。

ただしFRBのパウエル議長も黙って見ているわけではなく、先週火曜の定例議会証言にて「労働市場は強いが過熱していない」「次の動きが利上げとなる可能性は低い」としてインフレ後退への確信を深めるような発言をしつつ、「我々が直面するリスクはインフレだけではない」とデフレのリスクを意識していることを暗に示しました。

また今回の下落は短期的に上昇し過ぎた分が単に押し戻されただけとも捉えられ、事実としてS&P 500は日足及び週足のどちらも買われすぎを示していたこともあげられます。

市場では「デフレが来る前に逃げなければ」と考える向きも出ていますが、引き続きインフレ鎮静が歓迎される相場は続くこと、パウエル議長も利下げを次のアクションに据えていること、エネルギー関連に物価が左右されるため原油価格が少し跳ねればCPIの下落も止まりやすいことを考えればデフレを恐れる相場とは断言できないでしょう。

むしろ現在のサマーラリーが止まるとすればインフレがどうこうよりももっと別の要因、例えばイスラエルの戦闘が周辺諸国を巻き込み悪化することやバイデン大統領が選挙の立候補から降りること、また夏の決算シーズンが想定より鈍い結果に終わる可能性などが関わってくると考えられます。


◆フランス選挙の2回目投票と周辺国の反応

前回の週まとめではフランスにて極右政権が誕生するのではないか?と執筆しましたが、7日(日)に第二回目の投票が行われた結果、左派政権である新人民戦線 (NFP) が第一党となり、マクロン大統領の支持する与党連合 (ENS) が2着、最初に大躍進を遂げ第一党になる見込みであった極右の国民連合 (RN) がまさかの3着となり大波乱となりました。

フランス議会選挙の最終結果
当時は政権を取ると思われたRNが敗北した
NFPが第一党になった事実は衝撃的だが
市場は想定より冷静だった

ただし今回の結果を受け意外にもフランス及びユーロ市場は冷静であり、(いくら予測されていたとはいえ) 極右政権が誕生する事実よりもそれ以外の政権が誕生した方が良いとの隠れた意思が見え隠れする結果となりました。

一旦フランス選挙については無事に通過したものの、6月の選挙にて極右派が台頭した欧州議会では政党の再編が続々と行われており、一例として8日(月)に欧州議会にて誕生した新グループ「欧州の愛国者(Patriots for Europe)」は84議員が所属する大きな極右会派であり、欧州議会内でも上から3番目の規模を誇る会派となるなどその存在感を増しつつあります

この「欧州の愛国者」を構成する12カ国には議長国を務めるハンガリーをはじめ、フランスやイタリア、チェコなどが含まれていますが、特にフランスからは国内の選挙で敗北した国民連合 (RN) から30議席も入っており、「国内でダメなら欧州議会から攻めていこう」とする同政党の思惑が透けて見える形となりました。

また10日にはこれまた新たな会派である「主権国家の欧州(Europe of Sovereign Nations = ESN)」が立ち上げられ、ドイツの極右党である「ドイツのための選択肢(AfD)」を中心に25議員が所属すると発表されました。
こちらはAfD党内の問題により極右会派から追放されてしまったため、欧州議会に籍を復活させるために小規模な政党を作ったとされていますが、欧州の愛国者と同様に「欧州グリーンディール反対」「移民反対」「EU統合深化反対」を掲げており、ちらほらですが極右同士で再編及び団結する様子が見られます。

ただし第三勢力となった欧州の愛国者は極右会派とされることから、現在欧州議会にて過半数を占める複数の中道派 (EU賛成派) が他のEU賛成派と手を組むことで極右会派のメンバーを要職から外す動きがでており、また極右派自体もそれぞれ主張が微妙に異なることから一枚岩になりきれていません。

これらとフランスの選挙の結果を合わせれば、今後の欧州における政治の大局は「極右は以前よりも確実に市民権を得ているが、未だ中道派の勢力が大多数であること、また各国により極右がまとまりを見せないことから、極右会派の広がりはゆっくり、じわじわと広がる」可能性が高いと見られます。

現時点で株式などにすぐさま悪影響を与える可能性は低いですが、将来的に極右政権が各地で誕生、欧州議会でも存在感を増すことによる「EU解体」なるリスクで軟調相場入りするシナリオも頭の片隅に置いて損はないと考えられます。


■今週の見通し

消費者物価指数にて多少の荒波が引き起こされた米国市場ですが、今週は火曜に小売売上高の発表が予定されています。

すでに上で述べたようにここ数ヶ月は米国の経済指標が (インフレ後退の意味で) 非常に好調ですが、金利が「連続的に、一方向へ」動き続けると株価も調整を受けやすい傾向があります。

このため小売売上高が弱い結果となれば一段と金利が低下することで市場がデフレを意識し、株価低下も同時に招くような反応を示す可能性もあることに留意したいところです。

7月15日~19日の主要各国経済指標

このほか木曜には欧州中央銀行による政策金利の発表が予定されています。
前回の会合では利下げを行いましたが、ECBのスタンスはあくまでもデータごとに判断するとしており今会合では政策金利の維持が予測されています。

もし追加で利下げするとなればややサプライズ感があり、欧州株もさることながらユーロ安・ドル高の動きにも注意する必要がありそうです。


◆ナスダック100 (NDQ)

ナスダック100は先週木曜の下落で上昇方向への過熱が取れており、また週足でも上昇圧力が残っていることから引き続き底堅い動きを見ています。

ナスダック100

時期としてはサマーラリーの後半に当たりますが、特に8月からはやや警戒を意識しながら買いを保有していきたいところです。

逆にいえば明確な調整までにはもう少し時間があるとも解釈できますが、後述するS&P 500の週足が買われすぎを示すことを考慮すると大きな買いは入れづらいと見られます。

想定レンジ: 19700〜20700


◆S&P 500 (SPX)

S&P 500も先週に最高値を超えましたが、週足ではRSIなどの指標から「買われすぎ」を示唆しています。

S&P 500

こちらは週足MACDが上昇を示しながらもRSIが買われすぎを表しており、概して上下方向とも拮抗するような動きを見せると考えられます。

大きな買いは避けたいところですが、NISAなどの長期投資用では特段慌てて売る必要はないと思われます。

想定レンジ: 5450~5650


◆米国10年債利回り (US10Y)

米国10年金利は引き続き、下落を目指しやすい環境にあると見られます。

米国10年債利回り

上でも述べましたが、直近の動きは「下へ、下へ」と連続して下落する、いわゆるデフレを意識した動きへつながっています。

これにより通常の金利低下 = 株価上昇とならないリスクも存在しており、特に次の支持帯である4.03%まで下落し続けると株価も一時的に弱含むと考えられます。

逆にパウエル議長が「次のアクションが利下げの確率は低い」と先週話したことから、債券ETFなどは金利低下の恩恵を受けやすいでしょう (金利低下 = 債券価格上昇のため)。

想定レンジ: 4.03%~4.48%


◆香港ハンセン指数 (HSI)

香港ハンセン指数は以前より17200付近での反発を見ていましたが、すでに17200付近へ到達、反発し始める最中にあると見られます。

香港ハンセン指数

ここから再び上昇を見たいですが、あくまでも今年の高値である19700を一旦の目安にトレードすると良いかもしれません。
直近では買い圧力が強いため、ここからは売り場より買い場を探す方が良いトレードになると考えています。

想定レンジ: 17200~19000


◆米ドル円 (USDJPY)

ドル円はCPI発表とともに急落して以降、未だ元の円安水準に回復していません。

ドル円

ところで今回のドル円の動きは (CPIの金利低下にしては) やや過剰に円高へ反応した形です。

それもそのはず、為替介入の主体である日銀が公表した「日銀当座預金残高要因と金融調整」、及び短資会社の「資金需要予測値」から判断すればCPI発表当日に3兆円以上の円買い介入が行われたと推計され、今回の急落はあくまでも一時的な要素とみなすことができるでしょう。

ただし米国はこれから利下げサイクルに入ること、日本も利上げサイクルに突入すること、日銀は円安を食い止めつつ金融緩和効果も醸し出したいこと、さらにその効果を最大限得るために日銀は自国の利上げを米国の利下げタイミングと重ねる可能性が高いことを考えると、ここからは「円安圧力が続きやすいが、ある時突然大幅な円高に戻される」ような環境になりつつあると言えるでしょう。

そのような意味では以前申し上げた「ドル円は166円後半まで伸びる」との予測を一度リセットし、当面は上下に触れながら横ばい的な相場を築き上げる、との見方に変更したいと思います。

想定レンジ: 157.3~162.0


◆日経225 (NI225)

日経225は以前の三角持ち合いを上抜けたあと、42700までの上昇を見込んでいましたがCPI及び円高介入を経て現在は以前の最高値付近まで戻っています。

日経225

通常、このような「最高値を上抜けた後、最高値付近まで押す」ことは健康的な上昇相場の証である場合が多いですが、急速に下落した関係で以前の高値であった41100を下回るリスクにも気をつけなければなりません。

このためメインシナリオを「41100を割らず、もう一度42700付近まで目指す」としつつ、週明けの値動きを慎重に観察していく必要があるでしょう。

なお日経は以前より円安主導の上昇相場となっており (いわゆる通貨安でかさ増しタイプ)、本格的にドルベースで上昇するケースは日本経済の本質的な改善、例えば労働生産性が劇的に上がる、労働市場がより流動的になるなどの「改革」が必要となるため、当面は円安で上昇・円高で下落となりやすいことに注意が必要です。

想定レンジ: 41100~42700


◆原油 (CL1!)

原油は引き続き三角持ち合いの中にあると考えられ、特に8月以降上下どちらかに抜けること、それに伴うプチショックには警戒したいところです。

ただし直近では高値で張り付いており、通常これは次なる上昇相場への布石であることが多いため、上昇方向へ値が伸びるケースにやや注意が必要だと思われます。

想定レンジ: 70.0~85.0


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