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測れない距離感の向こう側。

インスタで開催されていることを知ったムラタ有子さんの展示に伺った。
六本木通りを西麻布方面へ。けっこう歩いたところで、右に折れてすぐ。
ギャラリーサイド2。初めて伺うギャラリー。
ギャラリーには鍵が掛けられていて、インターホンを押して来訪を告げる。
すると二階からギャラリストの島田さんが下りていらして解錠してくれる。
この展示は、新作油彩画一四点と新旧ドローイング六点で構成されている。

ムラタ有子さんを拝見するのは初めてだと告げると、
基本的な情報を的確に伝えていただいた。
ムラタさんは1995年にセツモードセミナーを卒業して、
イラストレーションの仕事をしていたものの肌に合わず、作家活動に進まれたそうだ。その他にも、古いポストカードや観光パンフレットなどの既存の写真をモチーフにしていること、江戸時代中後期の画家・長沢芦雪が好きで、日本画の影響も見て取れることなどをお話いただいたと思う。
「二階にも展示があるので、後で上がってきてください」と、彼女は私に告げ、一人の時間をつくってくれた。

月夜に木に止まったフクロウがこちらを見ている

いくつかのインタビューを読んだ。
それによるとムラタさんは、言葉でコミュニケーションの取れない動物たちとの測れない距離感、通じ合えない気持ちをすくい取り、動物たちを謎の存在として扱っている。
その上で、知っているようで見たことはないかもしれない抽象的な風景の中に描いているらしい。

雪が降る中、木のそばからカモシカがこちらを伺っている

動物たちの瞳は、ただただ対象物を凝視していて、その視線は何かを意図しているような感じない。私たちもまた絵の中のその存在を見つめ続けてしまう。

小豆色の背景に、象だろうか、いや人にも見える。片方の瞳だけがどこかを見つめている

ムラタさんの絵の中の動物はフラットだ。自然の中でなにかに出くわし、警戒し、相手の一挙手一投足を逃すまいと凝視し、自らの命を守る姿。そこに人が思うような感情が入り込む余地はない。

夏の雷鳥だろうか

しかしムラタさんがインタビューに答えて「シブい世界を描きたい」と言っていることの真意はなんだろう。
私の若かりし頃、私も友人たちも〝シブい〟という単語を幾通りもの意味で口にしていたので、
ムラタさんが指し示す世界の輪郭を掴みきれない。
そう、言葉などあっても理解し合えるとは限らないのだ。

何を発するかよりもどれだけ近い距離にいるかのほうが重要なのかもしれない。

ここ数年、我が家の庭にやってきている三匹のキジトラは、絶妙の距離を取って触らせない。餌だけは当然のごとく要求し、ときに部屋に上がり込みながら、愛想鳴きの一つもしない。
眼の前に現れるこの猫たちも、依然として〝謎の存在〟のままだ。

ブルーグレイの空に、花をつけた梅の枝が幾重にも伸びている
一つだけ星が上っている夜空を野ウサギがまっすぐ見上げている
夜、フクロウがこちらを静かに見つめている
ムラタさんの絵がいくつも展示されている
トップ画像に使ったラッコが漆黒の海に浮かんでいる絵の全体像


ムラタ有子 「lonely spring」展
GALLERY SIDE 2
会期終了

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