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おわりに _ UXと戦略を分断させないために(UX戦略の教科書)

本記事は、UX戦略の教科書シリーズにおける「おわりに」的な位置づけのものになります。あまり一般受けしない内容だと思っていたのですが、事前に予想していたよりも多くの方に読んでいただき、とても感謝しています。

本シリーズの内容について、改めて振返らせてください。

第1章では「なぜUXを起点として戦略を検討する必要があるのか」を明らかにしました。具体的には、デジタル社会の到来という外部環境の変化によって、企業は「道具」を提供する存在から「ライフスタイル」を提供する存在へと転換できるようになっており、それ故に「どのような行動フローに対して、どのようなライフスタイルを提供することを目指すのか」を描くことが重要になっていると主張しました。そして、UX起点で戦略を検討するための枠組み・フレームワークを提示しました。

UX戦略のフレームワーク

第2章・第3章では、UX戦略の策定~実行を妨げている要因を明らかにしたうえで、経営者・意思決定者とデザイナーの双方が、それぞれどのように変化する必要があるのかを提示しました。

まず第2章では、経営者サイドがUX戦略を正しく評価できるようになるためには、どのような概念更新が必要になるかを明らかにしました。

  1. 事業戦略の伝統的なフレームワークである「STP」

  2. マーケティング戦略の伝統的なフレームワークである「ファネル」

  3. 物語付与型のブランディング戦略

といった教科書的なナレッジが既に『時代遅れ』になっていることを明らかにしたうえで、それらをどのようにアップデートすべきかを提示しました。「これまでの常識が、時代環境の変化によってなぜ通用しなくなっており、どのように概念を更新する必要があるのか」について、できるかぎり端的に分かりやすく記述したつもりです。経営層・意思決定層の方や経営企画部に属している方は、第2章を閲覧するとUX戦略を評価・判断するうえで必要な視座を獲得できるのではないかと考えています。もし「良質なUX戦略を立案できたのに、経営層も分かってもらえない」という事態が発生したときは、第2章に書いてある内容を経営層にレクチャーすれば、相互理解が進むかもしれません。

また第3章では、デザイナーが優れたUX戦略を立案できるようになるためには、どのような概念更新が必要になるのかを示しました。具体的には、

  • 「顧客のことを深く理解すれば、優れた仮説を立案できる」という言説は間違っていること

  • デザイン思考は「はやすぎる」ために、戦略的な議論に耐えられないこと

という現状の問題点を明らかにしたうえで、前者に対しては「顧客理解ではなく顧客体験(UX)理解を起点とした方法論を採用すること」が、後者に対しては「サービスデザイン100本ノックの方法論を採用すること」が、それぞれ必要であることを明らかにしました。戦略レイヤーの議論に携わりたいUXデザイナーの方は、第3章を閲覧するとUX戦略を描写・策定するために必要な知識を獲得して、スキル習得の第一歩を踏み出せるのではないかと考えます。

そして、第2章、第3章にて提示したナレッジ・方法論を経営者とデザイナーの双方がそれぞれ習得することによって「UX」と「戦略」の分断を防ぐことが、これからの時代において極めて重要であると考えています。


約1年がかりの執筆となりましたが、皆さま最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

次は「UXリサーチの方法論」というタイトルで、新しいシリーズを連載しようと考えています。(全4回を予定)このようなテーマを選んだ理由は2つあります。

1つ目の理由は、一般的に普及しているUXリサーチの方法論は「心理主義的な人間観」に基づいたものとなっていることが多く、それ故に信憑性の低いリサーチ結果が創出されやすい状況が生じているためです。2つ目の理由は、生成AIの普及によって「事物を創る・デザインするプロセス」は大きく影響を受ける可能性がある一方で、「事物の有効性を人間の目で評価・批評するプロセス」は今後も重要な営みであり続けると考えるためです。むしろAIによって創作プロセスが容易化することにより、「どの戦略オプションを採用・選択するべきか」を評価・判断する営みが人間にとって重要な仕事となる側面もあるのではないかと考えています。

もし興味がありましたら、引き続きお付き合いいただけますと幸いです。
今後とも、よろしくお願い致します。

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