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【読書メモ】仕事からどう学ぶのか(池尻良平著):『活躍する若手社員をどう育てるか:研究データからみる職場学習の未来』[第5章]

「学ぶ」という言葉は「まなぶ」とも「まねぶ」とも読むことができ、学習には真似る要素があるという示唆に富んだ書き出しから始まる本章では、若手社員が上司や先輩からいかに学ぶ(まなぶ・まねぶ)かに焦点が当たっています。鍵となる概念は思考のモデリング経験学習です。

思考のモデリングとは

思考のモデリングという言葉は、実務ではなかなか目にしない概念ですが、「職場における上司や先輩の仕事中の考え方や工夫に関する方略を新人が観察して学び、仕事の概念モデルを形成すること」(98頁)と定義されています。ロールモデルを観察して自分自身に取り込むというような意味合いと捉えれば大丈夫でしょう。

本章での調査の結果として、思考のモデリング経験学習を一部媒介して能力向上に影響を与えることが明らかになっています。なお、下図は、本章の大元となっている論文である池尻ほか(2021)から引用しています。

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著者は、調査結果を踏まえて、職場で活躍する若手社員をいかに育成するかについての方法を三つ具体的に提案されています。実務面で大変参考になる指摘なので以下で簡単に取り上げてみます。

①上司・先輩の思考を可視化する

思考のモデリングをしてみましょう=優秀な人を観察して真似てみましょう、と若手社員に言ってもできるわけではありません。そこでどのように思考のモデリングをするか、すなわち上司・先輩の思考を可視化することが鍵となり、著者は二つの具体的提案をされています。

一つ目は思考発話法というもので、上司や先輩が職務行動を行っている際に、何を考えているかを言葉にしてもらうという提案です。また二つ目のものとして、業務において対象としている課題と、その解決に関する思考を文字化してもらうというものもあります。どちらについても、コロナ禍によって物理的な観察が難しい現代の職場において、さらにその重要性は増している貴重な提案と言えます。

②行動の裏にある理由のコミュニケーションを促す

できる人の仕事のスピードは速いものです。若手社員にとっては神業とまで言えるレベルかもしれません。そのため、一つひとつの行動の背景にある「なぜ」「何のために」といった理由や背景に関する内容をやりとりすることは有益と言えるでしょう。

③思考の軌跡が残るものを若手社員に残す

啐啄同時のように、若手社員自身が課題意識を持ったまさにそのタイミングが最も効果的な学習機会です。そのため、若手社員が自身のタイミングでアクセスできるように、上司・先輩社員が自身の職務行動における思考の軌跡を残しておくことも有用です。そうすれば、若手社員が自らの興味・関心に則って自由に学ぶことができます。


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