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土曜ソリトンSide-B : あれから20年⑥

その6:僕と教授とテイ君のこと - part1

 その日、「土曜ソリトンSide-B」の収録現場は、それまでとは違う緊張感と興奮に包まれていた。坂本龍一さんがゲストでやってくるのだ。

 坂本さんの出演した回のサイドBはそれまででもっとも高い視聴率を記録した。番組中、カラオケでは水原弘の「黒い花びら」を歌うというレアなエピソードが坂本さん自らの口から語られると、翌日の某全国紙朝刊の「天声人語」的なコラム(実際にどの新聞だったかは失念)に「坂本龍一のカラオケの十八番は「黒い花びら」だと知る」という一文が載せられ、その影響力の強さに驚いた記憶がある。

 他のチルドレン同様、僕も「YMOの通信教育を受けて育った」話は前回も触れた。その「教育」の中心人物は文字通り「坂本教授」だったのは間違いない。(そして21世紀の現在もETVでは「schola 坂本龍一 音楽の学校」が続いているのだ)「YOU」の流れを汲んだ番組であるソリトンのスタッフにも、当然その通信教育の「受講生」が多数いた。スタジオがざわざわするのも当然である。

 高校生の頃、一番印象に残っている「授業」はやはり坂本教授によるNHK-FMの「サウンドストリート」だった。XTCもスロビング・グリッスルもイーノも、サウンドストリートで初めて聴いた。中でも、アマチュアの投稿作品をオンエアして寸評するデモテープコーナーは一番気になる特集だった。僕も応募したかったのだが、自分で納得の行く作品が出来なくて結局当時は出せずじまい。先日あの頃の録音を聞き返したら、案外悪くなかったけれど。(高3のときに作ったYMO「中国女」のアコギによるカヴァーをyoutubeにあげてみたぜ

 そのデモテープコーナーである日オンエアされた、僕と同い年の「18歳の予備校生」の作品には衝撃を受けた。当時プロの作品でもあまり耳にしなかったサンプリングのコラージュによって作られたその質感は他の誰とも違う異彩を放っていた。「テイ・トウワ」という芸名のような名前もやけに印象に残った。以来「テイ・トウワ」は僕の仮想ライバルとなった(笑)それから数年経ってDeee Liteのメンバーにテイ・トウワの名前を発見した時の衝撃たるや。→ その話をソリトンのテイ君がゲストの回にしたら緒川たまきさんに「男の子って、いいですね〜」と軽くあしらわれたのを思い出した…

 そんなわけで一方的に恩義を感じていた坂本さんと一方的にライバルだと思っていたテイ君。共に面識はデビュー直後からあったが、ソリトン前年の1994年に初めて一緒に作品を作ることになった。坂本龍一さんの「Sweet Revenge」へのボーカル・ギターでの参加。そしてテイ君の「Luv Connection」へのギターとエレキシタールでの参加。そして坂本さんプロデュースによる僕の「夢の中で会えるでしょう」。さらには、坂本さんのワールドツアーへのギタリストとしての参加。その邂逅は、それまでのポップシンガーとしての活動からシフトして現在の僕の活動につながっていく源流でもあったことに、今になって気がついたのだった。

(続く)
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※矢野さんと細野さんゲストの回・ダイジェスト映像



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