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【読書メモ】『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(古屋星斗著)〜後編〜

先日は前編と称して、古屋星斗さんの好著『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』について、現代の日本企業における若手社員およびその取り巻く環境要因についての鋭い考察を中心に見てみました。後編では、キャリア安全性という若手社員を理解するためのキーワードをみていきながら、実践の場面での示唆深い点についてまとめていきます。

前回のおさらい

前回は、Z世代の多様性ロールモデル不在の問題キャリア自律への対応、といった興味深いイシューについて見ていきました。ご関心のある方は以下をご笑覧ください。

キャリア安全性

若手社員のキャリア自律に有効なものとして、著者が提示している概念がキャリア安全性です。この概念は、①時間視座、②市場視座、③比較視座という三つの項目から測定されるもので、多角的な視点から見て自身がキャリアを開発する上で感じる安全感を示すものです。言い方を変えれば、自分自身の今後のキャリアが安全であると人が感じられるためには、多様で幅広い捉え方をしているということが言えそうです。

このキャリア安全性はワーク・エンゲージメントと相関関係があるものの、同様にワーク・エンゲージメントに効くとされている心理的安全性とは相関関係が見出せないという点です。つまり、心理的安全性を高める施策を打つとワーク・エンゲージメントには効果があるものの、キャリア安全性には影響しません。そのため、心理的安全性を高める施策とともに、キャリア安全性を高める施策を打たない限り、若手社員の離職意思の低下にはつながらず、早期離職に手を打つことにはならない、というわけですね。なかなか難しいものです。

キャリア自律を支援する最初の一歩

「キャリア自律しましょう」とか「意思を表明しましょう」などとキャリア自律を取り巻く言説は、やや企業から個人に対してのアナウンスメントが強くなりつつあります。というよりも「強いな」と若手社員が感じる場面が増えてきているようです。というのも、本書でも人事の世界でよく言われる2:6:2で若手社員を分類しているのですが、意思も強くすぐ行動に移すタイプはせいぜい2割で、そうでない人々にはキャリア自律を促しても、「そうはいっても。。。」と二の足を踏む状態だからです。

こうした状態において、「最初の一歩を踏み出してみよう」や「小さな意思表明でもいいよ」といった投げかけはなかなか効果を生まない、という著者の指摘は重たいものがあります。そうではなく若手社員がキャリア自律に向けた行動が取れるような「言い訳」をつくることが重要だとするのです。

具体例として、社外のセミナーに業務指示として受けてもらうといったものを挙げています。これは、一見すると他律的な働きかけと誤解されそうですが、極めて能動的な2割を除いた普通の若手社員には自律のための最初の一歩は他律的でもよく、「会社に言われたから行ってみるか」と参加して気づきを得て自律的な次の一歩につながるという働きかけが大事という点は目から鱗が落ちました。

今の若手社員のロールモデルとは?

マネジャーの過去の経験話は、今の労働環境と全く異なるので今の若手社員の参考にはならず全く響かないので、過去の経験を話すだけではロールモデルにならないことを前回述べました。

ではどのような人が今の若手社員のロールモデルになるのでしょうか。本書では、過去ではなく今の時点で、社内に閉じず社外でも活躍している存在がロールモデルになり得るとしています。VUCAな世の中と言われて久しいわけですが、今の変化に対応し、場合によっては変化を創っているかのような行動を先輩社員とりわけマネジャーが示していくことが求められるようです。


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