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【読書メモ】なぜ今「若手社員の育成」が重要なのか(田中聡著):『活躍する若手社員をどう育てるか:研究データからみる職場学習の未来』[第1章]

日本企業では、二十代の若手社員の育成に焦点が当たるようになってきました。その背景には何があるのでしょうか。立教でいつもお世話になっている田中先生が若手社員育成の重要性について解説されている論考を紐解いてみました。

編著者でいらっしゃる山内先生が「はじめに」でも触れられているように、日本企業では、新入社員研修とそれに続く3年目までのフォロー研修の後は、管理職になるまでほとんど教育機会がありません。ここでの教育機会については、研修だけではなく職場での育成も含めて十分でないと感じます。

海外では、企業が全員を対象として提供する研修は多くなくても、マネジャーがメンバーを育成することに対するコミットメントが強く職務アサインメントを通じた育成が機能していますが、日本企業では職場での育成が十分ではありません。この機能不全にスコープが当たってきたのは、若手社員の育成の重要性が増大しているためでしょう。

では、なぜ若手社員の育成が求められるのでしょうか。早い段階から活躍できる人材が求められる背景について、著者は①社会からの視点、②企業からの視点、③個人からの視点、という三つに分けて解説されています。

①社会(労働市場)からの視点

一つ目は、労働力不足の問題です。景気変動に伴う一時的なものということではなく、日本の労働市場では恒常的に労働力が不足している状況にあり、何らかの政治判断がなされない限り、悪化することはあっても改善することは見込みづらい状況です。そのため、若手社員をひとまとめにして長期的に育成するという余裕がなくなり、早い段階で活躍することが求められているのです。

②企業(経営)からの視点

二つ目は、若手社員の持つ新しい発想や最新の知識・スキルに関するものです。ドラッカーを持ち出すまでもなく、知識が企業経営に求められる度合いは高まっており、既存の知識・スキルだけではイノベーションが起きづらい状況です。経営陣が若手社員からコーチングを受けるという取り組みをしている企業も話題になっていますが、若手社員の持つ既存の枠組みにとらわれない新しい発想や知識が企業にとって有用なものと位置付けられていると言えるのでしょう。

③個人からの視点

2000年代前半に流布した成果主義に基づく人事制度の運用の開始に伴い、働く社員は企業は長期的に雇用を保障してくれないというメッセージとして受け取ったといえます。このメッセージは、当時の社員だけではなく、メディア報道等を見たより若い世代にも伝わっています。その結果、若手社員にとっても特定の企業に働き続けるという意識というよりも、自分自身のジョブ・セキュリティを求めて早く活躍できる人材としてエンプロイヤビリティを高めたいという動因が働いているといえます。

若手社員育成の研究動向

こうした若手社員育成を取り巻く特徴を鑑みて、昨今の研究の動向としては、組織が若手社員の社会化を促すアプローチ(組織社会化戦術)というよりも、若手社員が主体的な学習のプロセスとして捉える研究が増えてきていると著者はされています。

主体的な学習の具体的な一つとして経験学習が位置付けられています。集合研修の冒頭や最後に、現場での職務アサインメントを重視して、CCLの「経験:フィードバック:研修=70:20:10」を述べることが最近では増えてきたことも、経験学習への着目の一つと言えるのかもしれません。


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