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【読書メモ】企業における人材開発・組織開発の役割:『人材開発・組織開発コンサルティング―人と組織の「課題解決」入門』(中原淳著)第1章

本書は、立教LDCの一年次の授業をベースにして中原先生が書かれたものです。私はその授業を約三年前に受講しています。興味深く受講し、多くのことを学んだ授業なのですが、「あれ、こんなこと中原先生おっしゃってたっけ?」ということが多く、人間がいかに忘却するのかに愕然とします。他方で、中原先生は「同じ授業を繰り返さない」という趣旨のご発言をブログでよく発信されているので、きっとアップデートされた内容が本書には多く含まれているのでしょう。企業人事やコンサルタントの立場で、人材開発・組織開発に携わっていらっしゃる学習意欲の高い全ての方々にオススメの一冊です。

人材開発と組織開発

本書のタイトルは「人材開発・組織開発コンサルティング」です。人材開発と組織開発とを統合して現場へのコンサルティングという働きかけを行うという意味合いから以下のように定義されています。

「人材開発・組織開発の科学知・臨床知を学び続ける人々が、その専門性を発揮しつつ、クライアント組織の戦略実現のために、クライアントに寄り添いながら、クライアントが自らの抱える人材課題・組織課題の課題解決を行えるように、支援していくこと」

p.27

両者をかけ合わせることは重要ですし、峻別することは現実的に難しくもあります。たとえば、私は二年前に、当時の部署で、エンゲージメント・サーベイの結果を部内で共有して対話するセッションを複数回行い、そこで合意された打ち手としてキャリア対話会というワークショップを共同でファシリテーションしました。この一連の施策は、人材開発の要素もあれば、組織開発の要素もあります。分けることに意味があるというよりも、組織開発と人材開発の双方の視点から人と組織の課題に当たるということが大事なのではないでしょうか。

実際、別の箇所で中原先生は「「よき組織開発は、人材開発とともにある」「よき人材開発は、組織開発とともにある」」(kindle p.51)と書かれています。当時の自部署の取り組みが良かったかどうかの評価はさておき、両者を統合した取り組みが現実的だと思います。

異なる立場の間での対話にも活きる

本書は、企業の人事部門で働く方にも、コンサルタントとして働く方にも役立つ書籍になるように編まれています。人材開発・組織開発が経営と人に資するアプローチであるため、企業や組織によって異なる文脈の中で私たちは取り組むことになります。したがって、同じ人材開発や組織開発という言葉を使っても、ともするとその詳細な取り組み内容やプロセスがお互いに理解し合えないという状況になりがちです。

先に引用した定義に基づきながら、人材開発・組織開発コンサルティングが求められる背景や内容、どのような貢献があり得るのかといった点について第1章では触れられています。意図的に抽象度を上げられた言葉を共通言語にすることで、異なる企業間でも、人事部門と外部コンサルタントとの間でも相互理解しながら人材開発・組織開発に取り組めるようになるのではないでしょうか。

大事なのはコンテントよりも対話!?

最後に、いささか開き直ったことを書きます。冒頭で、いかに私が授業の内容の多くを忘れたかについて書きました。が、他方で今でも印象深く残っているものは、中原先生からの問いやいただいた課題に対応するために同期と対話して感じ取ったことです。特に痛感したものについてはよく覚えていますし、今の仕事や研究に活きています。

内容を粛々と学び続けることはもちろん大事です。本書のベースになっている「人材開発・組織開発論I」を受けた際、私は、社会構成主義についてアウトプットするために、社会構成(構築)主義に関する書籍はもとより、そこに影響を与えたと考えられる社会学や哲学領域の文献もひたすら読みました。ただ、そうしたベースを積み上げた上で、同期と対話したり、学外の方々と対話したことが、当時のアウトプットを良いものにすることに繋がり、現在の私の大事な思考の枠組みとしても活きています。

記憶に難があるという事実から目を逸らすために(?)、すごくきれいに書いてしまいましたが、要は対話が大事ということです。立教や、他の大学院で人材開発・組織開発について対話できる環境にある方々は、学校を最大限に活用すれば良いでしょう。そうでない方々は、本書をもとに読書会で深めると実践知につながるのではないでしょうか。ちなみにですが、中原先生のブログでも本書を基にしたオンライン読書会のご案内があったので、以下に貼っておきます。


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