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【研究メモ】もし、二十歳の私がいま目の前にいたら、四十歳の私は、①コンサル、②ベンチャー、③大企業のどれを勧めるか?

今年の10月1日は、久々に内定式に出席しました。
ーーといっても、サラリーマンとして勤めている企業ではなく、大学院の調査で大変お世話になっているITベンチャーでのものです。内定式からオブザーブさせていただき、当日の午後から昨日にかけて内定者研修を担当させていただきました。

かつては'06入社から'17入社までの十二年間、内定者・新卒入社者研修を、コンサル側および事業会社側として担当し続けていました。特に'17入社者の際は、採用活動・面接、導入時研修、試用期間フォロー、一年後のフォロー面談までの全てをHRBPとして担当させていただき、やりきった感があったのでもう新卒関連施策からは「卒業」でいいかなと思ってました。

現職に移って以降、つまり'18入社者からは内定者や新入社員への取り組みには一切関わってきませんでしたが、久々に担当してみると面白いものですね。五年のブランクがあったからか、また研究者という一歩引いた視点で取り組んだためか、色々と気づきがあったように感じます。以下からは、研究者という視点で気づいた点をメモ書き的に記します。

内定式とは組織文化が表出される儀式

転職回数が相当に多い人間なので、内資・外資、事業会社・コンサル、大企業・ベンチャー、の何れの軸でも内定式を見てきました。当事者として参画すると、当日を恙なく進行するためのピリピリ感と、内定辞退を防ぐためのヤキモキ感で客観的に見られないものなのですが、第三者として参加すると俯瞰できて気づいたことがあります。

それは、内定式という日本企業固有のイベントには、その企業の組織文化が否応なく現れ、内定者にとっての組織社会化の重要な儀式である、ということです。顕著な違いがあるのは、内定式に誰が参加して誰が発言するか、に集約されるのかもしれません。

説明するためにこむずかしい話を挟みます。以前、坂下先生の『組織シンボリズム論』をまとめた際に述べましたが、組織文化は機能主義的な認識論に基づくものと解釈主義的な認識論に基づくものとに別れます。前者は、トップが客観的に存在する組織文化をマネジするというスタンスをとるのに対して、後者では間主観的に組織文化は生成されるという考え方をとります。

この組織文化の図式が内定式のタイプにきれいに当て嵌まるように感じます。

組織文化を機能主義的な認識論で捉えるタイプの企業では、内定式は厳かな雰囲気で粛々と、きれいに進行し、発言者は社長や人事のトップといった限られた人になります。おそらく、企業のきれいな側面を見せて内定者をリテインしたいのでしょうし、おもてなしの気持ちを出したいのでしょう。実際に離職率は下げられると思いますが、入ってからの現場でのギャップに新入社員が悩むこともままあります。大企業にありがちな内定式です。

他方で、解釈主義的な認識論で組織文化を捉えるタイプの企業では、参加する社員をよりオープンにし、厳粛な中にもアットホームなありのままの姿が現れます。僕が今年参加させていただいた内定式では、職場に出勤している全員が参加していましたし、以前勤めていたITベンチャーでは、内定式後に若手社員との食事会を設けていました(このアレンジと実行がほんと大変でした。笑)。過度に統制することなく、積極的に社員との交流をデザインすることで多くの社員と一緒に組織文化を生成するという姿勢が見えます。

半分社内で半分社外であるという内定者という絶妙なゲストを迎える内定式ほど、組織文化が露骨に出る儀式はあまりないでしょう。内定者にとっての組織社会化戦術の一環として存在する、大変興味深いイニシエーションと言えます。

新卒の超優秀層は大企業ではなくベンチャー志向

第二の気づきは、最近の学生の超優秀層がどういう企業に入社しているかに関する仮説です。

私は、サラリーマンとして、大企業の中での超優秀層を対象とした育成プログラムを担当しています。そのために、「ああ、大企業にはやはり超優秀層がいるのだなぁ」と思っていましたし、これは事実です。しかし、その割合を冷静に考えると、大企業ではごくごく上澄みのレベルのみしか該当しないのかもしれません。

他方、大学院での調査先企業では、内定者研修のほかに、選抜プログラム、若手社員フォロー、新入社員フォローと担当しているためにほぼほぼ全社員を私は理解しているのですが、ベンチャーの方が超優秀層の割合は遥かに高いです。給与レンジや社会的評価は日系大企業の方が高いはずなのですが、それでも学生の超優秀層はベンチャーを志向していることを目の当たりにしています。

この傾向は、以前勤務していたITベンチャーでも同様でした。私が内定者フォローと新卒教育を担当していた当時のITベンチャーの新卒入社者は、ある年次では全員が同社を「卒業」しています。しかしながら、その年次の新卒入社社員は、約十年を経た今、SGで超有名グローバル企業のマネジャー、海外でベンチャーを立ち上げた方、海外有名MBAを取って某GAFAに勤務している方、という華々しい活躍ぶりです。たとえ超優秀層が退職しても、同じような活躍度合いを示す新入社員が毎年入るので企業としての活力は継続しています。日系大企業に入って、新卒十年でこのレベルに届くのは無理でしょう。

経験で考えればベンチャー・コンサル志向は合理的

学生の超優秀層が国家1種を忌避しているというニュースが少し前に話題になりましたが、今の超優秀層は、伝統的大企業をも見放しつつあるのかもしれません。これは、入社後の職務アサインメントを考えれば合理的とも言えます。学生は若い感性で、大企業の実態を直観的に理解しているのかもしれません。大企業にいる身としては、身が引き締まる思いがあります。

大企業では、制度やシステムが整備されているため、きれいに整った断片的な仕事が若手社員に与えられ、少し年上の先輩から指導されて前例踏襲的に正しく遂行することが求められます。業務上での失敗は少なく、メンタルになるリスクも少ないのでしょうが、成長は緩やかだよなという感じです。たまに超優秀層の若手社員を採用しても、現場で上司や先輩社員が持て余して若手社員を早期離職に追い込んでしまうという笑えない話も聞きます。

間接部門で考えれば、海外の現法での経験、現業部門での業務経験に恵まれれば、大企業もありでしょう。また、転職によって複数の企業で活躍が認められていれば、経験という観点では問題ないでしょう。もしそうでないならば、パナソニックの早期退職者に起きたことが、他の大企業の間接部門でも起きるのではないでしょうか。

他方で、ベンチャーでは、トップと直接やりとりをすることもザラにあります。無茶振りも多いですが、与えられる裁量は大きく、意思決定のスピードは速いし、視野も高くならざるを得ません。その分、ストレスはかかるので精神的なタフさは求められますが、成長スピードは高く、市場での評価も高まります

専門性を高めるならばコンサルという手もあるでしょう。視野の高さという点ではベンチャーに大きく劣りますが、タフなアサインメントはコンサル業界でも多く、また結果的に専門性も高まります。私は専門志向の強いタイプなので、二十歳の私が目の前にいるならば、①コンサルを第一優先、②ベンチャーを第二優先に捉えて、③大企業は勧めないだろうなと感じます。

実際の就活時の私には①と③の選択肢がありましたが、当時のゼミの恩師に相談したところ①を強く勧められ、そちらを選びました。先生は、通常は「君はどう思うの?」と禅問答になって答えてくれないのですが、その時だけは珍しく「君なら、①がいいと思うよ」と断言された記憶があり、今でも足を向けて寝られないくらい感謝しております。笑

最も言いたいこと

いろいろ書きましたが、内定式を迎えられた学生の皆様、本当におめでとうございます!

今回、内定式に出てみて、また内定者研修を二日間担当して、若くて未来のある方々のチャレンジを支援できることを私は好きなのだなと改めて実感しました。研究者という立ち位置で、私なりに支援をさせていただきたいと思ってますので、楽しみにしています。ワークショップをやりながら、前後での定量やインタビューを行って、縦断調査をしてみたいですねぇ。尾形先生が以下の研究書で詳らかにされているような、実務に役立つ研究を志たいものです。


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