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2012年夏、ロンドン ヨーロッパのファッション流通の激戦地を歩く③

夏のインスピレーショントリップ初年度、3つめの都市はロンドン。
アパレルチェーンのバイヤー時代に何回か来ていましたが、9年ぶり。

ロンドンは世界のファッションチェーンの最激戦地でグローバルチェーンとローカルチェーンの競合関係を観察すると共に、世界的に注目されている急成長ファストファッションチェーンであるプライマークを見たかったからでした。 

ロンドンは世界のファッション流通の最激戦地

ロンドンは、世界の中で最もアパレルチェーンがしのぎを削る最激戦地です。

その理由は、ロンドンがEU最大の経済都市であり、世界的な観光地であること、そのため、イギリスのローカルチェーンに加えて、ヨーロッパ大陸の強豪が一通り参入していること、そして、英語圏のため、アメリカ勢も進出しやすいためだと思っています。

ショッピング街の大通り、ファッション専門店が集まるエリア、ショッピングセンターと見て行きます。

オックスフォードストリート

ロンドンの中心を走るメインストリート(イギリスでは大通りはハイストリートと呼ばれます)、オックスフォードストリートとそれと交差するリージェントストリートには半径約2kmの範囲、東京で言えば、銀座一丁目から七丁目までの中央大通りと有楽町、東銀座くらいの範囲でしょうか、
この間にたくさんのローカル百貨店、高級ブランドの旗艦店と共に、
ZARA(西)が5店舗、H&M(スウェーデン)が4店舗、ユニクロ(日)が3店舗、NEXT(英)が3店舗、GAP(米)が3店舗、
TOPSHOP(英)が2店舗、プライマーク(愛)が2店舗も大型店舗を構え(2018年末現在)、その他、国内外の著名チェーンストアのお店もびっしり並んでいます。この2つの通りを歩き、店を覗けば、世界のアパレルチェーンの勢力図がわかると言っても過言ではないくらいです。

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             参考:Google mapから定点観測店をマッピング

激安アパレルチェーン、プライマークの衝撃

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オックスフォードストリートの西の端、マーブルアーチから歩き始めましたが、直ぐ右側に見えるのが今回の目的のひとつプライマークのオックスフォードウエスト店です。

2008年にH&Mが日本や中国など東アジアに上陸したころ、一方で、イギリスで話題になっていたのが、このプライマークでした。
H&Mよりも店舗が大きく、価格は6-7割程度と激安のアパレル専門店です。

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プライマークはアイルランド本社ですが、イギリスのアソシエイテッドブリティッシュフーズ(ABF)という紅茶のトワイニングで知られている上場コングロマリットに属し、イギリスを中心に拡大しており、2012年時点ですでに、世界アパレル専門店の売上高ランキングで10位、現在では6位にランクインするくらいの規模のチェーンストアです。

参考ー世界アパレル専門店売上ランキング2019 トップ10

当時、日本の業界紙である繊研新聞がヨーロッパで最も勢いのある激安チェーンとして、記事に取り上げ、アパレル業界の中では、ユニクロの姉妹ブランドであるGUジーユーの企画担当者たちがネクストファストファッションとして、ベンチマークしており、頻繁に視察に出かけては参考にしていた、と聞いていたので、ずっと見てみたいと思っていました。

実は、プライマークを覗くのは、バルセロナのショッピングセンターに続く2軒目なのですが、印象は強烈です。

大きな店舗内に、ファッションストアなのに、BGMがなく、移民から観光客まで多くの人種が訪れ、価格が安い(£2~3から、中心は£10-13)ためトレンドファッションから実用衣料からアクセサリー―までキャスター付きの買い物かごを一杯にしている買い物客であふれています。

各フロア、何10台ものレジの前に空港のチェックインカウンターのように長蛇の列をつくり、並んだ後も買い足せるように、列に合わせて、これでもか、と商品を並べているところに商売根性も感じました。

朝8時から夜10時まで開店しているようで、まるで、衣料市場(いちば)のようだ、という印象も受けました。

大きな店内、たくさんの買い物客の熱気、別の来店客が手に取って、放置され、たたみ直される前の服の山とホコリ、BGMなしで、子供の泣き声を含む家族の会話が入り乱れると、異空間に閉じ込められた感じがして、最初は少し気分が悪くなりました。

少し落ち着いて、その環境に慣れてくると、いろいろなことを考えはじめるのですが、まず、疑問に思うのは、この安さです。

しかし、アパレルビジネスを知っていると、原価構造やいろいろな店舗の損益構造がわかりますが、確かに、粗利率の高い(50%~60%)H&MやZARAのビジネスモデルに対して、日本で言えば、しまむらのようなディスカウンター型の低い粗利率(30%台)をローコストオペレーションで回すビジネスモデルであれば、H&Mと同じ産地、工場でつくったとしても、この販売価格の実現は可能だろうと思いました。

また、こういった薄利多売の低価格チェーンが家賃が高いはずの都心の真ん中になぜ出店できるのか、という疑問も出て来ます。

同社のこれまでの経緯をネットニュースなどで拾って行くと、ビジネスモデルが古くなって経営破綻した百貨店や大型専門店の跡地、というのが多いようです。

つまり、かつては、大型店を構えて、栄えたビジネスも、いずれは時代遅れ、成熟・衰退して行く。そんな企業のリストラや破綻の際に手放す物件に
それを埋めることができる、需要にあった新しいコンテンツを提供することができれば、好条件でその跡地に入居できる、というのでしょう。

日本の都心部の百貨店や書店や家電量販店も、消費者行動のデジタルシフトがますます浸透すれば、将来、どうなるかわかりません。

更に、こういった、H&Mより安い、低価格衣料を望む人が都心部にそんなにいるのか?需要があるのか?という疑問です。
もともと住んでいた人々や、通勤する人々だけでなく、移民や観光客の増加という現象は都心部のビジネスの在り方を変えるでしょう。
人が増えれば増えるほど、価格志向の人も増えますから、都心部でも低価格需要は拡大する、儲ける構造をつくれば成り立つ、のだと思います。

ちなみに、各地の都心部の大型店を構えるプライマークの営業利益率は10%と世界のアパレルチェーンの中でもかなり優秀です。

TOPSHOP Oxford Circus店は必見のファッションメガストア

オックスフォードストリートとリージェントストリートが交差するオックスフォードサーカスにはH&M、NIKE、TOPSHOP、ベネトン(当時)、TEZENIS(インナーウエア)のメガストアが並びます。

その後、日本にもフランチャイズで進出し、結果を出せずに撤退したTOPSHOPですが、ロンドンに入ったら、このオックスフォードサーカス店は必見です。

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2000年代前半、アパレルチェーンのバイヤーとしてロンドンに視察、買い付けに来ていたころは、ここがロンドンストリートファッショントレンドの発信地と言われていましたので、まずはここでロンドンのストリートファッションをチェックして仮説を立てることがルーティン業務でした。

訪れるたびに、1回の服飾雑貨コーナー、地下のロンドンストリートファッションブランドコーナー、上層階の各カテゴリー別の服や靴の売場にどんなブランドがミックスされ、新しいトピックが展開されているのかをチェックしていたものでした。

以前ほどの勢いはないかも知れせんが、マストポイントのひとつだと思います。

感度の高いブティックも多い、コベントガーデン

かつては、高感度なブティックが多かったものですが、ここも、グローバル展開をするアパレルチェーンの店舗が増えています。
今回、関心が高かったのは、すでに欧州ではポジショニングを勝ち取ったH&MやZARAの次の一手です。

H&Mの上質ブランドCOS(コス;その後日本上陸)、インディテックス(ZARA)の上質なコンサバブランドMassimoDutti(マッシモ・デュッティ;日本未進出)が並んでいたので比較できました。

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いずれも、価格はH&MやZARAよりは高いですが、ハイセンスなブランドと比べると、バリューが感じられる、コスパあるブランドなので、
以後、アメリカのJCrewと共に、注目していました。

近郊ショッピングセンター 2つのウェストフィールド

以前は、ロンドンからショッピングセンターも視察に行こうというと、
電車で45分、BLUE WATERまで行かなければならなかったのですが、
ロンドンのすぐ西と東にオーストラリア系のWESTFIELD(ウエストフィールド)が2つのショッピングセンターをつくってくれたの
行きやすくなりました。

西のWhite Cityがラグジュアリーブランドも入って比較的高級感があり、

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東のStratfordが大衆向け、オックスフォードストリートの縮図という感じでしょうか。

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ちょうど、ロンドンオリンピック(2012年)会場がすぐ隣にあった、Stratfordは当時、欧州最大のショッピングセンターだったようです。

特に後者では、オックスフォードストリート同様、next、TOPSHOP、NEW LOOKなどのローカルチェーンに対して、H&M、ZARAグループ、フォーエバー21などのファストファッション系グローバルチェーンがよりこなれた価格でファッションを提供し、新しい選択肢を提供している印象を強く受けました。

ロンドン視察撮影時のちょっとした苦労

ロンドンのハイストリートの店舗をリサーチしている時、画像撮影時に苦労するのが2階建てバスが邪魔してくることです。

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頻繁に走っており、連なっていることも少なくないので、店舗の外装を撮りたい時など、なかなか、通り過ぎてくれず、しばらく撮影「お預け」になることも少なくありません。
焦らず、ゆっくり、ゆとりをもって、歩きなさい、ってことですね(笑)

イギリスの朝食が好き

イギリス料理はあまり美味しくないという人が多いですが、それは、素材は悪くないのですが、塩分が足りないからだと思っています。
要は、塩加減は自分で決めろ、という感じなのでは?というのが僕の印象です。確かに、夕食には個人的にあまり美味しいものに巡り合えないのですが(スペイン料理など他の欧州料理を選んでしまう)朝食は楽しみです。
例えば、このフォートナムメイソンで食べたWELSH RAREBIT ウェルシュレアビット。

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病みつきになる塩加減(しょっぱい)のチーズトーストなのですが、ベーコン&焼きトマトは絶妙です。
これ以降もロンドンの朝食は行く度に、がっつりいただいています♪

今回のヨーロッパ3都市視察のまとめ

2012年当時、パリ、バルセロナ、ロンドンを10日間回って感じた、日本の主要ショッピング街の未来予測メモがありますので、まとめとしてご紹介したいと思います。

ひとつは、政令指定都市の中心にある百貨店の周りにはファストファッションチェーンが乱立し、高級品を販売する店と低価格チェーンの両極が共存するだろう。そしてグローバルチェーンが拡大し、ローカルチェーンからシェアを奪って行くだろう。

ふたつめは、プライマークのような、H&MやZARAよりも更に安いアパレルチェーンが都心部に進出して賑わうであろうこと。但し、政府の移民政策次第?

みっつめは、ファストファッションの品質に満足できない、もう少しお金を出してもいいから良い品質の商品を、という客層のために、H&MグループのCOS(コス)やZARAグループのMassimoDutti(マッシモ・デュッティ)のような上質なファストファッションに人気が集まるだろう。

でした。

2020年現在、

ひとつめは、まさしくそうなり、百貨店もアパレルチェーンもそれぞれ既に優勝劣敗が鮮明になっています。
ふたつめは、プライマークの日本進出はまだまだありませんが、GU(ジーユー)の拡大やしまむらの都心部進出がそれに近いかも知れません。
みっつめは、H&MのCOSは上陸しましたが、バッとせず、セレクトショップのセカンドブランドやユニクロのデザイナーとのコラボラインがそのあたりの役割を担っている感じがします。

2012年、ヨーロッパ3都市を駆け足で回った後、翌年の2013年はアメリカの西海岸LA東海岸NYに向かいます。

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