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【読書メモ】ジョブ・クラフティングって何?と思った時に読みたい入門書の決定版!

東京都立大学大学院の高尾義明教授から新著をご恵贈賜り、拝読させていただきました。高尾先生、どうもありがとうございます!ジョブ・クラフティングという概念の意味、個人や企業組織にとってどのような価値があるのか、について前提知識ゼロから学べます。ジョブ・クラフティングの入門書の決定版と言えるものなので、ご関心のある方はぜひお読みになってみてください。

ジョブ・クラフティング=仕事に自分をひと匙入れる

高尾先生は、WrzesniewskiとDuttonの2001年の論文を引きながら、ジョブ・クラフティングの定義を「個人が自らの仕事のタスク(業務)境界もしくは関係的境界においてなす物理的及び認知的変化」(15頁)としています。

つまり、ジョブ・クラフティングは、組織から言われたからではなく、自発的な工夫によるものです。①業務の次元(業務の内容や方法などの変化)、②関係性の次元(人との関係性の質や量の変化)、③認知の次元(仕事に関わるものの見方の変化)という三つの形式で捉えられます。

こうした堅い定義よりも、「自分をひと匙入れる」という一田憲子氏の喩えを引用された以下の文章の方が、ジョブ・クラフティングをよりイメージしやすいのではないでしょうか。

 職人のように高いスキルを持っていなかったり、マニュアルにしっかり従わないといけないといった制約が厳しい仕事でも、自分のひと匙を入れることなら考えてみることができるのではないでしょうか。
 そのひと匙は、他の人にはまったく気づかれないかもしれませんし、事情に通じた人だけに伝わるものかもしれません。それでも課せられた業務そのものはしっかりと遂行しつつ自分のひと匙を入れ、自分の持ち味を活かすことで、働きがいを自ら高めることができれば、それは試してみる価値があるように思います。こうした自分起点の、仕事への働きかけがジョブ・クラフティングです。(14頁)

ジョブ・クラフティングの妙味をぜひ味わっていただきたく、少々長い分量ですがそのまま引用しました。

個人の視点から捉えるジョブ・クラフティング入門

私の以前のnoteを読まれた奇特な方がおられたら、「あれ、以前もジョブ・クラフティングの入門書はこれだ!」と書いていたようなと訝しむかもしれません(おそらくいないでしょうが)。たしかに、以下の書籍をレビューした際にそのようなことを書きましたが、本書と以下の書籍ではジョブ・クラフティングを描く視点が異なります

まず、最初に読んだほうが良いのは高尾先生の本書です。というのも本書は、働く個人の視点でジョブ・クラフティングを捉えているからです。個人にとって、どのような行動があり、どのようなメリットがあり、その結果として企業にとってどのような価値提供ができるのか、という視点で書かれています。

本書では、個人の言動を冒頭で述べた①〜③の三つの形式に基づいて詳細に説明されているので、やや冗長に感じるかもしれません。というのも、ある言動を①〜③に峻別するのは難しく、Aの観点からは①だけどBの観点からは③とも捉えられる、ということが多いからです。

私もインタビューデータを基にジョブ・クラフティングを捉えようとする際に同じ苦労(と書いたら失礼ですが。。)を感じるのでよくわかります。研究者見習いの私からすると「すごく丁寧に解説されているな」と感じますが、人事実務の方からすると「曖昧だなぁ」と思われるかもしれません。

そうであったとして、個人の視点でジョブ・クラフティングを捉えるためにも本書から読んだ方が本質を理解しやすいです。なぜなら、ジョブ・クラフティングは仕事に自分をひと匙入れるという個人起点のものだからです。個人の視点を充分に持った上で、企業組織の目線でどのようにジョブ・クラフティングを活用するのかについて、『人事のためのジョブ・クラフティング入門』で捉え直すのが良いのかなと感じます。

縮小的ジョブ・クラフティング

「ひと匙入れる」という表現から、ジョブ・クラフティングは目の前の仕事に何かを加えるものだと思うかもしれません。何かを足すという拡張的ジョブ・クラフティングが先行研究では多いですが、意図的に仕事の範囲や人間関係を狭くするという縮小的ジョブ・クラフティングもあります。

縮小的ジョブ・クラフティングは、たとえば高齢雇用者が新しい業務に再雇用した際をイメージすれば良いでしょう。つい先日にFBであげた、石山研究室・博士課程ご出身の岸田泰則さんの博士課程論文「高齢雇用者の縮小的ジョブクラフティングの解明-大企業に勤務する再雇用者に着目して-」でも感銘を受けましたが、縮小的ジョブ・クラフティングは、現代的な課題で検討できる興味深いものと言えるかもしれません。

石山研究室で博士号を取得された岸田さんの博論「高齢雇用者の縮小的ジョブクラフティングの解明-大企業に勤務する再雇用者に着目して-」のご発表がすごく面白かったです!画面スクショのSNS掲載のOKをいただいたので、学びになった部分をまとめてみま...

Posted by Takao Shiokawa on Saturday, November 20, 2021

ジョブ・クラフティングについてはnoteで多くの論文をまとめてきました。他の概念を優先的に調べる必要性があったのでしばらく読んでいなかったのですが、久しぶりに読むと興味深いなぁと感じました。


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