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スーパーチューズデーまでの米国予備選挙の動きについて

■バイデン大統領 vs. トランプ氏の一騎打ちへ

3月5日(火)は米国の予備選挙を大きく左右するとされる「スーパーチューズデー」でしたが、この日の結果を境に米国大統領選挙は大きく動き出しています。

当日は米国の二大政党である民主党・共和党の指名候補者 (11月の本選挙に出る候補者) を選出するために米領サモア含む米国内の17州にて予備選挙が行われましたが、共和党ではバーモント州を除くすべての州で党内対立候補のヘイリー氏を圧倒しトランプ氏が勝利、民主党に至ってはバイデン大統領が米領サモア以外のすべての州で勝利しました。

党内の指名候補者代表 (民主党及び共和党からそれぞれ一人ずつ) は今年夏ごろに正式に発表となりますが既に勝負が決したと言っても過言ではなく、11月の大統領選挙も「バイデン大統領 vs. トランプ氏」の構図で固まると見られます。
スーパーチューズデーを以て各党からの候補が事実上決定したこと自体異例の速さですが、2000年大統領選挙の「アル・ゴア氏 vs. ジョージ・ブッシュ氏」の際は3月9日に党内からの候補者が決したこともあり歴代としても最速であると言えそうです。

2024年の代議員 (delegate) 獲得人数推移
上段: 共和党 (赤色バー)、下段: 民主党 (青色バー)
共和党では1215人の代議員獲得、民主党では1968人の代議員獲得がそれぞれ求められる
ただし各党とも、一位と二位の差が余りにも大きく
共和党に至ってはトランプ氏以外の全員が選挙戦から撤退している

ヘイリー氏は共和党内でトランプ氏と長い間張り合っていた唯一の候補でしたが、スーパーチューズデーでの敗北を受け撤退を表明しました。
過激なトランプ氏と対照的に「中道寄り」とされているヘイリー氏は今年1月23日に行われたニューハンプシャー州での予備選挙でもトランプ氏にリードを許していますが、同州は共和党の中でも穏健派が多い地域で有名であり、中道寄りのヘイリー氏が得票を伸ばせなかった事実は本人にとって非常に痛いポイントとなりました。

またヘイリー氏の地元であるサウスカロライナ州での予備選挙でも (得票率で健闘するも、選挙の仕組み上) 大きく代議員の獲得を許してしまった経緯があります。
党内の候補者として勝ち残るには「得票率」ではなく「代議員数」を多く獲得しなければならず、州内にて人口の少ない地区までカバーできずトランプ氏に代議員獲得を許してしまったことも撤退を決意するに足りる要因であったと考えられます。

サウスカロライナ州での共和党予備選挙の結果
ヘイリー氏は得票数で健闘も、代議員の獲得はヘイリー氏3人に対し
トランプ氏が47人と圧倒的
これは同州内の地区 (County) ごとに代議員を獲得するシステム上
州内で人口の少ない地域も等しくカバーできる者が勝者となりやすいため

●米国大統領選挙の大まかな流れ

そもそも米国における大統領選挙は二大政党 (民主党・共和党) からそれぞれ候補者を一人立てて争うことが一般的です。
4年に1度の周期で開催される大統領選挙の年初 (例えば今年1月) から各党は「予備選挙」や「党員集会」を行うことで、それぞれの党から代表を選ぶための「代議員」を獲得することが求められます。

代議員 (delegates) は各党に通常数千人ほど存在し、それぞれが党内における立候補者を一人支持する役目を持っています。
この代議員を過半数獲得することで初めて党から指名を貰い「正式な立候補者」として11月5日に開催される大統領選挙を戦う形ですが、例えばトランプ氏が所属する共和党では1215人の代議員を獲得する必要があり、バイデン大統領が所属する民主党では1968人もの代議員が求められます。

各党、無事に代議員を過半数集めた立候補者は夏の「党大会」にて正式に大統領選立候補者として決定されますが、今年のように早い段階で事実上の候補者が決まれば党大会は形式上のものだけになるため、党大会を大きく気にかける必要はないと思われます。

夏の党大会を過ぎればいよいよ大統領選挙まで3か月を切る形になりますが、9月~10月は主に大統領選に出る候補者同士で討論会を行うことが通例です。
適宜、共和党及び民主党の人気投票が様々な媒体で行われていますが、特にテレビ討論でボロが出ることにより人気が逆転、そのまま敗北する可能性も十分にあるため人々の関心も非常に高まります。

そして今年11月5日、いよいよ大統領選挙の本選が行われることになります。

ここでも「得票数」ではなく「選挙人」と呼ばれる有権者代表をどれだけ獲得するかで勝負が決する仕組みとなっており、特に各州内の得票数で1位の座に着いた者が州内すべての選挙人を獲得する「勝者総取り」(winner-take-all) システムにより、米国全体の得票数が多くても選挙人の獲得数で負けてしまうことも過去にありました。

11月5日の選挙で過半数 (270人) 以上の選挙人を獲得した候補者は晴れて翌年1月に正式に米国大統領として就任することとなりますが、党の正式な候補者となるために有権者へアピールし予備選挙で勝ち抜き、更に大統領選挙本選でも勝ち抜くためには広報や人員確保などに使うための莫大な資金が必要となります。

このため予備選挙の段階で代議員の獲得数に圧倒的な差が付いた場合は選挙活動を早々に辞退することが多く、今年も例に漏れず年初から共和党からの出馬を表明していたラマスワニー氏、デサンティス氏、ヘイリー氏などが続々と選挙活動から降りています。

米国の大統領選挙と予備選挙のまとめ (参考)
11月に行われる大統領選挙 (本選) を前に、各党から候補者を
一人に絞るため行うのが予備選挙 (又は党員集会)
本来、各党から候補者を正式に一人に絞るのは夏ごろだが
今年は事実上決まったも同然となってしまった
米国大統領選挙の大まかなスケジュール
通常、夏の党大会近くまでは候補者争いが続くと言われる
今年はすでに共和党からトランプ氏、民主党からバイデン大統領と事実上決まったため
党大会は形だけのものになる

●各候補の人気度合いと問題点

今回の候補者争いは案外あっけなく決まりましたが、その内容は決してポジティブなものだけでは無いようです。
そもそも現職大統領であるバイデン氏の支持率はインフレが発生した2022年ごろから下落しており、2月末時点で支持が37%、不支持が58%と過去最低水準まで人気が落ち込んでいます。

バイデン大統領の支持率 (2024年2月末現在)
支持 (Approve) は過去最低、不支持 (Disapprove) は過去最高
2022年からのインフレ問題への甘い対処がイメージを悪化させている
出典: Reuters

遡って2022年にインフレが発生した際、まず最初に上昇したものはエネルギー・食料価格でした。
これはロシアによるウクライナ侵攻が主な原因とされており、物価の上昇率を示す消費者物価指数 (CPI) は2022年半ばに10%を超えるピークを付けました。

それから一年余りが経ち、米国における現在のCPIは3%前後まで落ち着いていますが、2024年1月に「物価上昇に関する懸念事項」をアンケート調査した際に最も割合の高かった項目が「食品や日用品」、続いて「住宅価格」となったこともあり、米国の中でも中・低所得層は現状の物価に心配を抱いていることが見て取れます。

物価に関する懸念事項
(黄土色文字) 上から: 食品及び日用品、住宅価格、エネルギー価格
これらは主に中・低所得者層からの不満であることが多い

インフレ対策もさることながら、昨今の諸外国における衝突に対するバイデン大統領の姿勢も不人気を加速させています。

例えば2022年にロシアとウクライナの衝突は今も続いていますが、バイデン大統領がウクライナへの支援に莫大なお金をつぎ込み続けていることが一部国民の不満を買っています。
開戦当初は良かったものの、戦争が長期化する中で「自国に回すお金を関係のない第三国に使っている」との批判が増加し、現在はその金額を減らすも失った国民からの信頼を取り戻すのは難しいようです。

またイスラエル・ハマス衝突に関しても、イスラエルに対し「人道的な対応を強く求める」としながら「ハマスに打ち勝つため、ユダヤ人の心に寄り添うためにイスラエルを応援する」と武器の供与などを行っており、ハマスに比べ圧倒的に格上のイスラエルに更なる戦闘力を与えるその姿勢にも国民は不信感を募らせています。

いわゆる「支援疲れ」に対してバイデン大統領が今後どのような態度を示すかによって選挙結果も大きく異なりそうです。

バイデン大統領の支持率一覧 (緑: 支持、紫: 不支持)
上から: 人種、年齢、収入、学歴別一覧
大統領は特に「白人」「39歳以下」「年収7万5千ドル未満」「大卒未満」から
人気が無いと見て取れる

更にバイデン大統領は非常に高齢 (81歳) であることで知られていますが、仮に二期目に突入すれば85歳まで大統領を務めることとなり、在任中に亡くなるリスクやそもそも大統領の執務を執行できるほどの能力があるかを疑問視する声が多いのが現状です。

対するトランプ大統領も決して支持率が高いとは言えません。
そもそも2020年の大統領選挙にて「不正があった」とトランプ前大統領が敗北を認めなかった時期がありましたが、その翌年である2021年1月6日にトランプ氏支持者の過激派が米国の議事堂を襲撃する事件が発生してしまいました。

この議会襲撃事件に関する刑事訴訟によりコロラド州最高裁は「国家への反乱に関与した者は同州での予備選挙に参加出来ない」とする判決を昨年出していましたが、スーパーチューズデー直前の3月4日に連邦最高裁判所 (州最高裁よりも格上) によってその判決を棄却したことにより一転、現在はトランプ氏の選挙活動が全米各州にて認められることとなっています。

しかしこれ以外にも機密文書持ち出しなど様々な裁判を抱えている関係でイメージは良くなく、トランプ氏への支持を表明しない層 ("Not Trump Again" などと呼ばれたりします) や中道寄りであるヘイリー氏を支持していた層をなるべく取り込む努力をしなければなりません。

事実、米国民がトランプ氏へ良いイメージを持っているか?という調査では未だに悪いイメージを持つ割合が53%近くと高めであり、「仮にトランプ氏が一連の刑事裁判で有罪判決を受けた場合どちらに投票するか」という調査ではバイデン大統領が4%ほどリードするなど、トランプ氏がバイデン大統領に対して圧倒的なアドバンテージを持っている訳では無いことに注意が必要です。

米国民のトランプ氏に対するイメージ
オレンジ: 良くない、青: 良い
直近ではイメージが改善しているが、さながら今回の選挙は
不人気投票だという意見もある

また訴訟による罰金が今後増加すればトランプ陣営の選挙活動資金に悪影響を及ぼす可能性も十分考えられ、バイデン大統領への思わぬ追い風となるでしょう。

米国の予備選挙では支持者無し (Uncommitted) という選択肢で投票することも可能ですが、トランプ氏もバイデン大統領も今後「自らを支持しない層をいかにして振り向かせるか」という戦略次第で11月の結果が分かれると見られます。

一部では今回の大統領選挙は「不人気投票」と言われる程ですが、今後も各候補に対し様々なニュースが飛び交うと考えられます。 (特にトランプ氏の訴訟・裁判関連の報道)
その際も一喜一憂せず冷静に動向を見守るのが良さそうです。

11月の大統領選挙における重要な州とテーマ
(Financial Timesより)

なお現在の米国株式指数 (S&P 500) の値動きが発するメッセージとして、年初に上昇した場合は現職の大統領が勝利するアノマリーが存在します。
飽くまでも「統計的に確率が高い」ことに過ぎませんが、選挙戦が進むに連れトランプ氏への逆風が強まる可能性があることには注意したいところです。


※当記事はファンダメンタルズにおいて事実の正確さを満たすために尽力していますが、万一事実と異なる点等ございましたらお気軽にご教示ください。

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