025-怒濤の恋愛

025 高見知佳「怒濤の恋愛」(1985年)

作詞:戸川純 作曲:矢野顕子 編曲:戸田誠司

高見知佳はアイドルというには変わった個性の持ち主で、キンキンしたハイトーンヴォイスにエキセントリックな感覚をプラスしたような声(要するに、やかましいw)で、今でいうバラドル的な立ち位置での活動が中心でした。でも、美人だったし、歌も上手かったんです。

音楽活動は、デビュー以来、年に3〜4枚のシングルをリリースするなど活発だったんですが、まったくヒットが出ず、82〜83年は少し停滞。84年になると、EPOらをソングライターに迎え、オリエンタルでハイセンスなニューウェーブ風ポップス路線にシフト。「くちびるヌード」は資生堂春のキャンペーンソングになり、いちばんのヒット曲(16位)になりました。その路線をさらにエキセントリックに推し進めたのがこのラストシングルです。

A面の「怒涛の恋愛」は、作詞が戸川純、作曲が矢野顕子、アレンジが戸田誠司(Shi-Shonen)というものすごい布陣です。僕がこのレコードを買ったとき、戸川純のカヴァーだ!と思ったら違ってて、でも、作詞は戸川純だ。どうなってんの?と思ったものです。単に同名異曲だったんですけど、紛らわしいですよね(戸川の「怒涛の恋愛」は、この前年に出たアルバム「玉姫様」に収録)。

これがなかなかの名曲で。
歌詞は、戸川純らしい悲喜劇入り混じったアナクロな恋愛世界で、およそ歌謡曲には相応しくないフレーズの連続。言葉だけ聞くと危なさ山盛りです。<ドロドロドックン>というフレーズは、ドロドロな関係の中でも息づく鼓動=生命感ということを象徴しているのだと思いますが(もちろんアレとのダブルミーニング)、それが高見の声と合わさると、妙にキャッチーに聞こえるのが不思議です。

実は、このシングルのリリースに際してのプロモーション用だと思われますが、川崎ゆきおによる、明治の日露戦争の時代を背景にした、出征した兵と残された女の恋愛物語を4コマ漫画にしたものが残されています。

楽曲はニューウェーブ感強めのポップスなんですが、Bメロのところでマイナーキーの歌謡曲っぽいラインが飛び出すという矢野顕子には珍しいタイプの曲。

それらを纏めているのが戸田誠司のアレンジで、打ち込みを使い、ニューウェーブ感はそのままに、ストリングスやブラスの使い方は歌謡曲っぽいギミックもありつつ、実にうまく計算された完成度の高いバックトラックを作り上げています。

ここまで振り切れた内容なのに、妙にキャッチーで、逆に売れ線っぽさがある。そのバランス感覚が奇跡的な名品だと思います。おそらく、高見自身もそれは感じ取っていたんじゃないでしょうか。これが売れなかったら、もう歌はいいやって気分になりますよね。想像ですけど(笑)

なお、B面の「満月の夜君んちへ行ったよ」は、太田裕美がニューヨークから帰国した後にリリースした、ニューウェーブ時代の作品のカヴァーで、原曲がカルト的な人気があることに加え、ここでの出来も良いです。


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