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突然現れ、水、風に晒され、生き物の棲家となり、同化する。

第 58 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 Cosmo- Eggs| 宇宙の卵

この展示は、2019年に行われた第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」の帰国展だ。
ヴェネチア・ビエンナーレの日本館を、石橋財団の創設者である石橋正二郎が建設寄贈した歴史的つながりから、帰国展が開催されることになったという。

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」は、美術家、作曲家、人類学者、建築家という四つの異なる専門分野のアーティストが協働し、人間同士や人間と非人間の「共存」「共生」をテーマに展開されている。

ヴェネチア・ビエンナーレでの日本館展示室に比べると、90%のサイズで一部部材も変更され、 抽象化されたある種の複製になっている。

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展示の起点になっているのは、津波により海底から地上へと運びあげられた巨石「津波石」だ。
下道基行(美術家)が、石垣島で出会って以来、継続的に調査と撮影を続け、2019年にはじめて発表された映像作品《津波石》。空間をとりま く四点の津波石の映像が、固有の時間でループする。

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安野太郎(作曲家)は、12本のリコーダーを自動演奏させ《津波石》と呼応した《COMPOSITION FOR COSMO-EGGS “Singing Bird Generator”》。それは宮古島で出合ったリュ ウキュウアカショウビンという鳥の鳴き声を主なモチーフとしているという。それぞれのリコーダーの発する音は常に変化 するため、同じ演奏が二度起こることはない、生成変化を続ける音楽だ。

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石倉敏明(人類学者)は《宇宙の卵》と名づけられた、壁面に彫り込まれた神話を 創作。

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能作文徳(建築家)は《“Cosmo-Eggs|宇宙の卵”空間設計》 と題した空間をつくりだした。スクリーンに取り付けられた大きな車輪は津波石の可動性を想起させ、中央に位置するオレンジ色のバルーンは、リコーダーへと空気を送り出す。無機的な素材のオレンジの膨らみは、 卵や救命ボートなどをイメージさせ、空気を送り出す役割を担うことで、なくてはならないものであることもメッセージしているようだ。

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津波石はやがて植物に覆われ、鳥の巣となり、人が関与するようにもなる。
なぜそこにあるのか。その唐突な存在感は、
歳月とともに、地表に同化していくようだ。
その時間軸の中で物語が生まれ、音楽が重なる。

宇宙の卵は、やがてその特異性の起点が曖昧になっていくのだろう。
それは人生、事故、災害、幸福、充足…あらゆる出来事がそうであるように
抗わなければ見失っていくものだ。
命の連鎖を跨いで、さまざまなものにフォーカスし続けるには、どれだけの物語が必要なんだろう。そんなことを思った。

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【開催概要】
■会期 2020年6月23日(火)-10月25日(日) ※会期変更
■休館日 月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
■会場 5階展示室
■開館時間 10:00 — 18:00(毎週金曜日は20:00まで←当面の間、中止)
※入館は閉館の30分前まで

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