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「家」にことばを与え記す。

中田一会著【家を継ぎ接ぐ】 読了

実におもしろかった。
この本は、広報・PRを生業としている中田一会さんが
空き家となっていた祖父母の「家」に住むことを決めたところから始まる

ドキュメンタリーだ。
自費出版なので、ISBNもなにもない。

その「家」は避難所だという。

自分自身の、親兄弟の、親戚の、不思議な知り合いたちの。

「家」という物理的な装置があることによって、
さまざまな人たちとの、あるいは
過去の自分自身やできごととの距離感が明らかないなっていく、
そんな印象のものがたりが展開される。

それは一見、日常的なできごとを描く上質なエッセイのようであるけれど、
そこから立ち上がってくるのは、関係性の話だ、きっと。

ボンディングとブリッジング。
あるいはなかなか言い表せない寂しさや孤独と、
不意に訪れるしあわせな感覚。
それらの間を揺らぎ動く、息遣いや振る舞いの話。

人は、「家」に関わることで自らが生まれ育った家を思い

あるいはこれからつくるかもしれない、つくろうとしている家を想像し、

そこにあった(あるいは生まれる)さまざまな関係性に思いを巡らす。

中田さんとはほんの少しだけお話したことがあって、

メッセンジャーでもわずかばかりのやり取りをさせていただいた。

彼女のちょっとハスキーで、ハイトーンな声のまま読んだ。

私の生まれ育った家は、母の病的なまでの言動で
業者に売られ、
取り壊されてしまった。

取り壊しの前。何枚もの写真をその場に放置してきた。

それはゴミとなって償却されてしまったはずだ。

その家が残っていたとしたら。いずれはそこに住みたかったのだろうか。

もしその家が存在したならば、新しい関係性をつくり得ただろうか。

今となってはわからない。

今、そこには他人の家が三軒建っている。それだけが確かなことだ。

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#book #zine #中田一会 #家を継ぐ接ぐ

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