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【読書メモ】なぜ日本企業のシニア社員の縮小的ジョブ・クラフティングに着目するのか?:『シニアと職場をつなぐ:ジョブ・クラフティングの実践』(岸田泰則著)

岸田さんの博論が書籍化された『シニアと職場をつなぐ:ジョブ・クラフティングの実践』の第二弾として、第4章の調査デザインをみていきます。ちょっとマニアックな書き方になるのですが、博論では複数の査読論文を束ねて一つの論文として書き切るというプロセスを経ることになります。このプロセスの全体像をトップダウン的に描くものが調査デザインなので、著者の問題意識から全体設計へと落とし込むこの章もとても勉強になりました。博論を書く時に何度も読み返すことになりそうです。

ジョブ・クラフティングへの着目

シニア社員は、それまでの職務とは異なるアサインメントを受けたり職務の範囲が変化したりするケースが多いと言えます。こうした状況においては、過去の経験を新しい職務に活かすためのプロセスが求められます。したがって、仕事を客観的なものとして捉えるというよりも、生成的なものとして認識して経験の変化を捉えるWrzesniewski & Dutton(2001)系のオリジナル派のジョブ・クラフティングを理論のベースとして捉えます。

「縮小的」への着目

次に、「縮小的」に着目している点としては、ポストオフをはじめとした人事施策が日本企業では多く実施されるため、多くのシニア社員にとっては職務範囲や役割責任の縮小が現実的には多いと言えます。

しかし、ジョブ・クラフティングの既存研究では、オリジナル派もJD-R派も、職務を拡張するものとしてのジョブ・クラフティング研究が多い状況です。そのため、縮小的ジョブ・クラフティングという概念はあるもののネガティヴなアウトカムが指摘されるものが多いと著者は総括しています。

シニア雇用社員への着目

先行研究を行った方はお分かりかと思いますが、ジョブ・クラフティング研究のほとんどは海外のものです。職務というものを社会構築主義的に捉えれば、社会との相互作用も生じるものと考えられます。

したがって、日本企業におけるシニア雇用という環境においては、既存の日本以外の研究知見がそのまま生きるとは限りません。そこで、著者は、日本におけるシニア社員の縮小的ジョブ・クラフティングに着目したと言えます。

定性研究を選択した背景

オリジナル派のジョブ・クラフティングをベースに置いているため、研究手法は定性的アプローチを取られているのも納得的です。具体的にはM-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)を用いているようなので、この後の章における調査内容と結果もたのしみです。


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