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【読書メモ】『ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学』(ティム・インゴルド著)

先日noteで取り上げたインゴルドさんの『人類学とは何か』があまりに良かったのでこちらの書籍を読みました。こちらも石山恒貴先生がFBで紹介されていたものです。金沢21世紀美術館に訪れる前から読み始め、その後に通読し終えました。展覧会に行くための予習としても復習としても良いテクストと感じます。

ラインとブロブ

インゴルドさんのライン(線)を理解するためには、ブロブとの対比で捉えることが重要なようです。そのため、本書の最初の節は「ラインとブロブ」になっています。両者を対比的に記述している以下の箇所がわかりやすいです。

ブロブとラインのそれぞれの特性の組み合わせが、生物を繁栄させているとも言える。ブロブには量感、質量、密度がある。それゆえブロブはわたしたちに物質を与える。ラインはこのいずれも持っていない。ラインにはあって、ブロブにはないもの、それはねじれ、屈曲、活発さである。ラインはわたしたちに生命を与える。生命ははじまるのは、ラインが生え始めて、ブロブだけの状態を脱するときなのである。

p.20-21

対比で捉えるとイメージできるのではないでしょうか。さらに上記の引用箇所のすぐ後でバクテリアを基に著者は例示していて、ブロブが原核細胞でラインは鞭毛に当たるとしています。

終わりのないプロセス

ブロブという静態的なものと、ラインという動態的なものとがセットになることで私たちの生命というものが生まれるという著者の考え方はプロセスへの着目につながります。

精神と生命は終わりのないプロセスなのであり、その一番の特徴は、存続していることである。さらには存続する中で、精神と生命は、ロープの多重の輪のように互いに巻きつく。個々の部分から作り上げられる全体は、あらゆるものが分節され、「連結された」総体である。だが、ロープは絶えず編まれており、いつも制作途中の段階にありーー社会的な生命それ自体のようにーー決して完成されることはない。

p.31-32

「いつも制作途中の段階」であり「決して完成されることはない」というところが興味深い表現です。

相互作用プロセス

こうした終わりのないプロセスは、頭でなんとなく理解できるものの具体的なイメージを持つためにアートがあるのだと思います。インゴルドさんのアプローチを参照した金沢21世紀美術館の展覧会「Lines(ラインズ)—意識を流れに合わせる」では、たとえば以下のような展示物があります。

こちらは大巻伸嗣氏の作品で、奥に見える振り子が盤上を動いていて、日本海のダイナミックな流れを表現したものだそうです。

時間と共に変化する陸地と海の関係は、常に「なりつつある」状態にあり、人間社会が共有する時間の軸とは異なる時間を刻む。大巻は実体を固定的で静的なものとして見るのではなく、関係の網の目の中に取り込まれ、環境との相互作用の中で常に変化しているものとして見るべきと本作で示唆して、量塊とそれを取り巻く環境との間がゆらぎながら変化している「動き」を表している。

配布パンフレットより引用

写真では振り子の動きが伝わらずもったいない感じがしますので、機会があればぜひ作品をご覧になってみてください。

時間と流れ

展覧会からもう一つ取り上げますと、エル・アナツイ氏のパースペクティブズという作品です。

これ、12mも高さがあるのでほんと大きな作品なんです。パンフレットの解説には以下のようにあります。

高さ12メートルに及ぶ本作は、人の手を介して有機的に絡まり合う様子を示し、共有した時間の流れがそのまま織物となって顕現化したものである。

配布パンフレットより引用

書籍とアート作品とが寄り添うことで、私たちが理解したり感得したりすることができるようになるのかもしれません。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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