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安心 【あ_50音】

【安心】安心(あんじん、あんしん)とは気掛かりな事が無く、心が落ち着き安んじることである。本来は「あんじん」と読むが、江戸期より「あんしん」と読むようになった。(出典:wikipedia)

「ここならとりあえず安心ね」
夏特有のスコールのような雨から逃げ込んだ公園内の東屋の中、濡れた前髪を気にしながら彼女が言った。

映画を観終わった後「少し歩こうか」と近くの公園を歩いていたところだった。夕方に差し掛かり、映画館を出たときには少し冷たい風が吹いていたからちょうどいいと思ったのだ。

なぜ映画を観て公園を歩こうとしたのか。
ハッピーエンドであれば高まった気持ちのまま飲みに行くように、救いのないエンディングであればカフェに行って気持ちを落ち着けるように、観終わった後の選択肢はいくつかある。

けど観終わったあと歩くことしか選択肢がない映画もあるのだ。今日観た映画はそんな映画だった。

「なかなかシンプルではなかったわね」
シンプル?そう聞き返そうとして、さっきの映画のことだと理解した。
「難しいな。しばらく感想が出てきそうにないね」

「そういえばさ」
しばらくの沈黙のあと彼女が口を開いた。

安心と言えばさ、くるりの『ばらの花』ってゆう歌があるじゃない?」
「ああ。うん。昔よく聴いてた」
僕はサビの箇所を口ずさむ。
「そうそこ。『安心な僕らは旅に出ようぜ』って部分。あれってどういう意味かしら?」
「どういう意味?」
「“安心な僕ら”ってことは“不安な僕ら”もあるわけじゃない?安心な僕らが旅に出るなら、不安な僕らは何をしているんだろうね。そもそも旅って結構不安ばかりじゃない?」

彼女は雨を見ながらそこまで言い終わると僕の顔を見上げた。まだ乾かない前髪を見ながら僕は「たしかに」と相槌を打って視線を雨に向ける。

「たぶんさ」と彼女の問いに対して明確な答えを用意できないまま口を開いた。
安心な関係があれば、不安なことも一緒にできるってことなんじゃないかな。それで不安なことを一緒に乗り越えればもっと安心できるってことなのでは。うまく言えないけど」

「ふぅん。つまり安心したいってことなの?」
「僕が?」
「違うわよ」彼女は笑う。
「歌詞のことよ。歌詞の主人公のこと」
「あぁ。うん。そうだと思う」
「なるほどね」

気付けば雨はだいぶ弱くなり、夕陽に照らされたコンクリートが紅く染まっていた。

「飲みに行こうか」と僕は切り出す。
「うん。そうしよう」
「雨が止んだら」
「雨が止んだら」

雨が降ったら雨宿りすればいい。
雨がやんで晴れたなら思い切り走りだせばいい。
そんな日々だ。そんな繰り返しだ。

くるりは“安心して旅に出た僕ら”のあとについて、こう続けているのだから。

思い切り泣いたり笑ったりしようぜ

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