美鳥宝

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美鳥宝

note:202312- 作文はここ 詩とおはなしは遠い水 朗読はこちら(YouTube/遠い水) https://www.youtube.com/@toimizu

マガジン

  • 遠い水

    詩とおはなしはここ、人間はあまりいない

  • 優しくていない

    「優しくていない」のまとめ、全4回、終了済

  • 祖母の復讐

    「祖母の復讐」のまとめ、全3回、終了済

  • 連続しない、単回

    連続しない、1回で終わるもの

  • いない

    『いない』全29回 終了済、ときどき性暴力の描写があります

最近の記事

貝殻 /詩

(文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 貝殻  私 と 呼んでいたものは  とっくの昔に 巻貝に食べられた  海底の松明(たいまつ)が揺れている  振動は空気の梯子(はしご)を伝い  ほろほろと輪郭をこぼしながらゆく  あちらの耳へとたどり着くまでに  崩れ残った音の骨が  一番軽くてきれいな重り  身体をたたんで転がる人の  硬い背中を撫でていた  ながく吐き気に緊張している  唇から色が抜け  脚先から水が溜まり  すべて抜けた頃軽くなる  いまだ 慣れることはない  止めていた息を吸う  くらげは蓋のない命の器  腐る直前  ひときわ甘い匂いを放つ  一瞬にゆきあった  老いた猫が目やにをためて  裾の間をすり抜ける  見失いざま あの  白い花は くちなし  十二本の指を差す  花を見て草を見て月を見て  川を見て山を見て庭を見て  すべてを同じ名で呼んだ  海亀のような眼差しと  かち合った日を憶えている  友達 いいえ 兄弟 いいえ  あれは 誰だったのか  いいえ 何だったのか  ささやかな雨音と遊び  足の裏から吸い上げる水を  すみずみまで巡らせて  いくつかの問い掛けを  取りこぼしたままの今日に  引き上げたての片脚を向け  あけがたに 爪を掛ける  私は人間です  (いいえ)  私は動物です  (いいえ)  私は植物です  (いいえ)  私は無機物です  (いいえ)  私は液体です  (いいえ)  私は気体です  (いいえ)  私は  私は、  どこから  どこまで  足の甲から指の付け根まで  ぱきぱきと骨を鳴らす  体温のある生きものよりも  それを持たないものたちの方が  数としては多いのだろう  血肉を宿した家の窓を開け  日々を暮らす掌を合わせ  瞑目と沈黙を送る  秘密のうちいくつかは  海流に乗り浜へ戻り  また 別のいくつかは  網の目を通り抜け 深く  秘密のまま 堆積する  正座から上体を傾け  床板に額を懐かせた  まだ  骨まで冷やすほどではない  土から生えたものの温度  眠りに落ちた人の側は  置き去りにされているようで  口許に手をかざす  この人はどこにいるのか  ゆるやかに湿るこれは誰の手だろうか  何度形が変わっても  すぐそばの心臓さえ遠い  群集に立ち 音を聴くのは  耳だけでなく 皮膚だけでなく  身体に満ちた水だけでなく  遠く遠く いまは遥か  薄白い砂の貝殻たち  匂いがする  甘い匂いだ  すれ違いくるぶしを鳴き声が掠め  細枯れた尾をぴんと立て  隆起する背筋が波打つ去り際  両掌で顔を覆い  叫びたい私の胸郭を潰す  秘密は秘密のままに置き  息をすることはできる けれど  探してしまう  人でもあり 虫でもあり  草でもあり 石でもある  私はなに、あなたはなに  わたしたちの帰りみちを  手を叩く音が呼んでいる  わたしたちは あなたたちは  骨は 筋肉は 脳髄は  家は 街は 人波は  私の耳の中にある  からからと重りが鳴っている  打ち寄せられた秘密の殻を  粉々に噛み砕いたのは  知っている この喉だ  飲み込んだ音が体液と混ざり  鳩尾深く滞留する  吐き戻さず 身体に溶かし  やがて失う  いいえ返すの  空中をかきむしる掌の  両方を耳殻に当て  生成された熱が動く  私はいる  歯の生える裏側の膜に  裂けた樹木の断面に  これから血肉を得るものが兆す  器の軽さ柔らかさへ  一番暗い場所はいつも  白く飛ぶ光の源(みなもと)を  隠している  これが  何周目の心臓なのかも  知らぬまま わたしたちは  どこから  どこかへ * (書いた日:20150922) (朗読した日:20240425) (YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=U50HslaUABE

    • 旅先 /詩

      (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 旅先  太陽を  直接見ると  目が潰れてしまうのだって  でもほら たぷたぷ たぷたぷ たぷたぷ  海に光の道ができるよ  橙が灰色に滲む  おかえりよ と  白くなる  燃えるのとよく似ているね  終わりに花が咲くところ  ここはとても暖かいね  いろいろなものが打ち上がる  陸の樹は  今は冬で  目を開けて眠っている  咲く前にすうと息を吸う  吸って  幹の一番奥深くまで冷たい風と暖かい風を  余すことなく入れたなら  ふうと吐くよ  ながく吐くよ  その年の花の末の蕾が  ひらいて落ちるまで吐くよ  春は  音が消える  きみに見せたいと思う  目も鼻も耳も口も持たないきみに  お別れしなくてはならない  こんなにすぐそばにいるのに  どこにでもいてどこにもいない  きみのふるさとを聴きたい  息継ぎのはざまに覗いた  きみが肉のない腕で抱く  鯨の喉の骨のような  動くものも もう動かないものも  隔(へだ)てなく沈んでいるのだろう  裂け目の見当たらない口を  そうしてあいているのならば  生きている内臓をあげたい  あたたかいものが好きだから  肋骨の下にいたんだろう  指のない手を繋いで  風と埃の刺さった  陸の空気を羽織って  呼吸の練習をしていた  発熱性の海が私  おがくずで一杯の頭に  できたての目と口を開けよう  鼻と耳とに通じる  糸の管を丁寧に結ぼう  色の洪水を浴びれば  少しずつ表皮がかたまる  陸で踊るのを見せたい  きみとよく似たものたちが  夏の葉の間で笑うよ  極小の粒を光らせ  いつでも「そう」とざわめく  指差すことはできない  そういう在り方をしている  昼の熱さの残った  石の棚に脚を揺らし  きみの滴(しずく)を飲み込み  夕焼けに燃やされ冷やされ  灰になるまで黙って  それで充分だったのだ * (書いた日:20150604) (朗読した日:20240328) (YouTube: 2023くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=vO4RMIh525I

      • 天蓋 /詩

        (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 天蓋  まあるくひらいた口の形に  ごぼり、ごぼり、  泡が、昇る、  がぼり、肺が  押し潰される咳のはずみには  ぎしりと気道が擦り切れる  水面を通して空から射すのは  うすべにだいだいあおみどり、  きいろむらさきつゆくさいろ、  入射角、  反射角、  左の耳から流れ込む音と  右の耳から流れ込む音が  眉間の奥で破裂して  ちかちかと  光が舞う  もてあますこのしぐさこえもいろも  まるでなじまない規格に沿って  息もなく  涙もなく  にこにこと  にこにことわらう  まだ名のつかない情動も  首に手をかける衝動も  犬の手綱をあつかうように  二回からげて引き止める  おとなしい子はかわいい子  かわいい子は踏んでもいい子  踏んでもいい子は千切っていい子  千切っていい子は食らっていい子  まずいのなんのと齧られるかたわら  いつでも両眼を見開いていたよ  半びらきの口の中には  あたらしい歯が揃いつつあると  肋間の肉をしゃぶるあいだは  気づかなかったか  (忘れていたか)  ことばもてあそぶこぶしで  しんに息の根をとめないかぎり  わたしたち何度も砕けては  焦げて  そのたびこまかくなってゆくこと  かわいい  かわいいかわいいかわいい  かわいいかわいいかわいいと  ざらんざらんと舐める舌の先  知っていたでしょう  あとさんまんかい  いただきますをしたならば  糸引く目やにも乾いてしまい  まぶたとまぶたが貼りつくことを  ほろびにもっとも近いところに  うつくしい花が咲くのだと  金銀の雲がたなびく夢の  まぼろしのような川面でおどる  ときも  かつては、あって、  またそこへかえってゆくのだと  寝物語はさんさんとして  そんなものいつだって見ていた  ほどいても  ほどいてもなんにも  痛くないのだと気がつく  またたく  やみあがりのひかりを  聴き  ぬるまった風が  さらって  いく  前髪を全部かきあげて  名も知らぬきょうだいを  連れて  遠い石段を、  上り  ひきつれる  ふくらはぎ  すこやかな腱が浮かび出す  さまに  うすぐらいあこがれを  いだく  忘れものを  している  (おいで)  こぼれかかる  葉の影に、  おばけを見て  神様を  知る  祠(ほこら)を飲み込む苔が  しんと  なつかしい音を  鳴らして  いて  だれも  かれも  ずるむけの皮膚を  風に  さらし  笑っている  あかあおみどりやあざやかな  泥水のような  息を  吐いて  はがれたうろこが  溜まり  くるぶしまでが  沈む  星の数ほども  つづく  数珠繋ぎ、の  祭礼に    首筋を  汗がつたう  いまだ、落ちない、  天の蓋、  (ねえ)  わたしたちみなもうひとつ  魚の心臓を  かかえて * (書いた日:20140507) (朗読した日:20240328) (YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=eHtvogV4Iio

        • おむかえさま /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) おむかえさま  雨のお薬  くださいますか  おむかえさまのいどころは  白い  象の群れが遠くから  土埃 長い列  はためく耳と耳のいきれ  憶えのある三角を見た  おむかえさまは雪のもの    氷の粒が刺すようだ  口をあいては凍ってしまう  えりまきの中で歌おうか  舌を細かく動かして  吹雪く風音に飛ばそうか  おむかえさまのいどころは  まもなく(まもなく)  まもなく(まもなく)  あの子がむこうでほどけるように  手袋同士をしっかり結び  白象たちのあとに続く  北へ  向かう  土道はやがて雪道となり  積もるうち氷道へ変わる  鳥の幻を見たんだ  伸びる尾が眩しかったんだ  先々で象が沈んで沈んで  氷を踏み割り落ちてゆく  地響きに似た音や音や音が  (途切れない)  (挟んだ耳の証はどこだ)  痛むこころを忘れて来たので  水柱を見て膝をつく  さよなら白象  さよなら白象  さよなら白象  さよなら白象  ゆきゆきみちに並べてあるのは  四つに積んだ石の山  目印はここ  目印はここ  刻んだ木の肌 刺した枝  目印はここ  目印はここ  無事に帰って来られるように  目印はここ  目印はここ  おぼれるような笑い声  おむかえさまのいどころは  うちなる雲雀(ひばり)に訊いてみて  折り重なる象のうえ  再び氷の蓋が張る  片手袋を枝に結び  みずうみは  春になる  土が解け 虫が覚め  天を巻き 鳥が鳴く  (宝石の粉が降るようだ)  ささやかな雨が過ぎてから  雲が割れ  白く光る  僕らを射す  あれは朝だ * (書いた日:20141224) (朗読した日:20240328) (YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=DD2B6JMtukk

        貝殻 /詩

        貝殻 /詩

        マガジン

        • 遠い水
          47本
        • 優しくていない
          4本
        • 祖母の復讐
          3本
        • 連続しない、単回
          22本
        • いない
          34本

        記事

          くじら /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) くじら  長いこと  潮の合間を縫っていた  大きな体  海面に  やがて背を出し  ひとときの夢  それは息継ぎ  つかの間、潮を噴き上げて  (それはきらきら焼かれるような)  (こまかく散った宝石になる)  尾ひれで叩いてからだを捻る  ふるえる海原ひかりを吸って  かれらの鼓動を抱き止める  (鯨の群れはどこへ向かうのか)  (噴き上げられたわれわれの飛沫)  (宝石はすぐに空気に溶ける) * (書いた日:20100330) (朗読した日:20240328) (YouTube: 2023くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=ljGtBIgN12w

          くじら /詩

          くじら /詩

          拍手 /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 拍手  音がわかったら瞬きをして  一と三四を鳴らすから  二と五と六とで入っておいで  わたしたちは出入りする  ちかく暮らした動物を食べ  肉のない骨の洞窟で眠る  第一から第十二へと向かい  ひたり手のひらを当てて待つ  位置について  少し笑う  すべての鍵盤を撫でる仕方で  触りながら向こうまで流れ  浮遊肋(ふゆうろく)の先端を  打って  わたしたちの棲みかを鳴らす  ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち  ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち  夏毛と冬毛を繰り返し  花を食べ  草を食べ  土を食べ  虫を食べ  霜を食べ  石を食べ  肉を食べ  肉を食べ  冷たい腹に額を当てて  血の動く音に頭蓋が揺れる  日光と皮膚の匂いを混ぜた  くしゃくしゃの毛が指に絡む  ちかしかった君を食べ  私はいつか人になって  しゃぶり残した骨を組む  手を叩いて  手を叩いて  耳まで裂けた歯と歯の間に  わざと首まで突っ込んで  赤暗い穴の始まりを見た  唾液をだらだら滴らせ  咬み千切らない鼻を撫でた  手を叩いて  手を叩いて  四つ脚が 輪を描き  影が躍り 長く伸びる  すぐに消える  壁に遺す  君を模した面を彫り  布に巻いて深く埋める  うまく踏んで  うまく化けて  十月の葉が転がるような  からからからからからからからから  ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち  音高く破裂君に暮らす * (書いた日:20141216) (朗読した日:20240328) (YouTube: 2023くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=dfYSkH0Moc0

          拍手 /詩

          拍手 /詩

          羊狩り /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 羊狩り  ゆくてに見える羊の群れに  火をくれよう  火をくれよう  石切りのふもとあかりを灯し  峡谷へ転げ落ちぬよう  火を焚こう すみずみ朱く渡り  子供らの顔を照らそう  羊たち  あなたたちのうち一頭が  春に残したみどりごを  まだここに 預かっている  戻って来るならば合図を  たずねる前に行ってしまった  迎えが来ないとわかるまで  おくるみに巻いて隠していたよ  女の子だと悟られぬように  いいえ  男の子でもそうしただろう  羊たち 産まれた子は  善意の手で取り上げられる  正解を 不正解を  いるかいらないか決められてしまう  (いいえ これは羊の子です)  (私のものではありません)  次の春 遠くからふたたび  あなたたちはやってきて  音もなく  潰れた目で  またひとりみどりごを残し  どこかへ去ってしまったね  一番目の子は今年 七つだ  夜 散歩に出ると 空を指し  あれは神様かと訊くよ  いいえ あれは  昼の天幕の裏側に  夜が縫い合わさっている  人が触ると 燃えてしまう  あまり遠くへ行かないで  けれど  あれは  あの子が正しかったのだ  いつか必ず  返さなくてはならないものを  あなたたちは預けてゆくね  二番目の子は 未だ知らぬ花嫁に贈る  木舟を一艘 切り出しにゆき  三番目の子は矢をつがえたよ  あれは羊狩りの瞳    遊びに出かけて帰らなかった  六番の子も 七番の子も  あなたたちの群れの中に  いまは混じっているのならば  どうかあたためてやって  母も 父も 見分けられない  私には あなたたちが まだ  ひとしくかたまりに見えている  羊たち  鳴いてくれないか  わたしたちは 刃物をおぼえ  川底に送る 舟を おぼえ  棺に 花を いっぱいに満たし  きいぎいと  押している  (すべて歌だ)  (あなたたちも)  水がめを覗き 髪を洗い  硬い木肌を抱擁し  つららをなめ 血を流し  どの子も私を去るだろう  丘を 燃やし 川を 燃やし  自分で見つけた宝石を  一人で燃やしに行くだろう  昼は夜 夜は昼に  透かし紙のように重なる  周回している 石山は  星の輪を冠にいただき  真昼の月は白く光り  羊狩りの瞳を射抜く  預けられた羊の子は  半身をむれなかに残し  もう半身で地上を踏む  水の中でのできごとを  炎の上で思い出すように  ひとりであたたかいうちは  あの中にいる私のところまで  生き残りの羊の子と 並び  峡谷を深く覗き込む  あかあかと見留められるあれは  炎を吐く羊たち  飛び込めばざとかき消える  柔らかい灼熱の群れ * (書いた日:20140413) (朗読した日:20240324) (YouTube: 2023くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=SxQScUVYznA

          羊狩り /詩

          羊狩り /詩

          轡(くつわ) /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 轡(くつわ)  母の  腰の周りを  花の人たちが取り巻いて  緑の手指をくゆらせながら  回っているのに気がつきました  死んだ人の頬の皮膚が  このように  薔薇色であるはずもないのですが  それは皆知っており  知りながら何も言わないのでした  あの手が  眠る額を撫でて  同じ手が  固めた拳でぶちのめすことも  あるのだろうとわかりました  抱擁が  ときには気道を塞ぐこと  誰か  知っているのだと思います  庭をいくつも産み交わし  たくさんのものを植えました  あるものは腐りあるものは育ち  あるものは歌いあるものは  口の外まで歯を生やし  がりがり人を食らいました  さつまいものつるまみれです  みんなわたしが喚びました  もともと私のものではないので  喪うこともありません  美しい寛骨でした  美しい大腿骨でした  右脚と左脚のあいだ  性のあることは  さいわいですか  おかあさまこれが私の母です  もしもあなたが望むなら  いくらだってひざまずいてわたしは  あなたにうつくしいと  うつくしいと  ひざまずいて呪ううちいつか  わたしの声に乗る  言葉がばらばらになって  あなたの  まんまるいきんいろのおなかに  溶けてなくなってしまうまで  うつくしいと  うつくしいと  おかあさま  なぜからだは  爛れ  破け 縮み 溶けて  さつまいものつるなどにまみれ もう  誰が踏んでもわからない  おかあさま  私の足の裏に  あたたかく湿る骨の山を  こんなにも踏んでいるのです  踏んでいるのです  おかあさま  なぜこころは  気体でも液体でもなく肉体のどこか  さわれない場所に   さわれないかたちできれいに  おさまっているのに  このようにあふれてしまう  おかあさま  望んでください  おかあさまわたしを  呼んで  まだ熱い骨の間から  薬指の名残を借りて  灰殻の紅を引きました  まみどりいろの唇を交わし  性は  からだのどこか神経の  一点に雷を落とし  あなたの  えぐれた腹の向こう側に  もうひとつ  もうひとつを  見たの  おかあさま  おかあさまもしも  あなたがわたしをあいしてくれて  私が鳥であったなら  硬い嘴をべたべた汚し  あなたのおなかを啄ばんで  食い散らかして笑うのです * (書いた日:20141110) (朗読した日:20240324)

          轡(くつわ) /詩

          轡(くつわ) /詩

          遠景 /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 遠景  線路のいちばん遠くが白い  あまけぶり  どこへゆくの  ほしぼし  はなばな  やまやま  つきづき  くさぐさ  つちづち  うおうお  いさり  どこかへ   行ってしまう    まちなみ  ひとびと  うたうた  ゆかり  とりたち  みちみち  いろいろ  ひかり    遠くの  遠くの  みずみず  かみがみ  うたうた  まぼろ * (書いた日:20141217) (朗読した日:20240324) (YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=imuNMCF9E2o

          遠景 /詩

          遠景 /詩

          籠(かご) /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 籠  冷たいものが入ります  唇の隙間  雪の  はじめ  さく さく  さく さく  踏むような  音がします  横臥した  耳の中  振動は  胸の底  私は  籠です  ふくれます  しぼみます  やわらかく練った  籠です  弾力のある臓物は  意思の力では動かせません  意識の有無に関わらず  血液は循環しています  心臓は  筋肉です  あれらはとても動きますので  外から幾重にも  巻き  飛び出さぬように押さえています  私は  くずかごであり  とりかごであり  くだものかごでも  あります  いつか腐ります  籠ごと腐ります  爪を切るおいしそうな音が  今はします  今は  します  音がします  雨垂れは途切れない気がします  肩越しに  振り返れば  たぷんと  跳ね返ります  水が  骨に  ぶつかって  音がします  今も  あれも籠です  ふいに  頭がおかしくなりそうだなんて  まるで人間みたいなことを  言うので  それを聞くと私はとても  愉快な気持ちに  なります  すてき  とても  おかしくなりそうだなんて  とても  泣くのを見ると嬉しくなります  ほたほた落ちてくる水が  だんだん赤くなる耳が  ときどき差し挟まれる休憩の  三年溜めたような呼気が  たのしくって  力を入れ過ぎた肩の形や  半端に握りかけた右手  左手は  洟をかむのに忙しそうで  爪が  生えているなと思います  少し白い  いつもよりも  齧(かじ)ると  減ります  そしてしばらく生えてきません  しばらく  というのが  日なのか  月なのか  年なのか  私は  知りません  もう少し上の単位もあります  三より先はたくさんです  籠の  中身は  血と肉と  臓物と  骨によってできています  どれも  おいしいです  ですので  減ります    穴があります  日常の些細な出っ張りに  引っ掛かりやすいので  なるべく皮膚を被(かぶ)ります  いいやつを  被ります  そうすると  ドアから外へ出る際も  安心で  安全です  窓は  出入り口ではありません  けれど  魅力的だと思います  瞳は  いつも水の膜を張り  よいものだと思います  光るでしょう  陽が射すと  おいしそうだと思います  寒くって  やけに笑う日です  籠に  あなたのことが好きです  だなんて  死にそうだと思います  一番凶暴なのは鳥です  鱗の生えた脚をしています  おまけにどこかにいなくなります  ですのでぐるぐる巻いてあります  ほんの  気休めです  腕で  巻くのは  抱擁と呼ばれます  二つの  籠です  三より先はたくさんですが  二まででしたらわかります  これが 一で  それが 一です  こうすると  二になります  おかしくて  かないません  四つの乳房がくっついて  とこととこ  ととことこ と  速さの違う音がします  温度  鳥です  どちらも  巻いてあります  私たちの  心臓は  星と星よりも遠いです * (書いた日:20140804) (朗読した日:20240324) (YouTube: 2023くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=pHdY-6_mz1M

          籠(かご) /詩

          籠(かご) /詩

          水槽 /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 水槽  きれいな  きれいなきれいな  きれいな  あんなにきれいないきものが  陸に投げると生臭くなるの  熱いでしょうね  私も暑いですけれど  あなたはほんとに熱いでしょうね  膨らんだ腹を押しつけました  いちどきに百も二百も卵を  産んでしまうというのだから  ならば  そのえらぶたを私にください  今はまだぱかぱかと動く  それが止まったら私にください  かつんと  だって  うらやましい  水を通して  水の温度で  滲み出す汗では足りませんでした  ばたつく手足は長過ぎました  今日も怖くありませんでした  昨日も怖くありませんでした  今日は怖くありませんでした  今日は怖くありませんでした  今日  は  ぱくぱくと水面近くで口を  動かすあなたを見ています  遠い  頭の中に穴があいています  皮膚を挟んだ椎骨のひとつ  ひとつ  ひとつが菱形に浮き  音がします  ここん  ここんと  順番です  いってしまいますか  あなたは  乾いた ところに  いると  よい香りがするのだと  花の咲く木はとてもあかるい  そのようにあなたは  言い  あかるいものはよいものですか  水底で暮らそう  とは  思ったことがありませんか  その背中のうろこひとつ  ふたつ  ばりばり  根元から はがして  あなたが泣くのを見たいです  痛がって泣くのが  見たい  美しいなと思います  光って  いたから  いいえ  息を  するのをやめれば  私たちのからだは死にます  いいえ  さかさま  痛くは  ありませんか  脇腹からそんなにも  やわらかいものをはみ出させ  ずるずると引きずって   皮膚は  心臓です  流れ出さないための  ぬるいものや  粘液が  外へ出てゆかないための  袋  小さな花殻の  積もる  初秋を  踏みしだいて  あなたは  橙色の  肺胞  人間など  簡単にばらばらになるのだから  やめときなさいと  あんなに  きれいな  目蓋が  動いて  ぎゅうと  押さえる  掌の付け根  全体重を  乗せて  浮かれなければ  静かになると思いました  跳ね回る尾ひれのことは  やがてかさかさになる時が  誰にも  ひとしく  飛沫が  目に刺さります  静脈が  光に透けます  前腕の  日の当たらない側は  よそよそしい模様です  海を  飼っています  見たことのない魚が棲んで  います  皮膚の下です  水槽です  水槽は  簡単にばらばらになります  いつかえらぶたを一枚  ください  そして水底で暮らします  あなたの 浮き袋が  ぱあんと割れるのが見たいです  あなたが泣くのが見たいです  一撃の  呼吸のもと  いずれ二億や三億の  ふくふくとした肺の  房が  産まれるのが私は見たい * (書いた日:20140729) (朗読した日:20240324) (YouTube: 2023くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=Ak8pFC8RMKw

          水槽 /詩

          水槽 /詩

          たしなみ /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) たしなみ  まず  ひづめを濡らしてかかとをつけて  高いところから落ちた時  それなりに音がするくらい  羽毛はなめらかに溶かして  僧帽筋の隙間に隠す  爪が硬ければやすりをかけて  削り過ぎてしまわぬように  まばたきのできる目蓋をはめて  眼球に涙の膜を張る  まつげの鱗粉をはたいて  多少残ってもばれないよ  下着の中に尾を入れて  えらに蓋をして肺をふくらませ  35度から7度の体温  中身はもう少し熱く  虫に刺されて穴のあくほど  皮膚のかさねを薄くする  一番大切なことはね  先になりきってしまうの  ここに人間がいますよって  涼しい顔して歩くの  お腹を少し弱くして  毒を飲んだ時気がつくように  時間をかけて集めた  かたまりの石がごろごろしている  あまりにも重くなったら  我慢することはないから  はさみで切って出してね  よその鏡には映る  もともと怯えであったのが  煮詰まって焦げた肉色  適切な時に炸裂するのは  あみめぐらした涙腺のすべて  言葉がとりこぼしたものを  身体が絶えまなく拾う  不随意に動く腸壁  神経が明滅している  わずかな材料でまかなう  はりぼてについだはりぼて  多くても二本の腕から  あばれ出す骨を偲んだ  そういうの真似して人間  耳たぶは忘れていないね  首の回転は止めてね  飛ばさずにボタンを掛けたら  爪先は靴底におさめて  肩から玄関を押し開け  猫目の友達が来ている  夜には光ってしまうよ  と  たしなめかけた唇を結ぶ  にこりと互いに歯を剥き  顔面筋の確認  それぞれ行き先が違うね  いずれは刈り取ってくれるよ  架空の手のひらを打ち合い  ぱちんと無音の約束  お互い健闘を祈るね  煮たり焼いたりされませんように  煮たり焼いたりさせませんように  ここに人間がいますよって  崩れながらでも歩くの * (書いた日:20140718) (朗読した日:20230320) (YouTube: 2023くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=ej8yWgbmWSs

          たしなみ /詩

          たしなみ /詩

          花参り /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 花参り  東の空が薄墨の色だ  ごごんごごんと雲は流れ  もうじき青くなるだろう  水底みたいになるだろう  真白い骨がうずまっている  ガラスの棒をからから回す  薄ら甘い飲み物を  かぶとむしにあげるみたいに  泣き出したあすの夕方のために  あらぬ  ほうを  見ているね  風をはらんだブラウスが  くらげのようにふくらんで  川べりの石がとても  熱い  瞳のおもての薄膜を灼いて  唇を舐めたすぐから乾く  あせだくの腕を滑らせて  わらう  きらきらきらきらきらきらしている  みずすましの輪がゆがんでく  わたしたち  なにも  変わらない  同じものからできている  粉々になった砂のかけらが  丁寧に息を吸っている  かたちてばなしたものたちが  あなたの産毛を揺らすだろう  花々に  首まで浸かる  まぼろしの舟を流しにゆくよ  まるで人間のような手つきで  肩甲骨のあいだを辿り  不細工な産まれ方をした  なだらかな血肉はここに  いとしごの髪をかき回す  この風がやがて背骨を削る  お参りにゆく  何度でもゆく  あかるい時間に逢いにゆく  もしもやり方を違えたら  その時はどうか笑ってやって * (書いた日:20140617) (朗読した日:20240420) (YouTube: 2023年くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=VFgn_vR4qMw

          花参り /詩

          花参り /詩

          まじない /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) まじない  雨と雨との合間を縫って  歩幅を小さくして走る  もう六十歩先にある  きれいな裂け目が深度を増して  上がってゆく水位を示す  潰れた岩場の奥底で  ごぼごぼと水が沸いている  破片が喉の上蓋を突いて  口からだらだら流れ出る際に  なりそこないの文字たちが  しらしらと鳴って踊り出す  初めて息を吐く落涙  とうにかすんだ灰の街  振り返り高く高く上げた  てのひらは四つ股に裂けた  またがった馬はとうに死んでいた  握り込んでいたたてがみを放す  減速しながらひとつ、ふたつ、  みつよついつつと順番に  肉のかけらが崩れていった  視界をさえぎる大粒の  ざんざんと殴るあれら雨音、  だとばかり思っていたね  うそだろう  あれは大腿四頭筋  あれは伸びきった腸腰筋  ちぎれた後輪(あとわ)はわからない  大事なところで目を瞑る  おわかれです、と 呪文を込めて  はなれがたい、と 告げたので  投げ飛ばされた体のぶわり  内臓が浮き上がるの  わかる  (景色が後ろへ飛んでゆく)  おびえる指先が冷たい  ねえ骨までばれている、よ  おそろしいものが、いななく  だれにも見せないあなたやわたしの  肺の  底を  震わせている  痺れのもとへと繋がっている  ほそいほそい、神経糸  ぎゅうぎゅうに縮こまっている  しなやかなその両腕を、伸ばせ  わたりの広い土地まではすぐです  振り下ろす際は目をあけていて  行ってしまうひづめを送る  風切りの左肩を鳴らし  骨盤から立ち上がる植物  まばたきにつれて散らばる羽毛  ひらくたびいきものが産まれ  いまは亡きひとびとと混ざり  咆哮することを慎み  喰らいつく牙はまるめて  やわらかくむきだしたはらわた  あおむけに流れ出す青空  足指の付け根の発熱  いろどりをなつかしむしらなみ  やがて打ち寄せる潮騒  山に産まれ落ちた子供が  海へ還りゆく道筋  胎内に眠れるくじらの  血管を透かした薄桃  あらゆるかいがらにつうずる  ひとさしゆびからのまじない  ふるさとをおなじくするもの  よみがえりつづけるおどりば * (書いた日:20140516) (朗読した日:20240420) (YouTube: 2023年くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=m65O_Y_I5lo

          まじない /詩

          まじない /詩

          蝉 /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 蝉  蝉の羽音が空気を満たし  酸素をこまかくこまかく裂いて  耳から頭の継ぎ目へ回る  私を人のかたちに保つ  結び目の糸がほつれ出す  ばらばらが満ちた温泉みたいな  それはきっと地獄にもあった  わたしたちがプールされていた  ふるさとのことを思う  歩き回って片割れを探す  川面にそよぐ柳のような  頼りないものときょうだいを契る  まぶしさに目を細めたら  光の色がわかるだろうか  刈り取り草の匂いに泣いて  高いところを横切った  燕の尻尾がこめかみを穿つ  黄昏時に染み出した  橙色が内耳を溶かす  思い出せない遠い昔の  ふるえが心臓に残る  あまりにもきれいなものばかり  擁しているからここはさみしい * (書いた日:20130807) (朗読した日:20240420) (YouTube: こちらは2023年くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=D3b8OqifGss

          泥沼 /詩

          (文字でも音声でも、見やすい/聞きやすいほうでどうぞ) (内容はどちらも同じです) 泥沼  凶暴性とか暴力性とかぎらぎら目を見開いたまま笑う  凄みのようなあなたに備わる機能の一部が  脱水の波が引くにつれ徐々に水面に上がり  後ろの足へ手を伸ばす  いろんなものを少しずつ  寄せ集めては継いで出来た  泥人形は肉を喰うって  小学校の図書室で読んだ  けものでもあり植物でもあり虫のようでもあるあなた  水と土とをこね合わせ  炎で焼いて命を継いだ  ざらついた音が耳を潰して  なんだか形がわからない  あなたは喰らいつきもしない  どうしてか今日も喉笛は無事 * (書いた日:20130611) (朗読した日:20240320) (YouTube: こちらは2023年くらいの朗読 https://www.youtube.com/watch?v=Zu6KA9BjBcM

          泥沼 /詩

          泥沼 /詩