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読書感想文がきらい

 ユウスケは、夏休みの宿題の読書感想文がキライです。

 毎年夏休みになると、いの一番に宿題をやってしまうのですが…読書感想文だけは八月の終わりが近づいても書く気になれませんでした。

 どうして読書感想文がこれほどまでにキライになってしまったのかというと、理由がありました。

 ユウスケには、今までに一度も読書感想文を褒められた経験がなかったのです。

 小学校一年生の時、本を読んで感想を書きましょうという宿題が出て…ユウスケは自分が一番好きな絵本を選ぶ事にしました。大自然の風景の中にたくさん動物が隠されている、文字が一つもない絵本です。

 このページにこれだけ動物が隠れている、自然の景色に生き物が隠れていて感動した、将来こういう絵が描きたい、このページのライオンがかっこいい…原稿用紙三枚に思いのたけをたっぷり書いて、自信満々で提出ししました。

 ―――いいですか、絵本では読書感想文になりません!文字がひとつもないのに感想だなんて…これではダメです。ユウスケ君は、この本を読んで書き直してきてください!

 初めて書いた読書感想文を先生にダメ出しされ、みんなの前で怒られて笑われた時から…ユウスケには苦手意識がこびりついてしまったのでした。読みたくもない怖いイラストの本を読まされて、気持ちの悪い絵でしたと書いてますます怒られて…完全に読書感想文というものがキライになってしまったのです。

 いやだ、いやだと思って書いているからなのか、毎年読書感想文を提出するたびに先生に何かしら怒られてしまうのです。

 二年の時、料理をする女子の話を読んでごはんを作った事を書いたら、「感想になっていない。これでは日記です」と怒られました。

 三年の時、戦争の本を読んで分かった事と自分が好きな物を失くした時の気持ちを書いたら、「主人公の気持ちを考えていないから、もう一度よく読み直しなさい」と怒られました。

 四年の時、宇宙の始まりについて書かれた本を読み、初めて知ったことについてまとめたのですが、 「説明ではなく感想を書きましょう」と怒られました。

 五年生の時、自分の読みたい本を選んでもどうせダメ出しされると思って課題図書を図書館で借り、目次だけ読んで内容を想像して適当に書いたら、案の定先生に「お前は一ページも読んでいないだろう」とばれてしまい、こっぴどく怒られて、どうしようもなく読書感想文が嫌になりました。

 六年生になった今年も、小学校最後の夏休みの宿題として読書感想文が出されています。

 今まで読書感想文を書くために色んな本を読んできたけれど、先生の望むものは一度も書けなかった…、ユウスケは、何を書けばいいのだろうと悩みました。好きな本、興味を持った本、調べてみようと思った本、のめり込んだ本、すすめられた本…、どんな本を読んでも、先生は喜んではくれませんでした。考えれば考えるほどに、何を読んでどう書けばいいのかわからなくなってしまったのです。

 いよいよ来週から新学期が始まると言う日に、お母さんが一冊の本を差し出しました。

『読書感想文の書き方』

 お母さんは、この本を読んで先生に認めてもらえるような読書感想文を書いてごらんと言う気持ちで渡したのですが…、ユウスケは、最初から最後までしっかりと目を通し、この本を読んだ感想を書きました。

 読みたい本と読まされる本では明らかに内容の把握に差が出る事、誰かに褒めてもらうために感想を書くのは間違っていると思う事、感想とは個人が自由に持つものであり優劣をつけるのはおかしいと思う事、宿題にするべきなのは本を読んでそのすばらしさをたくさんの人に伝えるレビューなのではないかという自分なりの結論を出した事など、原稿用紙10枚をみっちりと文字で埋め尽くし、提出したのです。

「ユウスケ君、見ごたえたっぷりの感想文をありがとう。…いいものを読ませてもらった」

 ユウスケの読書感想文は、先生をうならせました。ほかのクラスの先生たちも感心していたそうです。ユウスケは、ようやく自分の努力が認められたと嬉しくなりました。

「ただ、これは…読書感想文と言うより論文だね。君はエッセイとか書いたら、きっとたくさんの人に共感してもらえると思う。…書いてみたらどうだい?」

 結局ユウスケは、読書感想文を書いて一度も褒められる事はありませんでした。

 しかし、先生の勧めで書き始めたエッセイが肌に合っていたようで、執筆に熱中するようになりました。書くたびに先生に見せ、笑ってもらったり、アドバイスをもらったりして…いつしか書くということに夢中になっていました。

 自分の書いた文章を読んだたくさんの人に喜んでもらうことができるようになったユウスケは、文字を綴る趣味を持つようになったのです。

 いつしか執筆仲間ができ、仲の良い先輩の勧めで、作品を投稿サイトに発表するようになりました。たくさんの人たちと交流を深めながら、自分の思ったことを自分の伝えたい文章で書き続けました。

 そして、気がつけば…ユウスケは子供たちの読書感想文をたくさん読む仕事についていました。

 子供たちのピュアな読書感想文を読んでいると、ユウスケは幼いころのことを思い出します。そして、色んな感想を持ちます。

 ……これは、感想文とはいえないな。

 ……続きが読みたくなるな、ちょっと頼んでみようか。

 ……僕よりも上手だ。

 ……読書感想文を読んだ感想を書くのって、本当に難しいな

 ……先生も大変だったんだろうな。

 ユウスケは、感想を文字にすることはしません。

 自分の書きたいものを書くと決めているユウスケにとって、誰かに喜んでもらうための感想を書くことは、違和感の塊でしかなかったからです。

 ということで、ずいぶん大人になった今でも…、ユウスケは読書感想文を書くことが苦手なのです。

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