【実話】あの建物の向こう半分は涼しい
なぜ涼しいのかいつも分からなかったこと。
詳細は省く。
昔、仕事で勤務していた施設のうちの一棟、その建物は、一階の向こう半分がいつも夏でも奇妙に涼しかった。
どうせ北側にでもあるんじゃないの、という人もあるかもしれないが、方角的には、その涼しいブロックはむしろ南西に位置していたし、ほかの棟の同じような向きに建った一階はそうでもなかったということを告げておきたい。
何が起きた訳でもない。
ありがちな話だ。
その建物向こうの端には霊安室があった。
霊安室が存在することを知っている人間は、その棟に勤務する人間ですら少なく、その部屋はもう長いことその目的で使われたことはなかったのに、何故私がそれを知っているのかというと、まさに仕事の絡みで、施設設備の設計図を見る機会があったからだ。
普段は物置に使われていたあの部屋が霊安室であったことを、その時初めて知った。
無機質に掲示された部屋の入り口のプレートは、白い塗料で、おそらく「霊安室」という単語を塗り潰されて分からなくしてあったのだ。
まあ、建築学的に言っても、常識から判断しても、そんな理由で涼しいはずはないと言いたいが、実際、あの棟の向こう半分はいつも涼しかった。
夏でも寒いほどに。
そして何故か、少しだけ薄暗かった。
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