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【読書メモ】まるっと佐藤郁哉先生の書籍のつまみ食い:『質的データ分析法』『実践フィールドワーク入門』

佐藤郁哉先生といえば暴走族のエスノグラフィーがあまりに有名です。僕も十年以上前に読み、「エスノってすごい研究方法なんだな」と思った記憶があります。ここでは、最近読み返した二冊についてポイントを書き出してみます。

(1)『質的データ分析法』:質的研究法の定番教科書

質的研究法は、現象を基に帰納的に理論を紡ぎ出していくものです。この点は、本書でも頻繁に例示されているグレイザー+ストラウスの『データ対話型理論の発見』を読んだ際に述べたので深入りは避けます。

そのための手法として事例ーコード・マトリックスが紹介されます。事例を行に置き、GTAやM-GTAでコーディングと呼ばれるコードを列に置いた以下のようなチャートです。

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この手法がすごいのは、一言で言えば「木も見て森も見る」を実現できることです。木を見るためには事例を横に追って見ていくことです。つまり、ある事例を具に眺めていくことでプロセスを理解することができます。

他方で、森を見るためにはコードを縦に見ていくことで可能となります。コード、すなわち概念を複数の事例間で当て嵌めていくことでパターンや規則性を引いた視点から把握することができるのです。

(2)『実践フィールドワーク入門』:フィールド調査を俯瞰

多様な質的研究法について、調査先(フィールド)で求められる態度や行動について丁寧に解説がなされています。本書の中でも記載がありますが、読んで覚える類の書籍ではなく、実際にフィールドに入りながら読み返していくと良い実践的な書籍です。

フィールドでのありようも大事ではありますが、本書で指摘されているのは、その前後のプロセスの重要性です。予見を持たずにフィールドに出向くことは全くの論外で、先行研究や調査先の事前理解はもとより、そうして得られた情報・知識を整理した上でフィールドで調査を行うことの重要性が繰り返し強調されています。

こうした調査の前・中・後を含んだプロセスを、問題構造化(問題設定・仮説設定)・データ収集・データ分析を繰り返していく漸次構造化法として説明されている点も重要でしょう。フィールドからの叩き上げ式に理論を構築していく作法についての入門書と言えそうです。


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