高度経済成長期からビジネスマンの足下を支えてきた、リーガルの No.2504
ある日、鏡に映った自分の姿が、子供服を着た大人のように見えて嫌になってしまった。『日々の100』の著者・松浦弥太郎氏が同書で語っていたことは、こういうことだったのかと、しみじみと腑に落ちたのだ。
夏はだいたいTシャツとジーパン、それにスニーカーで過ごしてきた。が、40歳を目前に控えた大人が、それらを相応に上品に着こなそうと思えば、実は難しいスタイルだと思い知ったのだった。
そこで久しぶりに靴を新調した。リーガルの定番商品「No.2504」である。
ぼくがリーガルシューズに勤めていたのは20代前半のころだった。
当時、「No.2504」や同じく定番の「No.2235」の、半ば伝説のように語られる逸話を何度も耳にしてきた。特に「No.2504」は1969年の発売以来——当初はスエードのみの展開だったが——今も変わらず生産・販売される、リーガルの顔とも言える靴である。履きやすくてとにかく頑丈で、実際に「30年前に購入してね」というお客様から修理をお預かりしたこともあった。
グッドイヤーウエルト製法で作られたこの靴は、とにかく重厚なオーラを漂わせており、まだ社会人に成り立てだったぼくにとっては、近寄りがたい存在だった。有り体に言えば、おじさんくさいと思っていたのだ。
月日は流れその間に結婚を二度経験し、オールバックや七三分けが板に付くようになると、このトラディショナルな革靴が、自分の足下にふさわしいのではないかと思えてきた。松浦弥太郎氏よろしく、風貌が変化したのである。
靴業界に10年以上携わるぼくは、もっと他の目玉が飛び出るような価格の革靴も、履いたし磨いたし、分解して修理もこなしてきた。記憶に強く残っているのはJOHN LOBBで、あれは間違いなく一級品だ。特に中底の厚みと品質の良さに惚れ惚れしたものである。
その一方で、手の届く価格ながら十分な品質の革靴があることも知った。安かろう悪かろうの製品ではなく、これなら少なくとも5年、丁寧に履けば10年は愛用できるであろう革靴だ。それがリーガルであり、他におすすめを聞かれたら、ヒロカワ製靴の手がけるスッコチグレインをぼくは挙げたい。
「No.2504」の甲革は銀すり革、いわゆるガラス革だ。傷や色ムラが多く、そのままでは製品化できない皮の銀面(表面)をすり落とし、代わりに分厚い塗装を施したもの。高級紳士靴の愛好家は「なんだガラスか」と、きっと見向きもしないことだろう。
しかし、ガラス革にもならではの良さがある。手入れが簡単で、比較的水にも強く雨の日にも気兼ねなく履ける。「No.2504」の素材は品質が良く、きちんと手入れすればまるでコードバン(馬革の稀少部位)のような輝きを放つのだ。
つまるところは、履く人が靴に何を求めるかである。
ぼくにとって、革靴とは歩くための道具であり、磨いて飾って、眺めて楽しむものではない。実用のための道具である(と言いつつ、磨き上げて撮影を楽しんでいるのだが)。
1969年の誕生以来、ずっと変わらずラインアップに加わり続け、丈夫で履きよく、自分の足に合った10年は愛用できるだろう革靴が、3万円を切る価格で手に入るのだがら、これはとても素晴らしいことなのだ。
セットアップを着て「No.2504」を履く。鏡に映った自分をしげしげと眺めてみた。すっかり大人になったものだと、最近つくづく思う。そしてよくぞここまで生きてきたと、自分で自分を褒めてあげたい。
このスタイルなら誰と会っても恥ずかしくはないだろう。
「No.2504」は、ぼくに自信を与えてくれる革靴である。
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