【読書メモ】新規事業という究極的なタフ・アサインメントでこそ経営人材は育成される!:『経営人材育成論』(田中聡著)
立教の修士時代にお世話になった田中聡先生の『経営人材育成論』を読み直しています。前回は研究目的で読んだのですが、今回は実務目的で読み直したくなりました。サクセッション・プランニングやタレント・マネジメントなどの観点で、将来の経営人材の育成に関心がある経営や人事の方にとっておすすめの一冊です。
マネジャー育成と経営人材育成の違い
サクセッション・プランニングの文脈では、リーダーシップ・パイプラインに基づいたシームレスな育成・開発が外資系企業を中心に行われています。ただ、なかなかうまくいかないケースも多々あるようです(中にいた身として、よくわかります)。
課題の一つは、マネジャーと経営人材との相違を踏まえていない点です。よく教育業界で引用されるCCLの「7(経験):2(薫陶):1(教育)」における現場での7が大事だ!と言ってタフ・アサインメントとしての経験付与を現場に任せて行いがちです。
7(経験)に着目する点は正しいのでしょうし、タフ・アサインメントによる育成も必要なのでしょう。ただ、その内容は異なるはずです。著者は、三品先生の『戦略不全の論理』(名著です!)を引いて、マネジャーと経営人材に求められる役割の相違を以下のように述べています。
マネジャー育成においては、複雑性に対処するために必要なリソース・マネジメントができるようにマネジャーを事前の段階から育成することになります。それに合わせた職務やプロマネの経験付与が行われます。しかし、経営人材には不確実性に対処することが求められるため、マネジャーに求められる経験付与とは異なる質のものがあるということが考えられます。
リーダーシップ・パイプライン
マネジャーと経営人材とで求められる役割が異なることを踏まえた上で、改めてリーダーシップ・パイプラインです。ラム・チャランが提唱したこのモデル図は、後継者管理(サクセッション・プランニング)をゴリゴリ進めている外資の人事であればよくご存知だと思います。
著者は、リーダーシップ・パイプライン・モデルに関する様々な論考を整理して、ミドル・マネジャーから経営人材への役割移行に伴う学習を以下の三つに整理しています。全てp.44-45の引用です。
ビジョナリー思考へのシフト
経営人材には戦略的思考だけでなく、企業の未来を洞察し、ビジョンを掲げて、企業をリードするビジョナリー思考戦略的意思決定力の獲得
経営人材には、全社を俯瞰し、中長期的な視野で会社の現状と未来を捉え、リスクを恐れず、最適な意思決定と投資判断を行う意思決定能力他者影響力の獲得
ビジョンの実現に向けて、社員や外部関係者を含めた多様な他者を巻き込む「他者影響力」
経営人材を育成する新規事業創出経験
職務経験を通じて人が育成されるということは以前から言われていました。日本企業では製造業を中心にしてOJTによる現場での育成がメインだったことは肌感覚的にもご存知かと思います。製造現場でも、営業現場でも、研究開発の現場でも、良質な職務経験があり自然とOJTで育っていた状態は様変わりしました。
それは、経営人材の育成という点でも同様か、あるいはさらに難しい状況です。育成できる機会が減ってきています。本書では、新規事業創出機会こそが経営人材を育成する究極的なタフ・アサインメントとして、注目して論述されています。
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