風にゆらぐ静かな絵画たち。
ロバート・ボシシオ「BEYOND」展
104GALERIE
池尻大橋まで歩いた。
それは、私にとってはさしたる距離でもなく、
とても日常的な行為だけれども、
お金で時間を買う行いのほうが自然な忙しい人たちにとっては
不可解な行動かもしれない。
私にとっては、歩く間に、余計な考えが徐々に削ぎ落とされ、鑑賞に向かっていく感じがまたよいのだ。
週末にギャラリーをいくつも回ろうとしているときなどは、
そうもいかないことが多いのだけれど、
今回は、ロバート・ボシシオだけを見に行く。
池尻大橋へは、渋谷へ抜ける道をほぼなぞる形で向かう。
ある意味、見慣れた風景だ。
汗を掻くでもなく、ギャラリーに到着。
イメージしていたものとは少し異なって、
そこは開口部が大きく開け放たれた(もちろんコロナウィルス対策に違いない)、
何かの跡地のような空間だった。
アポイントメント制なので、名前を告げて見始める。
まぁ、外からも如何様にも見えてしまうので、
改めて、「さ、見るぞ」と意識のスイッチを入れるという感じだ。
曖昧な輪郭、あるいは分解することができない背景と主体。
深みのあるテクスチャは、
オイル、テンペラ、灰、砂、ワックス、石膏などを用いたことで
生まれるものらしい。
ボシシオが展示に寄せた短い言葉。
Beyond doors, faces, bodies and space.
Imagining and perceiving a new different, unexpected horizons.
– Robert Bosisio
ドア、顔や身体、そして空間のその先に。
不意に現れる、異なる地平線を新たに想像し、認識する。
-ロバート・ボシシオ
定まらぬ視線、意識を剥ぎ取られた肉体、
どこかパースに違和感を覚えた(私にはそう見えた)室内。
出どころの不明な光たち。
そんな感覚はどこからやってくるのだろう。
頼りのない私の考えは、絶えず入り込む空気の流れがさらっていってしまう。
できれば閉じられた空間で、ぽつねんと対話してみたかった。
そんな絵画たちだった。
ギャラリーサイトより作家プロフィール
ロバート・ボシシオは1963年、イタリア北部トローデナに生まれる。ウィーン美術アカデミー(The Academy of Fine Arts Vienna)を卒業後、ベルリン、ニューヨーク、ロンドンで活動。現在は故郷トローデナを拠点に制作を続ける。これまでに、アートセンターHugo Voeten(ベルギー/2014年)、国立美術館MUZEUL DE ARTA(ルーマニア/2010年)の他、オーストリア・ドイツ・スイス・アメリカなどで個展を開催。2011年にはベネチアのLa Fenice賞を受賞し、同年ベネチア・ビエンナーレのイタリアンパビリオンで作品を展示する。また昨年、BP Portrait Award 2020のファイナリストに選ばれるなど、世界的な評価は高い。
ボシシオの作品を数多くコレクションしている映画監督のヴィム・ヴェンダースは、長年にわたって良き理解者として交流を続けている。
104GALERIE(東京・池尻大橋)で 5月29 日(土)まで。
アポイント制
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