美鳥宝
詩とおはなしはここ、人間はあまりいない
「優しくていない」のまとめ、全4回、終了済
「祖母の復讐」のまとめ、全3回、終了済
連続しない、1回で終わるもの
『いない』全29回 終了済、ときどき性暴力の描写があります
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 貝殻 私 と 呼んでいたものは とっくの昔に 巻貝に食べられた 海底の松…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 旅先 太陽を 直接見ると 目が潰れてしまうのだって でもほら たぷ…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 天蓋 まあるくひらいた口の形に ごぼり、ごぼり、 泡が、昇る、 がぼり…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) おむかえさま 雨のお薬 くださいますか おむかえさまのいどころは 白…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) くじら 長いこと 潮の合間を縫っていた 大きな体 海面に やがて背…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 拍手 音がわかったら瞬きをして 一と三四を鳴らすから 二と五と六とで入…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 羊狩り ゆくてに見える羊の群れに 火をくれよう 火をくれよう 石切り…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 轡(くつわ) 母の 腰の周りを 花の人たちが取り巻いて 緑の手指をくゆ…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 遠景 線路のいちばん遠くが白い あまけぶり どこへゆくの ほしぼし …
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 籠 冷たいものが入ります 唇の隙間 雪の はじめ さく さく さく …
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 水槽 きれいな きれいなきれいな きれいな あんなにきれいないきものが…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) たしなみ まず ひづめを濡らしてかかとをつけて 高いところから落ちた時…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 花参り 東の空が薄墨の色だ ごごんごごんと雲は流れ もうじき青くなるだ…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) まじない 雨と雨との合間を縫って 歩幅を小さくして走る もう六十歩先に…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 蝉 蝉の羽音が空気を満たし 酸素をこまかくこまかく裂いて 耳から頭の…
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 泥沼 凶暴性とか暴力性とかぎらぎら目を見開いたまま笑う 凄みのようなあな…
2024年4月25日 19:12
貝殻 /詩
美鳥宝/遠い水
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)貝殻 私 と 呼んでいたものは とっくの昔に 巻貝に食べられた 海底の松明(たいまつ)が揺れている 振動は空気の梯子(はしご)を伝い ほろほろと輪郭をこぼしながらゆく あちらの耳へとたどり着くまでに 崩れ残った音の骨が 一番軽くてきれいな重り 身体をたたんで転がる人の 硬い背中を
2024年4月8日 19:50
旅先 /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)旅先 太陽を 直接見ると 目が潰れてしまうのだって でもほら たぷたぷ たぷたぷ たぷたぷ 海に光の道ができるよ 橙が灰色に滲む おかえりよ と 白くなる 燃えるのとよく似ているね 終わりに花が咲くところ ここはとても暖かいね いろいろなものが打ち上がる 陸の樹
2024年4月7日 19:17
天蓋 /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)天蓋 まあるくひらいた口の形に ごぼり、ごぼり、 泡が、昇る、 がぼり、肺が 押し潰される咳のはずみには ぎしりと気道が擦り切れる 水面を通して空から射すのは うすべにだいだいあおみどり、 きいろむらさきつゆくさいろ、 入射角、 反射角、 左の耳から流れ込む音と 右の耳から流れ込む
2024年4月6日 20:55
おむかえさま /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)おむかえさま 雨のお薬 くださいますか おむかえさまのいどころは 白い 象の群れが遠くから 土埃 長い列 はためく耳と耳のいきれ 憶えのある三角を見た おむかえさまは雪のもの 氷の粒が刺すようだ 口をあいては凍ってしまう えりまきの中で歌おうか 舌を細かく動かして
2024年4月5日 17:49
くじら /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)くじら 長いこと 潮の合間を縫っていた 大きな体 海面に やがて背を出し ひとときの夢 それは息継ぎ つかの間、潮を噴き上げて (それはきらきら焼かれるような) (こまかく散った宝石になる) 尾ひれで叩いてからだを捻る ふるえる海原ひかりを吸って かれらの鼓動を抱き
2024年4月2日 18:20
拍手 /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)拍手 音がわかったら瞬きをして 一と三四を鳴らすから 二と五と六とで入っておいで わたしたちは出入りする ちかく暮らした動物を食べ 肉のない骨の洞窟で眠る 第一から第十二へと向かい ひたり手のひらを当てて待つ 位置について 少し笑う すべての鍵盤を撫でる仕方で 触りながら向こうま
2024年3月31日 19:24
羊狩り /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)羊狩り ゆくてに見える羊の群れに 火をくれよう 火をくれよう 石切りのふもとあかりを灯し 峡谷へ転げ落ちぬよう 火を焚こう すみずみ朱く渡り 子供らの顔を照らそう 羊たち あなたたちのうち一頭が 春に残したみどりごを まだここに 預かっている 戻って来るならば合図を
2024年3月30日 20:41
轡(くつわ) /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです) 轡(くつわ) 母の 腰の周りを 花の人たちが取り巻いて 緑の手指をくゆらせながら 回っているのに気がつきました 死んだ人の頬の皮膚が このように 薔薇色であるはずもないのですが それは皆知っており 知りながら何も言わないのでした あの手が 眠る額を撫でて 同じ手が 固めた
2024年3月29日 20:35
遠景 /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)遠景 線路のいちばん遠くが白い あまけぶり どこへゆくの ほしぼし はなばな やまやま つきづき くさぐさ つちづち うおうお いさり どこかへ 行ってしまう まちなみ ひとびと うたうた ゆかり とりたち みちみち いろいろ ひかり 遠くの
2024年3月28日 18:23
籠(かご) /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)籠 冷たいものが入ります 唇の隙間 雪の はじめ さく さく さく さく 踏むような 音がします 横臥した 耳の中 振動は 胸の底 私は 籠です ふくれます しぼみます やわらかく練った 籠です 弾力のある臓物は 意思の力では動かせません 意識の有無に関わ
2024年3月27日 17:55
水槽 /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)水槽 きれいな きれいなきれいな きれいな あんなにきれいないきものが 陸に投げると生臭くなるの 熱いでしょうね 私も暑いですけれど あなたはほんとに熱いでしょうね 膨らんだ腹を押しつけました いちどきに百も二百も卵を 産んでしまうというのだから ならば そのえらぶたを私にくだ
2024年3月26日 19:54
たしなみ /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)たしなみ まず ひづめを濡らしてかかとをつけて 高いところから落ちた時 それなりに音がするくらい 羽毛はなめらかに溶かして 僧帽筋の隙間に隠す 爪が硬ければやすりをかけて 削り過ぎてしまわぬように まばたきのできる目蓋をはめて 眼球に涙の膜を張る まつげの鱗粉をはたいて 多少残っ
2024年3月25日 21:12
花参り /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)花参り 東の空が薄墨の色だ ごごんごごんと雲は流れ もうじき青くなるだろう 水底みたいになるだろう 真白い骨がうずまっている ガラスの棒をからから回す 薄ら甘い飲み物を かぶとむしにあげるみたいに 泣き出したあすの夕方のために あらぬ ほうを 見ているね 風をはらんだブラウ
2024年3月24日 20:00
まじない /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)まじない 雨と雨との合間を縫って 歩幅を小さくして走る もう六十歩先にある きれいな裂け目が深度を増して 上がってゆく水位を示す 潰れた岩場の奥底で ごぼごぼと水が沸いている 破片が喉の上蓋を突いて 口からだらだら流れ出る際に なりそこないの文字たちが しらしらと鳴って踊り出す
2024年3月23日 19:44
蝉 /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)蝉 蝉の羽音が空気を満たし 酸素をこまかくこまかく裂いて 耳から頭の継ぎ目へ回る 私を人のかたちに保つ 結び目の糸がほつれ出す ばらばらが満ちた温泉みたいな それはきっと地獄にもあった わたしたちがプールされていた ふるさとのことを思う 歩き回って片割れを探す 川
2024年3月22日 17:45
泥沼 /詩
(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ)(内容はどちらも同じです)泥沼 凶暴性とか暴力性とかぎらぎら目を見開いたまま笑う 凄みのようなあなたに備わる機能の一部が 脱水の波が引くにつれ徐々に水面に上がり 後ろの足へ手を伸ばす いろんなものを少しずつ 寄せ集めては継いで出来た 泥人形は肉を喰うって 小学校の図書室で読んだ けものでもあり植物でも