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新型コロナウイルス以降のネットニュースの現場はこんな感じ

WHOがパンデミックと表明した新型コロナウイルス。世界中で感染者、死者を増やし続け、経済も混乱しつつあるが、収束のメドは一向に立っていない。昨日、日本にとって大きな懸念だった東京オリンピック・パラリンピックについて「1年程度の延期」が決定し、今後もさまざまな業種、業界に影響を与え続けることが見込まれる。

新型コロナ一色のネットニュース

影響はもちろん、われわれネットニュースの現場にも及んでいる。この流行が始まって以来、とにかく新型コロナウイルス関連の記事以外が読まれない傾向にあるのだ。自分は仕事柄、ほぼ数時間おきにYahoo!ニュースなどの大手ポータルサイトのランキングをウォッチしているが、上位は常に新型コロナか、東京オリンピックや一斉休校問題などの新型コロナから派生したニュースが占めている。もちろんそれだけ人々の関心が高く、重要度の高い情報であるため、これはまったく悪いことではない。ただ、それ以外で最近大きく話題になったのは「100日後に死ぬワニ」くらいなので、ニュースの消費サイクルが加速している現代においてはきわめて特殊な状況だといえる。

「現代人が1日に受け取る情報量は江戸時代の1年分、平安時代の一生分」という話があるが、ネットニュース編集者が1日に受け取る情報量はさらに多い。1日中ネットに張り付いて話題を探し、「いま読まれる記事」を制作したりピックアップしたりということを繰り返しているのだから当たり前だ。そしてそれがほぼ新型コロナ関連となれば、かなりつらい事態に追い込まれる。2016年にDeNAが起こしたWELQ問題以降、ネット上では医療・健康に関する記事については高い品質が求められるようになっており、一歩間違えば専門家やユーザーからの指摘によって媒体に大きく傷を付けることにも繋がりかねないからだ。

新型コロナ関連記事が増え続けるワケ

こうした状況下でも新型コロナ関連の記事を出し続ける理由は、「新型コロナ関連の記事は読まれるから」といった単純なものではない。

多くのネットニュース媒体はYahoo!ニュースやスマートニュース、LINEニュースなどの大手ポータルサイトやニュースアプリからの送客数を気にしており、各サービスの主要な面に取り上げられることを目的として記事を制作する傾向がある。そして記事の配信を受けたポータルサイトは各媒体の編集方針とは別に、「ユーザーが求めているか」、「社会的に意義があるか」という軸で取り上げる記事を選定するため、自然と掲載される記事には新型コロナ関連のものが増える。結果、媒体サイドも新型コロナに関連づけた記事を制作することにインセンティブが働くことになり、そのような記事が無尽蔵に増えていく構造となっている。だが、前述のように医療・健康に関係した記事についてはコスト・時間を含めかなり気を遣って制作する必要があり、しかも刻一刻と状況が変化するため、記事の制作にあたる編集部の消耗は避けられない。また、多数の媒体がしのぎを削っているテーマであるため、記事を出したところで競争率が高く、送客につなげることも難しいというのが実状だ。

一方、少しでも自分たちの得意なフィールドに持ち込もうとする媒体もある。ガジェット系媒体やおもしろ系の記事をメインとした媒体は、自宅で気軽に遊ぶためのアイテムやリモートワークに役立つガジェット、食事を豊かにする商品などを紹介していることも多い。言ってしまえばこれも新型コロナ関連ではあるのだが、あくまで媒体の軸はブレないようにしつつ、独自色を出すために工夫を重ねているのは間違いない。いくら新型コロナが大きな話題だからといって、先行きの見えないニュースが続けば読者も疲れてくるため、数字に直結するかどうかは別として、ニュースの多様性を担保するこうした媒体の価値は高い。個人的にも、新型コロナ一色のいまだからこそ、それとは全く違うコンテンツ制作に力を入れる媒体を応援したいと思う。

世界を揺るがすような大きな話題が発生した時は、ニュース事業に従事する人間にとっての頑張り時だ。だがそれと同時に、記事を作るのはただの人間でもある。彼らをすり減らして使い潰さないためにも、数字を稼ぐ大きな話題だけでなく、多様な記事制作が評価されるための環境が必要だろう。こうした状況に加担している1人として、今回感じた問題意識は忘れずにいたい。

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