見出し画像

【読書メモ】キャリアを確立できる実践共同体の環境デザインとは?(6/9):荒木淳子著『企業で働く個人の主体的なキャリア形成を支える学習環境』(第5章)

第4章では、実践共同体に参加することが働く個人のキャリア確立を促し、その結果として内省が引き出されるということが明らかになりました。それを承けて、本章では、どのような実践共同体がキャリア確立を効果的に促すのかがインタビュー調査によって考察されます。つまり、実践共同体のデザインのあり方という実践的な示唆が提示されている章です。

ウェンガーを引きながら、実践共同体を構成する要素として①領域、②コミュニティ、③実践の三つがあると著者はしています。その上で、「メンバーが興味・関心を共有する領域を持ち、背景や考え方の異なる多様なメンバーが非成果志向の緩やかな活動に取り組む実践共同体」(196頁)が参加する働く個人のキャリア確立を促すと結論付け、以下の三つのポイントを提示しています。

①職場を越境する多様なメンバーから構成する

キャリア確立を高いレベルで為された実践共同体のほとんどが、職場を単位とするものではなく、異なる職場や企業の個人が集まるものでした。通常業務で接する職場以外のメンバーと交流することで、自身の職務や組織に対する見方が変容したり、新鮮な気づきを得ることが生じ、キャリア確立が為されたと考えられます。

また、こうした気づきや変容を促すものとして、単なる参加者としてではなく異なる組織間を仲介する役割を担うことが有効であることも明らかとなりました。つまり、参加のあり方において、組織間での学びや交流をつなぐ仲介行為が重要であるというわけです。

②メンバーの多様性が活きるようデザインする

まず、実践共同体の中のメンバーが、仕事の背景や考え方といった点で多様なメンバーから構成されるように配慮することが大事だとされています。この点は直観的にもわかりやすいと思うのですが、こうした属性面での多様性だけではなく、活かし方の多様性が重要であるとしているのが興味深い考察です。

実際、単に属性面で多様であってもキャリア確立があまり促されない実践共同体の存在も明らかになりました。そこで、実践共同体での活動が自身の職場での活動に意味づけられるような内省が促されるようにするなど、多様性を活かす活動をデザインする必要があると言えます。

③コーディネーターを設定する

コーディネーターとは、実践共同体でのイベントを企画・主導しメンバー間を結びつける人々を指します。先行研究では、実践共同体の活動目的・指針・計画を合理的に推進する役割として見做されていました。

しかし、著者は、参加者の実践共同体への多様な参加のあり方や、参加者同士のコミュニケーションを意識して、活動をデザインする役割こそがコーディネーターには求められると結論づけています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?