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【読書メモ】12章 セルフ・コンパッション(有光興記著):『非認知能力』(小塩真司編著)

コンパッション(compassion)とは見返りなく他者を苦しみから救い出そうとする気持ちです。このコンパッションを自身(セルフ)に向けるセルフ・コンパッションは、「失敗や傷ついた経験の後に、自分の感情をバランスよく受け入れ、その経験が他の人たちとも共通していることを認識し、自分に優しい気持ちを向けること」(193〜194頁)と著者はしています。

セルフ・コンパッションの三つの側面

セルフ・コンパッションは、①マインドフルネス(感情や思考をありのままに受け入れる)、②共通の人間性(common humanity:自分以外の人たちの状況を想起し、自分が感じる苦難は他の人にも共通していると認識する)、③自分への優しさ(self-kindness:失敗で傷つく自分を受け入れるとともにそれを糧として前に向かっていこうという励まし)、という三つからなる心の持ちようです。

セルフ・コンパッションの基礎研究

コンパッションは、仏教の基本的概念としても使われているそうです。アメリカの心理学者ネフは、仏教寺院での瞑想体験から、自分自身のコンパッションを向けるセルフ・コンパッションについての尺度を作成し、さまざまな指標との関係性を検討しました。

その結果、セルフ・コンパッションは、不安や抑うつ、自己批判傾向、完璧主義傾向とはネガティヴな相関関係があり、他方で自尊感情や人生満足感とはポジティヴな相関関係があることを明らかにしました。

また、学業成績との相関関係はないようですが、内発的動機付けを高めることは明らかになりました。そのため、内発的動機付けを高めることで学業成績の向上に間接的に影響していることが推察されます。

近しい概念との相違

セルフ・コンパッションと混同しやすい近しい概念との相違も本章では触れられています。

まず、自尊感情との相違についてです。自尊感情は、11章でも触れた通り、自分や他者による自分に対する評価に依存するものであり認識が上下します。他方でセルフ・コンパッションは、たとえ困難な状況であ多々としても自他の評価や結果に依存しないために上下動するものではありません。

次に、自己愛についてみていきます。自己愛は、根拠のない自信に基づいて自分を時に誇大評価する特性を持ちます。それに対して、セルフ・コンパッションは今現在の自分自身をありのままに受け入れて優しい気持ちを自分に向けるものです。

セルフ・コンパッションは開発可能

セルフ・コンパッションは、トレーニングを行うことで向上させることが可能です。13章で扱うマインドフルネスとも関連しますが、たとえばマインドフル・セルフ・コンパッションというプログラムがあります。

このプログラムでは八週間にわたってマインドフルネス瞑想や慈悲の瞑想を行うことでセルフ・コンパッションを高めるようです。


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