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囲炉裏とソロストーブの共通点とは|これからのエネルギーのことを少しだけ考えた

 現代の暮らしの中で、火のありがたさを実感することは、なかなか難しいことなのかもしれない。ぼくは薪での風呂たきも、かまどでの飯炊きも経験がない世代で、ガスコンロのスイッチをひねれば簡単に火が得られる環境で育ってきた。いや、自宅はオール電化で、そもそも暮らしに火が必要ない家庭も今では珍しくないだろう。そんな現代人が、例えばキャンプやバーベキューで火を起こそうとして、なかなか思うようにいかず、そこで初めて火の尊さを思い知るのである。

 少し前、仕事の関係で大内正伸先生宅に泊めさせていただいた。先生はイラストレーターであり、人工林や里山再生の取材・調査・研究の第一人者でもある。先生宅にお邪魔し、本物の木の香りが漂うお宅を2階へと進むと、誰もが釘付けになるものがある。

 囲炉裏暖炉だ。

「薪ストーブは燃料の消費がとても激しい。常に薪の確保のことが頭から離れなくてね……。そこへいくと、囲炉裏ならこんな小さな枝が十分な戦力になる」

これが囲炉裏煖炉だ。

 火は育てなければならない。火付きのよい火口へ着火し、続いて小指大ぐらいの薪を燃やし、少しずつ太く大きな薪をくべてゆく。そうして初めて安定した炎が得られるのである——と、つい最近まで思っていた。

 それがどうだ。

 普通なら、小枝はすぐに燃え尽きてしまうのだが。

 先生の囲炉裏には、野原で簡単に拾えるような細い枯れ枝しかくべられていないのに、小さな炎が絶えることなくちょろちょろと燃え続け、おでんを煮込みエビを焼き、なにより、ゆらめく炎の姿が、ぼくたちを温かく楽しませてくれるのだった。

「近所の方に許可をとってね、山で枯れ枝を拾わせてもらっているんだ。今じゃ誰も拾わないから、薪は取り放題。タダでエネルギーが手に入る」

ひとにぎりの小枝や松ぼっくりがエネルギーになる

 小枝が主燃料になり得る囲炉裏と通じるものを、ぼくはソロストーブにも感じとった。

 ソロストーブには化石燃料もいらないし、まして特別な薪を購入する必要もない。

 野山に無数に落ちている小枝や松ぼっくり、それもわずかな量をエネルギーに、十分な火を提供してくれるのである。

 燃焼効率が大変よく、小枝をくべて着火すればたちまち2次燃焼がはじまり、たったひとにぎりの燃料で、一食分の火が得られるのである。そうしてくべた小枝はほぼ燃え尽き、その後には少しばかりの灰が残るのみ。

枯れ枝や枯れ草を本体に詰める。
着火ししばらくすると、写真のように2次燃焼が始まる。温められた空気が本体内部を通り、上部の穴から出て燃える。
この日はお気に入りのケトルで煮出しコーヒーを楽しんだ。沸いたお湯の中に、粗く挽いたコーヒー豆を投入すればOK。豆が沈んだタイミングで、上澄みを飲む。
投入した燃料は、ほぼ灰になるまで燃焼してくれた。

 今まで野山ではガスやガソリンのバーナーを当たり前に使ってきた。

 が、ソロストーブを前にすると、なんだか考えさせられてしまう。

 ぼくの場合、せいぜい2泊3日程度の山行の、それもひとり分のエネルギーを得るために、わざわざ遠い異国の地から掘り起こしてきた化石燃料を使ってきたことになる。

 もちろん「自然には一切の手をつけず、あるがままにしておくべきだ。たとえ地面に落ちた枯れ枝だって、次の世代の養分になるのだから」という思想も分からなくもない。

 しかしだ。

 そのために化石燃料を燃やしていては、本末転倒ではないかなぁとぼくは思うのだ。化石燃料をじゃんじゃん燃やしてきた結果、温暖化という弊害が顕著に現れ始めているのは、周知の事実である。自然の営みの中で、持続可能に得られるエネルギーが目の前に落ちているのだから、それを利用しない手はないのではないか。

 かつて日本の家々には囲炉裏があった。どんなに小さな粗末な家でも、囲炉裏があれば厳冬期をしのげた。それが、戦後の復興と高度成長の中で、過去のものとなってしまった。

 大内先生が述べるように、これからは未来型の囲炉裏を備えた住宅が登場してもいいだろうし、小枝を燃料にするネイチャーストーブがもっと見直されてもいいとぼくは思う。大風呂敷を広げて言えば、身近なエネルギーに注目が集まることでエネルギーを自給し、限られた資源の奪い合いがなくなれば、争いを減らせるのではないか。

 余談だが、焚き火、それも直火は地面の中にまでも影響が及ぶとよく言われる。それについて、ぼくは真剣に文献を調べまわったことがある。

 が、ついに、具体的にどのような影響が現れるのかを述べた——地中〇cmで〇度まで熱せられて、〇〇がいくらぐらい死滅し、回復には〇〇年かかるというような——エビデンスは見つけられなかった。焚き火によって本当に地中の自然が破壊されるのなら、例えば奈良県若草山の山焼きの後で、また青々とした草原が再生されるのはなぜだろう。

 ところで「焚き火は禁止」だが「バーナーはOK」というような場所が、アウトドアフィールドには多々ある。ソロストーブは小枝を燃料にするバーナー、ストーブだとぼく個人は思っているが、傍から見れば、やはり焚き火にしか見えないだろうか。

 ソロストーブ愛好家としては、とても悩ましい。


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