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松本清張の小説を初めて読んだときの衝撃。読むに至ったきっかけ。

「黒い空」、
私が初めて読んだ、松本清張の小説。
何故この作品を選んだのかは、覚えていない。
しかし、
文章自体に度肝を抜かれたことは、ハッキリと覚えている。


「こんなにも丁寧に書かれた文章が存在していたなんて…」


「こんなに細部まで丁寧に描写しているということは、それだけ、読者に伝えたいという気持ちが強くあるということだろう。なのに、文章の表面からは、その熱というか気迫が、微塵も感じられない。
松本清張の中にあるであろう高ぶり・高揚感とか、勢い、躍動、そういった面が、文面に表れることがないよう、徹底されている。全くにじみ出ていない。きっとそれは、作品を完成させるに当たって、邪魔なんだ。
本当に伝えたいことを伝える上で、きっとそれは必要ないんだ」


「何だろう…。
松本清張が1番大事にしていること…。
きっと…、
松本清張の中にあるイメージ、それを、そっくりそのまま、読み手の中に浮かび上がらせたいんじゃないかな…。
文章を読んでいると、その思いがとてつもなく強いことが伝わってくる気がする…。
松本清張の中にあるイメージ、それを、寸分の狂いもなく、相手の中に浮かび上がらせる…、そのためには、やはり何よりもまず、松本清張自身が、そのイメージを細部までしっかり把握して、丁寧に言葉を使って表現していく必要がある。そして、読み手には、常に冷静であってもらわなければならない。変に高ぶって解釈を大きくされたりするのは不本意だ。そのためには、文章自体は、常に落ち着いていなければならない。書き手の高ぶりが文章に表れるようなことはマイナスでしかない。
目的は、あくまで、全く同じ景色を見てもらうこと」


「凄い…。目的のための行動が、徹底されているし、とてつもなくストイックだ…。人は、ここまで出来るのか、と思わざるを得ない…。これが、プロというやつか…。プロフェッショナルというやつか…」


「そして、何だろうか…、深い優しさを感じる…。人間には、どうしようもないことがある、思うようにはいかず、やむにやまれぬことがある、そういった悲しみ、そこら辺を、嫌という程に分かっていて、それが、優しさに変換されてにじみ出ている。そんな気がする」


と、
私は、思いをめぐらせた。


作家には、いろんなタイプの人がいると思う。
私は、北方謙三も好きなのだが、
北方謙三の文章は、「北方節」という言葉を思わず使ってしまうような、独特な勢いがある。戦いの最中なんかは、書くことに没頭して、ノッてきていることが凄く伝わってくる。まさに、戦の「立ち合い」というか。
「ゾーンに入った」文章とでも言おうか、そこに魅力があり、
私は、日々の生活の中で、それを欲することが度々あり、もはや欠かせないアイテムとなっているのである。
北方謙三の文章には、北方謙三の色が、ハッキリとある。
それに対し、
松本清張の文章は、松本清張の色が、無い。ここが目的の違いであり、あるいは、それこそが、「松本清張の色」なのかもしれない。
私は、
北方謙三も、松本清張も、両方、大好きである。




そんな私が、
松本清張の小説を読んでみよう、という思いに至ったきっかけは、
それ以前に見た、
ふたつのテレビドラマだった。

2002年に放送された「張込み」、
2007年に放送された「点と線」、

このふたつ、
私は、VHSに録画して何度も見た。
大好きだった。

もちろん原作は、両方とも松本清張。
そして、ふたつには共通点があって、
主人公は2人、若手の刑事と古株の刑事。
「張込み」は、
若手の刑事が、緒形直人。
古株の刑事が、ビートたけし。
「点と線」は、
若手の刑事が、高橋克典。
古株の刑事が、ビートたけし。

そもそも私は、ビートたけしが大好きで、特に役者としてのビートたけしは絶対に見たくて、それでこのふたつのドラマは見るに至ったのだが…、
え~と、ビートたけしについては、また別の機会にたっぷり書くこととする。

話を戻して、
このふたつの作品には、もうひとつ、
とても重要な共通点があるのだが…、


最初に若手と古株が顔を合わせたときは、
ふたりの相性は、全く合わないのである。
特に、若手の方が、古株の方を理解できない。
古株の方は、何も気にせず我が道をゆくのだが。
そして、事件を解決すべく、
ふたりは、否が応でもコミュニケーションを取っていく。
その内、少しずつお互いのことが分かってくると、波長が徐々に合い始める。
そして、古株の刑事には、人間の気持ちを誰よりも大切にする側面があり、
そこに、若手の刑事は心を打たれていく。
後半は、古株の無言の行動の意図するところを、若手も察するようになり、いつの間にか、
純粋な思いと、純粋な思いが、ただ事件解決に向かうという、シンプルなコンビネーションへ。
そして…、
物語も佳境、
事件解決まで、あと1歩、
その1歩が、
遠い…。
そんなとき、
あるきっかけで、
ふたりが、
全く同時に、
ひらめくのである。
ふたりの頭の中で、同時に、事件の謎が、
解ける。
その瞬間、
ふたりが、
走り始める。
行くべきところが、あるのである。
この瞬間、
ふたりの波長が、
最高潮に絡み合う。
このときのふたりの表情が、
たまらない…。
真剣で、真っすぐで、まわりからどう見えてるかなんて全く気にしていない、なかば口は半開きで、
純粋な眼をして、
走る。



ふたつの作品がともに、
こういう流れなのである。
別にシリーズものではない。
しかし、
松本清張 meets ビートたけしの、
このドラマの展開、
私は、
凄く心地よくて、
心が洗われるようで、
VHSを、
ホントに何度も見た。

そして、
「点と線」に関しては、
DVDが出ているのである。
このDVDを発見したとき、私がどれだけ嬉しかったことか!

「張込み」の方は、
残念ながら、DVDにはなっていない。
しかし、
私の脳裏には、ハッキリと残っている。
緒形直人とビートたけしが、
同時に走り始める、
あのシーンが。








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