【読書メモ】人生100年時代のミドル以降のキャリア論:『ミドル&シニアのキャリア発達』(三輪卓己著)
三輪先生(桃山学院大学)のキャリア関連の書籍は、キャリア論を学ぶ身としては大変ありがたい存在です。というのも、先行研究のまとめがすごく参考になるのです。バウンダリーレス・キャリア(Arthur & Rousseau)、プロティアン・キャリア(Hall)、Work Identity(Ibarra)、プランド・ハプンスタンス論(Krumboltz)が整理されており、「おー、こういう風に位置付けるのね!」と感心することしきりでした。マニアックなことはここまでにして、以下では本書のポイントをまとめます。
ミドル期以降のキャリア論
少し前まで、転職市場では35歳限界説というものがまことしやかに言われていました。35歳以降は「売れない」とされていたわけです。ただ、さまざまな変化に対応しなくてはいけない年代は35歳以降だったりしますし、本書に登場する18名のインタビュイーの多くはミドル期以降に転職しています。ついでにいえば、私も35歳・36歳・37歳で転職を経験しています(頻度が多すぎですが。。)が、特に年齢の部分が問題になったとは思えません。
ではミドル・シニア層におけるキャリア発達におけるポイントとして何が挙げられるのでしょうか。
ミドル期のキャリア発達
本書では知識労働者のミドル期を対象としています。知識労働者の場合には、職務の中で価値を提供していくためには専門性と創造性をどのように身につけるかが鍵となります。これをキャリアの文脈に落とし込むと、自らを高め続け、積極的に学び続けることが大事であると著者はしています。
具体的には、インタビュー調査から以下の7つの特徴的なポイントを明らかにしています。
キャリアの初期の段階で新規事業開発や新会社設立などの不確実性の高い仕事に従事していること
理論的、体系的な知識を学んでいること
学ぶ習慣が身についていて、学び直しをすることに抵抗が少ないこと
直近の職務に大きな問題ない状況でも、自身を批判的に見られること
若い頃の試行錯誤により、レジリエンスや柔軟性を持っていること
新しいことに挑戦する際に過去の業務で学んだことを活かしていること
市場価値が非常に高い専門性を持つことでキャリアを自由に選択している
企業による異動管理の限界
小池理論における知的熟練を目指す組織内でのキャリア形成では、経験の幅を広げることで企業で求められる能力形成が図られました。一つの組織の中でキャリア発達することが合理的な状況においては適合的な施策であったと言えますし、現代においても適用できる領域はゼロではないでしょう。
知的熟練には長い時間がかかるため、いわゆる遅い選抜が企業における人事管理では求められました。遅い選抜の結果として、日本企業では三層構造での選抜システムを取ってきました。
本書での発見事実のポイントの一つとして、専門性の獲得が長期化するキャリアをすすめるための鍵となることが挙げられていました。何を専門性として磨くのかは働く個人が決めるべきものであり、企業は面倒を見てくれません。したがって、キャリアのオーナーシップを企業に委ねることの危険性を三輪先生は指摘していると捉えるべきでしょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?