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解体

じゃぶ、じゃぶ、じゃぶ・・・


「ふう、ようやくはがし終わったぞ…。」

「結構今回のはしつこかったね。」

「まあ、無事綺麗にできてよかった。」


「それでは解体を始めます。」

「はいよろしくお願いしますよ。」


「まずは、いいところ。」

「あんまりないなあ・・・。」

「希少部位ですからね。」


「次に使えるところ。」

「まあまああるかな。」

「ただ好き嫌いが激しいだろうね、これだと。」


「うわ、いっぱい出てきたぞ・・・。」

「まずいところだもんなあ。」

「これはやばいな、ちょっと!大きな入れ物持ってきて!!」


「あと残ってるのは・・・。」

「空っぽになった魂だね。」

「じゃあ、店に並べましょうかね。」


店の前には、開店前からたくさんの行列ができています。

客は色々と噂話をしながら待っています。


「今日の仕入れはすごいらしいぞ。」

「空っぽの魂が入荷したんだってよ!!」

「じゃあ器無しの奴らは血眼になるだろうな!!」

「まずいところだけでも手に入れることができたらなあ。」

「まずいところなんかあっても困っちゃうじゃないか。」

「俺の器は、後ちょっと埋めたら完成するんだよ、そうしたら生まれることができる。」

「そうだよなあ、多少のまずいところは他でカバーしたらいいもんなあ。」

「間違いない、とりあえずものを見たいな。」

「早くあかないかな。」


ここは、魂をなくしてしまったものが集う場所です。

魂を悪魔に売ってしまったり、天使に取られてしまったり。

失ってしまった大切な大切な魂を再び手に入れるために、ただひたすらに待っているものたちの集う場所。


魂をなくしてしまったものは、魂を自らの手で組み上げなければなりません。

それにはまず、魂の器が必要です。


魂の器すら持っていない人がたくさんいます。

スカスカの魂の器を持ってる人がたくさんいます。

もうじきいっぱいになりそうな器をもっている人もまあまあいます。

魂の器に、魂のパーツを入れていって、器がいっぱいになったら生まれることができるのです。


がらがらがら~


魂パーツ店の扉が開きました。


「お待たせしました、それでは魂パーツのお渡しを始めますね。」


わーわー!ぎゃーぎゃー!


店の前が盛り上がりました。


「お静かに!!それではまず、魂の器から!欲しい方は挙手をして下さい!」


店の前の人の形をしたものたちが何人も手を上げます。

器を持たないものたちが全員手を上げています。


「たくさんいるので、この中で一番熱意のある方に器をお渡しします。」


上げられた手に、空から糸が下りてきました。

人の形をしたものは糸の端を握ります。

握ると、その糸は人の形をしたものとしっかりつながりました。

皆、糸の端を持ったまま、吊り上げられました。

ほとんどの人が空のかなたに吊り上げられて消えていきました。

二人、魂の器の前に吊られて来ました。


「貴方たちの熱意はほぼ同じですね。しかし、魂の器はひとつしかありません。」


一人が尋ねました。


「分けることはできませんか。」

「分けるとずいぶん小さな魂になりますが。」

「小さくなると、どうなりますか。」

「普通の人に比べるとずいぶん引き出しの少ない人生になりがちですね。」


二人は何か考えているようです。


「私は引き出しが少なくてもいいので、器を分けてもらいたいです。」

「私は生まれるからには充実したいので、器を分けたくありません。」


器を分けてもらいたいと言った人は、吊られて空のかなたに消えていきました。


「貴方に器を差し上げますね。」

「ありがとうございます。」


「お待たせしました、それでは、本日入荷したパーツの紹介をしますね。」


わーわー!ぎゃーぎゃー!


店の前が盛り上がりました。


「お静かに!!それではまず、いいところから。」


「愛情深い心。」

「夢を追う熱意。」

「真っ直ぐな気持ち。」


「欲しい方は挙手をして下さい!」


全員が手を上げました。

全員の手に糸が降りてきて、つながりました。


「熱意のある人上位三名にお渡ししますね!」


三人、吊り上げられてパーツの前に立たされました。


「貴方たちに差し上げます。」

「「「ありがとうございます」」」


吊り上げられなかった人たちは、糸とつながったまま立っています。


「次に、使えるところ。」


「研究熱心だが周りを見ない。」

「融通が効かないが一途。」

「現実を見ないで行動できる。」

「我慢強いが頑固者。」

「熱心だが強引。」

「好奇心旺盛だが無鉄砲。」


「欲しい方は挙手をして下さい!」


全員が手を上げました。

「熱意のある人上位六名にお渡ししますね!」


六人、吊り上げられてパーツの前に立たされました。


「貴方たちに差し上げます。」

「「「「「「ありがとうございます」」」」」」


吊り上げられなかった人たちは、糸とつながったまま立っています。


「最後に、まずいところ。」


「嫉妬深い。」

「言い訳癖。」

「わがまま。」

「乱暴もの。」

「孤独。」

「否定しかしない。」

「見下す。」

「逃げ出す。」

「見てみぬふり。」

「執着心。」

「音痴。」

「運動嫌い。」

「不器用。」

「貧乏。」


十人が手を上げました。


十人、吊り上げられてパーツの前に立たされました。

幸い、同じものをほしがって争うことはありませんでした。


「貴方たちに差し上げます。」

「「「「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」」」」


店の前では、パーツを手にした人たちが互いのパーツ獲得を喜び合っています。

パーツを手に入れることができなかったものたちはつながっている糸で吊り上げられて、すべて空のかなたに消えてしまいました。


「四つ余ってしまいましたね。」

「嫉妬深いと、執着心と、音痴と、貧乏。」

「どうします、廃棄しますか。」


「あの、それいただけませんか、全部。」


「おや、貴方は先ほど愛情深いを手に入れた方ですね。」

「ええ、この四つがあれば、器がいっぱいになるので、生まれることができるんです。」

「貴方、四つもまずいものを持って生まれて、ちゃんと生きることができますか?」

「愛情深いがあるので、がんばれば何とかなると思うんです、挑戦させていただけませんか。」


魂パーツ店のスタッフはずいぶん相談しているようです。


「貴方の挑戦したいと思う気持ち、確かに受け取りましたよ。」

「けれど、四つもまずいものを渡してしまうと、バランスが良くないのです。」


「そうですか・・・。」


「ですから、貴方には福をつけます。」

「残り物には福があるというでしょう?」

「どうぞ、いい人生を。」

「ありがとうございます!」


今日のパーツは、すべてお渡しすることができたようです。


「いやあ良かった、全部はけたね。」

「廃棄すると天使がうるさいからね。」

「悪魔が拾いに来ることもあるしな。」

「じゃあ、次の魂を探しに行こうか。」

「さっき闇がゆれてたからね、たぶんいるよ。」


深い深い闇に落ちた人間の魂は、ただただ闇にどっぷり嵌ってしまうのです。

いつの間にやら闇にとらわれて、自分自身を黒く塗りつぶし、魂を塗りつぶしてしまうのです。

闇をはがした魂はとても脆弱で、魂として活動することができなくなってしまうんですよ。

ですから魂を解体して、使える部分を取り出して、再利用しているんです。

リサイクルの波は、こんなところまでやってきているんですよねえ。


・・・おやおや、貴方、魂にすこおし、隙間が見えるようですが。

もしかして、ここから旅立っていった方ですかね?


大丈夫、大丈夫。

普通に生きてる分にはね、普通の魂にしか見えませんから。

普通に人生、生きてて良いんですよ。

見えるのは、私ぐらいなものなんです。


私、人に紛れて、人を監視している者でして。

闇に落ちる人を、すばやく見つけて魂パーツ屋にその情報を流したりしてるんです。

フットワークが軽くないとなかなかできない仕事なんですけれどね。


さあて、今日もそろそろ、仕事に取り掛かりましょうかね。

軽い気持ちでまずいところをもらってしまって闇落ちした魂を見つけてしまったのでね。

早く助け出してあげないといけないんですよ。


貴方、闇落ちしないでくださいよ?

正直ね、闇をはがすところってけっこうグロくってね。

少しでもこう、見たくないって言うかね。


でもパーツ待ちの人はたくさんいるから、この作業は無くなんないんですけどね。


なんていうか、色々ねじれてますよね。

なんていうか、色々つながってますよね。


生まれたいのに生まれることができないとか。

生まれたのに人生投げ出しちゃうとか。

人生楽しむために生まれたのに疲れちゃうとか。

人生楽しめずに闇に落ちるとか。

闇に落ちて、生まれたい人に魂分け与えることになるとか。


人は色々大変ですね。


人ですらない私が言うのも何なんですけどね。

人だった頃が一応あったはずなんですけどね。


あんまり良い印象がないのは、たぶん私も、ここから生まれて行ったからなんじゃないのかなって思うんですよ。


真実は闇のなか、なんですけどね。


手術物のおもちゃ好きなんですよね…。
昔勤めていたおもちゃ屋ではけっこう売れ筋でした。

ちなみにこれ、やってみたいけどまだやってない。


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